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俺、桐生燈夜は久々に朝早くから起きた。学校に行くのでは無く、今日は大事な日である。そう、デートだ。相手は佳音だ。埋め合わせとかてきとうに言っていたら、デートすることになった。というわけで、半袖に白ティーに黒シャツ、そしてシルバーのネックレスと気合いのいれた格好をしている。今日は映画を見て、ご飯を食べて買い物する予定だ。ちゃんと、リードしないと……。


 待ち合わせ時間の三十分前に到着すると、既に佳音は待っていた。


「おはよ、早いな」


「お……お、お、おはよう。い……今来たところ、だよ」


 手には本を持っており、額には長時間外にいた事により出来た汗の跡がある。これを見るからに、今来たはないだろう。


「嘘が下手だと、うちの学校では大変だぞ」


「そうなんだよねー。嘘は昔から下手とか言われてるよ。四月の課題も燈夜くんが居ないと危なかったしね」


 俺は何故、こいつを生かしているのだろう? 嘘が付けない奴なんて、一番役に立たない筈なのに何故……。


「どうかした?」


「いや、何でもないよ」


 あんまり、考え過ぎると良くない。この感情については、後で考えよう。その時間はいくらでもある。


「じゃあ、チケット買いに行こっか」


「うん」


 どの映画を見るかは重要だ。デートだから、恋愛映画にするのか、名作のアニメ映画にするのか、ノーマルスクールらしく騙しあいの話にするのか……。どれが正解なのだろう? 誰か教えてくれ。


「私、これ見たい」


 佳音が指さしたのは、恋愛映画だった。


「うん、じゃあ、席を選ぶか」


 映画を見る時は、もう一人の好みに合わせるのが、正解。席は真ん中の後ろらへんだけど、後ろ過ぎないベストポジションを選んだ。


「三時からだね」


「結構、時間あるな」


 平静を装っているが、結構やばい。いきなり、予想外だった。映画が最後となると、映画に関係するとこに行く予定が潰れた。どうする、こんなピンチも抜けられなかったら、これから厳しいぞ。


「夏服選んでいい?」


 ナイス意見。


「おう、じゃあ、行くか」


 昨日の調べで値段は気にせず、オシャレな服屋を探した筈だ。頭の中で瞬時にリストアップして、近くのを見つけた。


「いいとこあるよ」


 服だけでなく、オシャレな雑貨もあるという完璧なお店だった。


「値段、大丈夫かな?」


「大丈夫大丈夫、俺らは給料が出てるもんな」


「そっか、これまでとはお金の使い方変わってくるよね。うーん、中々貧乏性が抜けなさそうだよ」


 服装を見る限り、貧乏性では無いと思う。別に高級ブランドを使っている訳では無いが、そこそこの値段をする服装をしている。


「お、この服可愛い」


「半袖のパーカーか。良さそうじゃね」


「ホント?」


「ああ、パーカーは好きだよ」


「じゃあ、買おっと」


 佳音が値札を見て、驚いた表情をしている。そこには、三万円と書いてあった。ちょっと、高すぎるか……。


「うん、ちょうどいい値段だね」


 ちょうどいい? 本当に高校生か? 俺ってもしかして貧乏性だったのか? なんだか怖くなってきた。


「ちょっと、試着してくるね」


「おっけ。外で待ってるな」


 試着室の前に行くと急に服を引っ張られて、試着室の中に押し込まれた。……何事だ?ってむ……胸が……。


「あの、状況説明の前に着ようぜ」


「え……」


 佳音の顔は段々赤くなっていく。


「ばか!」


 顔を叩かれてしまった。


「ひでえ」


 ごちです。


「目を閉じて後ろを向いて、耳を塞いで」


「え? 耳いる?」


「うん、絶対だよ!」


「まあ、いいけど……」


 言われた通り、目を閉じて後ろを向いて、耳を塞いでいると服を着ているような脱いでいるような音が聞こえてきた。


「いい……よ」


「う……うん」


 よし、振り返るぞ。見ると、ティーシャツの上からパーカーを着て、顔を赤くしている佳音がいた。


「どこに恥じらう要素があった」


「だって……見られてたじゃん」


「そんなことより、なんで俺は試着室に押し込まれたの?」


 まだ、その理由が分かっていない。着替え途中に俺を引っ張り込むなら、それなりの理由があるのだろう。


「妹が多分、居る」


「妹?」


「そうそう、声が聞こえてきたから、つい引っ張りこんじゃった、ごめん。妹に見られるのは恥ずかしい」


「試着室から聞こえた声で確証はあるのか?」


「うん、私、五感には自信があるからね」


 五感が優れているのは『特殊諜報員』にとって必要だろう。そもそも、人を騙せるだけでは、優秀な『特殊諜報員』にはなれない筈だ。他のスキルはどこかで身につける機会があるのだろうか。


「それで、どうするんだ?」


「妹が居なくなるのを待つしかないよね」


「やっぱ、そうなるかー」


「あれ、あそこの試着室、二人入ってない?足が二つ見えるよ。カップルでも入ってんのかな?」


 カップルじゃないけど、誤解はされるだろう。


「(燈夜くん、今話しているのが、私の妹)」


 佳音が小声で話しかけてくる。外にバレたら大変だ。寄りによって、一番バレたくないところだろう。


「(静かにしとくか)」


「(うん)」


「佳凛、そんなラブコメ展開あるわけないじゃん。どうそ、女子が二人で入ってるだけだって」


 ナイス、友達さん。でも、ラブコメ展開はあったんだよ。


「えー、まあ、いっか。隣の店見に行こ」


「行こいこ」


 よし、行ったか。


「(大丈夫かな?)」


「(うん、佳凛も行ったっぽいし、外に出てみる?)」


 出ていこうとすると……。


「と見せかけて、残ってみる?」


「ちょっと、佳凛。悪趣味だって。早く行くよ」


「えー、リナは気にならないの?」


「うん、赤の他人の恋愛は興味無いな。じゃあ、佳凛の好きな人教えてくれるなら、残っててあげるよ」


「え……え……い、いないから。ほら、行くよ」


「はいはい」


 今度こそ、大丈夫だろう。


「(あと一分したら、出ていこ)」


「(分かった、そのあとお会計行くね)」


 それから、一分後無事に見つからずにパーカーを買うことが出来た。危なかったー。それにしてもパーカーは可愛かったな。


 それからしばらく、雑貨屋とかを見て回った。


「お腹、空いたなあ」


 ここら辺でいい感じのお店は……


「そこのバンケーキ食べたい!」


「うん、行こっか」


 俺は自分の意見をあっさり、消し去った。


「美味しー」


「うん、美味しい」


 お世辞じゃなくて、実際に美味しい。自分で作るパンケーキはぺったんこだが、お店のはやはり、ふっくらしている。


「あ、お姉ちゃん」


「え……佳凛!」


 パンケーキを食べていると、佳音の妹と思われる人が来ていた。


「あ、こんにちは。紺野佳凛です。これからも、お姉ちゃんをよろしくお願いします。お姉ちゃんの彼氏さんですか?」


「ち……違うから! 佳凛、何言ってるの」


「まあ、お姉ちゃんにこんなイケメン似合わないか。あ、そこのお店私もさっき行ってきたよ」


「そ……そうなんだ」


 まあ、知っているとは言えないよな。


「そうそう、そこで試着室に二人で入っている人がいたんだけど、カップルかな? お姉ちゃんはどう思う?」


 まさか、自分と言える訳ないだろう。


「と……友達なんじゃないかな」


 とで言いかけたのが、燈夜くんじゃないことを願う。こんな感じだと、この先かなり怖いことになりそうだ。


「佳凛、どこ行ってんの?」


「ごめん、ごめん。お姉ちゃんを見つけたから、声をかけに行ってた。しかもイケメンの友達連れてるんだよ」


「あ、こんにちは。いつも佳凛さんには世話を焼かれています」


「いつも、ありがとうね」


 なんか、会話おかしくね?


「リナ、酷い」


「ごめん、十分の一くらい冗談だよ」


「それって、ほとんど本音だよね!」


 まあ、仲良さそうにどこかへ行った。


「ふー、佳凛にバレるかと思った」


「かなり、危なかったぞ」


「だよね。なんで同じとこにいるのかな?」


「姉妹だからじゃない」


「そういうの本当にあるんだね」


 まあ、俺は姉と行くところはあまり、被らない。


「燈夜くん、アーン」


 アーン?


「ちょっと、恥ずかしいから、早く」


「恥ずかしいなら、するなよ」


 こっちも恥ずかしいのだが。


「はーやーく」


「ん」


 食いつきながら、返事をする。パンケーキ以上に雰囲気が甘い。妹さんに見られていないのが、不幸中の幸いだ。不幸なのか? いや、幸い中の幸い?


 ダラダラしていると、映画の時間が近づいてきていた。


「ちょっと、トイレ行ってくるね」


 今のうちに会計しとくか。伝票持って行って、会計しに行くと、値段の高さに驚かされた。こんなにパンケーキ高いっけ?


「え……もう、会計終わったの?」


「うん。ついさっきね」


「いくらだった?」


 とにかく高かったです。


「いやいや、俺が払うよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて。今度何か奢るね」


「いーよいーよ」

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