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翌日の朝、いつも通り七時に目が覚めた。御園にメッセージを送って、朝風呂に入る。風呂に入るときは、何も考えなくて楽だ。今日これから起こること、起こすことが何かを考えるのは、風呂をあがってからでいい。退屈なテレビ番組を見ながら、朝食を食べる。フルーツとヨーグルトとオレンジジュースという不健康そうな朝食を食べて、頭の整理をする。今回のイベントのルールはこうだ。




 一:十一時に食堂集合。


 二:好きな五人以上八人以下のグループを組んで、『ダウト』をしてもらう。ダウトのルールは別紙参考。


 三:ゲーム終了時、最下位は一位に一ライフ譲渡しなければならない。ライフの譲渡は先生が処理してくれる。


 四:イベントの一位になった数が一番多い人が、イベントの一位となる。ルールに基づきイベントの一位は百ライフ得られる。


 五:途中退場は大丈夫


 六:トランプは一人一回シャッフルできる。


 七:全員同じクラスのグループは禁止




 このルールには、俺を陥れるルールはない筈だ。食堂に付けた監視カメラで、誰が嘘をついたかを見破って、密告するというのが、俺らの作戦だ。この方法だと上手く行けば二百近いライフが稼げるだろう。


 寮に着くと、既に御園に頼んでおいていた未開封のトランプは、全てのトランプがテーブルにセットされていた。集まっている人数は、三十二人くらいだ。想定よりも少し少なかった。それでも、ある程度は稼げるだろう。


「おい、主催者。進行しろよ」


 御園が女子を連れて近づいて来た。


「そいつは?」


「山口杏奈。この金髪にナンパ(脅し)されて着いてきた」


「どっちでもねえよ。お前のことをかってるから、誘っただけだっつーの。変な誤解を生むようなことを言うな」


「でも、私から見たらナンパか脅し……だった」


「んだよ、その間は」


 まあ、よく分からんやつが味方だということか。


「俺らは優勝するようにして、賞金誤魔化すから、よろしく。杏奈、ちょっと、飲み物買いに行こうぜ」


「この人、私と二人で抜け出して、あんなことやこんなことを……」


「しねーよ」


 俺が一言も喋ることも無く、立ち去っていった。仲が良さそうで何よりです。そろそろ俺も仕事しねえと。


「本日はこんな小さなイベントにお集まりいただきまして、ありがとうございます。一年生だけしか呼びませんでしたが、盛り上がることを期待しています。ルールは事前に配布されている紙通りです。質問等はありますか?」


「ライフの譲渡って可能なのですか?」


「はい、そりゃあ、勿論。一試合ごとに寮の管理室にいる紀先生のところで、手続きしたら可能です。」


「一位への百ライフはどこから出るんですか?」


「それは、後日、学校側が出してくれます。おそらく、ゴールデンウィークが終わった頃になると思います」


 口からホイホイ嘘が出てくる。それを正当化するのは、この学校の制度だけである。人を騙せ。但し、失敗に注意。




 俺、御園虎羽は桐生燈夜に興味が湧いたから組むことにした。かなり疑われているようだが、裏切るつもりは全くない。信用出来て、この学校で生き残れそうなやつと組むことが大事だと考えている。桐生のように雑魚を捨ててく考えは共感は出来ないが、納得はできる。だから、どうか桐生には俺の期待を裏切らないで欲しい。


「ねえ、さっさと決めて。それとも……やっぱり、飲み物を買いに行くのは口実で、狙いは私なの?」


「んなわけねえだろ」


 杏奈に急かされて、ブラックのコーヒーを買った。


「コーヒー、ブラックなんだ。見栄っ張り?」


「甘いのは、飲めねえんだよ」


「へー、大人だ。私は微糖派」


 そう言って、俺の残ったお金で微糖のコーヒーを買う。


「おい。何、俺の金使ってんだよ、殺すぞ」


「はい、ダウト。私を殺すか密告されるか、どっちがいい?」


「てめぇ」


 嵌められた……。


「冗談、その代わり微糖のコーヒーは奢りね」


「クソ、俺の奢りにしといてやるよ」


 相変わらず食えないやつである。




 こいつが凄いやつと分かったのは、桐生に協力を持ちかける前日のことである。俺が寮に帰ろうとしていると、きのせんに近づく山口杏奈を見た。


「裏ルールのことで話がある。ちょっと、待って」


 いつもと変わらぬ口調の山口杏奈は、きのせんに話しかけた。


「どうしたー?」


「裏ルールって一章につき、一つじゃないでしょ。ホントは何個なの? 一ライフ払ってあげるから教えて」


「おー、君は気づいていたんだ。裏ルールとルールを合計したら、一章につきちょうど十個だよ」


「ありがと、さよなら」


「あっさりしてるねー、また明日ね」


 山口杏奈は振り向かずにきのせんから、遠ざかって行った。


「おい、山口。お前すげえな。俺と組まねえか」


「誰? ストーカー? 警察と理事長、どっちがいい?」


「ストーカーで確定させるのやめろ」


「違うの?」


「こんなロリ、興味ない」


「ロリじゃない。ちゃんと十五歳。胸もこんなにある」


「あっそ。お前は凄いやつだと思う。だから、俺と組め」


「えー、めんどくさい」


「ライフを一日で稼がせてやる。それなら、どうだ?」


 全く方法を考えてないのに、つい口走ってしまった。


「なら、いい。明日の朝、部屋に来て」


「分かった」


 今日は徹夜で稼げる方法を考えねえとな。




「私をしみじみと眺めて、どうした?」


「見てねえよ」


「そ、なら、一昨日の徹夜がひびいてる?」


「な……」


 知ってたのかよ。


「図星(笑)」


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと戻るぞ」


「ん」


 俺らの作戦はお互いをダウトしないのは当然で、次に知り合いじゃない振りをする。最後に俺ら以外で同じクラスで固められているグループに入るようにする。この三つだ。同じクラスのグループは油断して、嘘をつきやすくなるだろう。


「なあ、お前らグループ組まねえか」


「え……いいけど」


「私も入れて」


「どうぞ、どうぞ、入ってください」


 対応の差が激しすぎんだろ。結果、俺ら以外が同じのクラスの八人グループに入った。あとは、杏奈の実力を拝見するとするか。


 試合開始から、五分。杏奈のカードは残り一枚。俺は下から三番目。基本、俺がダウトをして、杏奈は安全に減らしていく、戦法だ。ちなみに、杏奈は一回もダウトされてない。なんなんだよ、このグループ。ロリコン集団め。おかげで俺も杏奈をダウトしていなくても、疑われない。俺はロリコンじゃねええええ。


「はい、ラスト、終わり。最下位になりたいなら、ダウトしてもいいよ。いないなら、私が一番ね」


「どうぞどうぞ」


 巫山戯んなあ。まあ、俺たちにとっては好都合だけどな。


「すみません、もう一試合しませんか」


「え?」


「あなたともっと、やりたいです」


「ストーカー?」


「う……。とにかく、お願いします」


「まあ、いいけど」


 この後、俺らはこの後、こいつらから、ライフを根こそぎ奪った。なのに、こいつらはありがとうございました。と言ってイベント会場から抜けていった。気持ちわりい。でも、ちょうどいっか。


「虎羽、役立たず。全て私の勝利」


「お前のストーカーのおかげだろ。このまま行くと恐らく、杏奈は一位で終われるぞ。残り時間もあと一試合分だ」


「もちろん、ラストも一位とる」


 このまま行ければいいんだけどな。


「あの娘、可愛い」


 杏奈の見た先には、さっきと同じグループのクラスの人五人と違うクラスの人の女の子が一人いた。杏奈が可愛いと言ったのは、恐らくこいつだろう。


「あのグループに行くか」


「もしかして、一目惚れ?」


「違えよ。違うクラスが一人いるけど、条件にあうだろ」


 俺らは早速、あのグループに入ることにした。


「なあ、入れてくれねえか?」


「いいですよ、そこの子も入りますか?」


「うん、よろしく」


 杏奈を味方と気づけないなら、こいつらは大したことがないだろう。だから、余裕で一位を取れるだろう。


「それじゃあ、始めますか」


 さっきのアホ共と違って、女子も数人混ざっているから、ダウトの回数は増えてくるだろう。だから、なるべく嘘をつかないことが大事だろう。一人一回ずつシャッフルをしてると、一人別のクラスの女子はトランプを落とした。


「すいません。ちょっと、緊張してしまいまして」


「大丈夫ですよ」


 俺以外の人はフォローする。


「一」


「二」


 三番目なのに三がない。しかし、まだ数は少ない。とりあえず、続かない。四はあったので出しておく。


「三」


「ダウト」


 一人違うクラスの女子は平然と言った。


「チッ、正解だよ」


 三枚なら全然問題ない筈だ。


「ダウト」


「ダウト」


「ダウト」


 その後も三回連続、この女子はダウトを成功させた。何かおかしい……。流石に全てを見抜ける訳がないだろう。戸惑いや顔で判別出来ないレベルに正確だ。まさか……イカサマ? なら、どうやって?


「カードカウンティング……」


 杏奈が徐に言った。ルール通り八人がシャッフルした、全てのカードを覚えるのは不可能だろ。そもそも開封済みのトランプなら最初の順番がわかるはずが無い。


「目敏いですね。シャッフルをじっくりしていたのを見ていましたか。しかし、今更何をしても誰が何を持っているかは把握しています」


「開封済みのトランプでカードカウンティングは不可能だろ」


「これ、開封したのは、このゲームから。それまで、このトランプは使われていない。だから、やばい人なら出来ないことも無い。でも、この人はシャッフル中にトランプを落とした。だから、おそらくその時にカードを把握して、少ししか混ぜてない。つまり、絶望的。でも、だから面白いかも」


 やっぱり、杏奈はすげえ。


「そこまで、バレていましたか。同じクラスの人には、参加人数を減らしてもらって、ここの台は使わないで貰っていたんです」


「巫山戯んな。そんなのイカサマだろ」


 他のクラスの人が抗議した。


「ルール違反は全くしてませんけど?」


 それもその通りである。じゃあこっから、逆転するにはどうする?ここで絶望しているやつはゴミだ。こういう状況でも絶望しない、杏奈みたいなやつと俺は仲間になりたい。そのためには、俺もこの状況を打破する方法を考える力を身につけなければならない。


 イカサマされたら、どうする?


 答え:イカサマを逆用する。


 次は俺の番だ。七は持っているが、あえて出さない。ここら辺で一を出す。そしたら、カードの把握は失敗する。


「七」


「ダウト」


「な……何故だ?」


「すいません、さっきのは嘘です。私は他人の嘘は簡単に見抜けますので、このゲームは私の必勝ですよ」


 流石に勝てねえか……。


「嘘つき、ダウトしたのは虎羽のイカサマの逆用を見抜いたから、失敗してもたった、一枚の損失しかない。だから、ブラフで牽制しただけ」


「ふふ、本当に嘘を見抜けるかも知れませんよ」


「なら、私の嘘にも気づいていないとおかしい」


 杏奈はいつ嘘なんてついたのだろうか。俺には気づかないタイミングか、もしかはこれもブラフなのか。


「まあ、このくらいにしといてあげましょう。不良さんには、優秀な助手さんがついているようですね」


 てことは、嘘が見抜けるのは嘘ってことか。でも、どうやったら……。今のとこ、杏奈以外に勝ち筋が見えない。


「七」


 杏奈の時に、誰もダウトしなければいいのだろう。そしたら、順番の早い杏奈があの女子に勝てる。


「え……あ、虎羽」


 杏奈は俺に何かを任せようとした。それは、何だ?クソ、分かんねえ。


「もう遅いですよ、八を三枚出します」


 三枚?一枚は俺が持っているから、ダウトの可能性は高い。もしかしたら、杏奈にはそれが分かっていたのかよ?


「ダウト」


「ふふ、宣言失敗ですよ」


 本当に八が三枚だった。


「は?」


 八が三枚あった下には、Jがあった。


「虎羽、私をダウトしろってこと。時間足りなかった。ごめん。判断が遅かった私のミス。次からは気をつける」


 つまり、あの女子は八を三枚捨てるために、杏奈の嘘を見逃したということか。つまり、自分が出せるようにカードをコントロールしようとしている。なら、そこら辺を崩すしかないのか。あの女ぶっ潰す。


 しかしこの後、何をしても勝てなかった。俺と杏奈は出せないカードが回るようにして、ダウトされた。最下位は免れたが、この試合はあの女の一人勝ちだ。


「てめえ、名前何だよ?」


「貴方とはもう、会うことはないと思いますけど、一応名乗っておきましょう。私は神宮寺小雪じんぐうじこゆきですよ」


「あ? またぜってえ会うぞ。次のイベントの時には、ぶっ潰しに行くからな。俺のこと、よく覚えとけよ」


「ついでに私もね」


「そんな機会があるといいですね」


 神宮寺は意味深なことを言って、帰って行った。


「私たち一位かな?」


「神宮寺は?」


「私たちの方がペース早い。ストーカー弱すぎて笑えた」


 確かに、それなら一位が取れているかもしれねえが、神宮寺にボロ負けして一位をとるってのも気に食わねえ。


「気にしない、気にしない。次は勝つ。私が」


「あ? 俺だよ」


「じゃあ、二人で?」


「まあ、そうだな。悪くねえ」


 最初からこのつもりだったな。イベントの一位は無事に取れたので、俺達の嘘はバレなかった。

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