5
今日はゴールデンウィークの前日だ。俺、桐生燈夜は珍しく真剣に悩んでいた。明日からのゴールデンウィークで遊ぶには人数が少なすぎることだ。この学校の制度の問題で他クラスとの関わりは少ない。自分のクラスで遊ぶにしても、まともに遊びそうな人が少なくて話にならない。
「北村、ゴールデンウィーク暇か?」
「暇な訳ないじゃないか。ゴールデンウィーク明けはテストだぞ。そもそも俺はお前のことが嫌いだ。この前のリストラは目に余る。」
これも遊べない原因の一つだ。
「別にお前は退学しなかったから、いいだろ。成績だけ良い馬鹿かと思ってたが、ちゃんと俺の考えをよめたんだな」
「何を言っている? お前の考えなんてよめる訳ないだろ。俺は退学する可能性があるから、密告なんてしなかっただけだ」
は……? こいつ……
「つまんねえ奴。次、退学になるのはお前だな」
「馬鹿なことを言うな。俺は上クラスで卒業するから、問題ない。お前は退学しなかったら、上クラスで卒業出来るぞ。俺に感謝しろ」
勘違い野郎おつ。
「あっそ」
他の六人と不知火に期待するか……。
「なあ、不知火」
「どうしたの、桐生くん?」
「なんで俺の言うことを聞いたんだ?」
不知火には佳音が俺を信じるように言っていたのだが、ちゃんとやってくれるという保証は全くなかった。
「どちらにしろ良くないことが起こるから、のんのんのいる未来を選んだだけだよ。それじゃ、ダメ?」
「どちらにしろ良くないことが起こる?」
リストラは成功した筈だ。
「うん、そのうち思い知ることになるよ」
そう言い捨てて不知火は佳音の所に戻ってしまった。あいつには、何が見えていてなにを考えているかが分からない。だから、不知火の意見はおそらく自分にとって参考になると思っている。
「桐生、ゴールデンウィーク暇か?」
「御園虎羽だっけ?」
こいつは、ちゃんと俺の考えをよんだ人であって欲しい。金髪にピアスの不良とか頭悪そうなんだけどな……。
「リストラ作戦か。面白ぇじゃねぇかよ。俺はお前に興味をもった。これからは仲良くやろうぜ」
「ああ、よろしくな。それで、ゴールデンウィークは普通に遊びたいのか?それとも何かあるのか?」
「ゴールデンウィークはな、寮生狩りをしようと思ってるんだよ。だから、それを手伝いをしろ」
寮生狩りか……。
「悪くないな。手伝うぞ。その代わりに寮則を説明しろ。そして、先生を間において確認させろ」
もしかしたら、俺を騙すための罠かもしれない。
「用心深けぇな。まあ、分かった」
「今日の放課後によろしくな」
御園虎羽という人間は、頭が切れるのか、俺と真面目に組む気なのか、その二つをこのゴールデンウィーク中にハッキリさせるつもりだ。場合によったら、退学させることまで視野にいれるつもりだ。
帰りのホームルームの時間になった。キノコ先生がいつもみたいに面倒くさそうな表情で、教室に入ってきた。
「はーい、明日からゴールデンウィークですー。ゴールデンウィークの宿題はありませーん。でも、ここで五月の課題を発表をしますー。今月は、密告することが、課題ですー。一位にはシルバーライフ、最下位はマイナス五ライフで、密告を一回でもしたら、プラス一ライフですー。頑張ってねー」
いつものようにクソみたいに真面目な顔をした北村が、手を挙げて質問しようとしている。質問する前に考えたら分かるだろ。
「シルバーライフってなんですか?」
「北村くんー、愚かだねー。そんなの教える訳ないじゃん。ちゃんと、十ライフ使用して裏ルール買ったらー」
ここまで毒舌だったっけ?
「クッ……分かりました」
「じゃあ、またねー」
この人直ぐに帰ろうとするから、捕まえるの大変なんだよな。教室を一番に抜けて、大声で呼び止めた。
「キノコせんせー」
「どしたー?」
「この後、少し時間をいただいても大丈夫ですか?」
「えー、まあ、わかったよー。その代わり、急いでねー」
この先生はなんやかんやで、話は聞いてくれる。もうちょっと、真面目に働くべきだと思うけどな……。
「よう、桐生。アポはとれたのか?」
「ああ、居るなら自分でアポとって欲しかったけどな」
「桐生はお気に入りみたいだからな、その方が確実性があるだろ」
別に気に入られてるつもりはないんだけどな。
「燈夜くん」
後ろから肩を叩かれたので、振り返ると佳音がいた。
「今日、一緒に帰れる?」
「ごめん、これから御園と用事があるんだ。その代わりゴールデンウィークで埋め合わせするから」
「ホント! じゃあ、今日の夜、電話かけていい?」
電話……?
「ああ、いいよ。じゃあな」
「うん、またね」
キノコ先生から急げと言われていたので、御園と一緒になるべく早く着くように職員室へと向かった。
「遅いよー」
キノコ先生は開口一番、文句を言った。
「ごめんなさい。今日はお願いがあって」
「ちょっとー、デートの約束に他の男連れてこないでよー」
「職員室でそういうこと言ってて大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、みんな、私がこんな人って理解してるしー」
まあ、そりゃあそっか。
「で?本題はー?」
「ライフの譲渡って可能ですよね」
「「え……」」
両者、これには驚いているみたいだ。生徒間の情報交換が可能なら、ライフの譲渡は必須だろう。
「なんで……まあ、可能だけど。どうしたいの?」
キノコ先生のいつもの間延びした話し方が戻ってるから、いつもより真面目に話を聞いてくれているみたいだ。
「俺から御園に一ライフ譲渡するので、寮則を教えてもらいます。だから、その確認役をお願いします」
「ちょっと待て、裏ルールは一章につき一つじゃなかったのか?ライフの章は、シルバーライフだろ」
なんだ、御園はこっちには気づいていなかったか。
「先生はその後、無料の情報の信憑性が低いと言っていた。だから、あの情報は嘘の可能性が高いし、あの日のことは全て嘘の可能性だってある」
「このあま、こんな面して立派な詐欺師じゃねえかよ」
『特殊諜報員』を育成しているのなら、このくらい朝飯前だろう。
「ちょっと、御園くん。酷い言われようだけど、それは置いとくね。だから、さっさと寮則の説明をして」
「わかったよ、せかすなよ。寮則は三つ。一つ目は寮生はテストで全員で、同盟を組める。同盟とは、テストのペアと同じ仕組みである。二つ目は寮に通学生が入るには、一ライフ必要である。三つ目は寮の共有スペースでは、ルールの一章が適用される。て、書いてあるぞ」
なるほど……。寮生同盟とは、恐ろしいな。
「共用スペースってなんだ?」
「多くの人は、共有談話室と書かれた部屋だと思っている。ここだけ、学校並みに監視カメラが付いているからな」
なるほど……
「つまり、御園は違う可能性があると思っているんだな。共有されている部屋は全て共有スペースだと、考えているということか?」
「惜しいな。可能性じゃなくて、確証だ。キノコに一ライフ払って、共有スペースの確認を取った。その結果、個室以外は全て共有スペースだった。だから、そのどこかで仕掛ける」
「ちょっと、先生をつけてよ」
「へいへい、きのせん」
「キノコ先生、共有スペースの話はホントですか? 一ライフ払います」
「ホントだよー。ライフの手続きはこっちでしとくねー」
間延びした話し方が戻ったから、恐らくもう話が終わったことを理解したのだろう。先生の前ではな。
「御園、俺の家来ないか?」
「ああ、分かった」
これからの作戦は人の少ないところでするべきだろう。
俺の家に着くと、既に車が一台帰ってきていた。
「ただいま」
「お、燈夜、おかえり」
もう、ゴールデンウィークが始まっているらしい大学生の姉が、リビングのソファで本を読んでいた。
「お邪魔します」
御園が礼儀正しい!
「こんにちは、お茶とお菓子持っていくね。ゆっくりしてってね」
「大丈夫大丈夫、そんくらい自分でやるから」
「そう? なんかあったら、呼んでね」
「はいはい」
適当にジュースとクッキーを自室に持って行った。
「御園って礼儀正しいんだな?」
「あ? 初対面の人には、礼儀正しくするのが常識だろ」
「キノコ先生は?」
「あいつは、いつも一緒にいるだろ」
「まあ、それもそうか」
……そうなのか? 自分で言っておいて疑問に思った。
「本題に入るぞ、お前はまだ百ライフ貯めてるよな?」
「まあ、一応、貯めているけど?」
「寮の掲示板に嘘のイベント告知を貼る。場所は食堂、競技はダウトだ」
ダウトのルールを簡単に説明すると、次のような感じだ。
カードをシャッフルし、全員に均等に配ります。
一人ずつ、カードを裏向きにして場に出していきます。カードは一→二→三→……十二→十三→一……の順番で出すきまりなので、一番目のプレイヤーは「一」と言って、カードを出しましょう。
四番目のプレイヤーなら「四」と言ってカードを出します。順番どおりのカードを持っていなかった場合、ほかのカードをこっそり出してしまいましょう。
カードが出されるたび、ほかのプレイヤーは順番どおりのカードかどうかを見きわめます。「このカードは違う」と思ったら、「ダウト」と宣言しましょう。
宣言があれば、実際にカードをめくって確かめます。
もし順番と異なるカードが出されていたら、ウソを見破られたプレイヤーにペナルティがあります。場のカードをすべて、手札に足さなくてはなりません。
カードを同時に二枚以上出していた場合、一枚でも異なるカードがあればウソになります。逆にバレなければ問題ないです。
逆に、順番どおりのカードがきちんと出されていた場合は、「ダウト」と宣言したプレイヤーが場のカードをすべて手札に足すことになります。
誰も宣言せず、次のプレイヤーがカードを出したら、順番は次のプレイヤーへと進みます。
この場合、カードは裏向きのままで見ることができません。
この流れをくり返し、誰か一人でも手札がなくなったらゲーム終了です。最初に手札がなくなったプレイヤーが一位、あとは手札の少ない順に二位、三位、四位……と順位が決まります。
「つまり、まとめて密告したら、ぼろ儲けって事だな」
「そーゆー事だ。上手く行けば、殆どの人を退学にできる」
それにしても、よく考えられている作戦だな。今月の課題ともマッチしていて、今月の課題は恐らく一位を取れるだろう。
「早速、明日やるか」
「分かった。寮に朝の十時に来い。遅刻すんじゃねえぞ」
「了解」
イベントの具体的なルールは御園に任せといて、一応自分が不利にならないようにチェックだけしておいた。
「じゃあ、また明日な」
「ああ、ロビーに居とけよ」
御園は案外、早く帰って行った。
「ちょっと、燈夜。お客さん来るとか聞いてないよ。怖かったよ、あの人。燈夜も高校生になって、悪の道に染まっちゃった?」
「大丈夫大丈夫。あいつは見た目程、悪いやつではないから」
事実は知らないけど……。
「そっか。オススメの本あったら、教えてね」
「ああ、分かった」
俺の姉は文学少女ってのが、一番当てはまる表現だ。毎日のように小説やライトノベルやらを読んでいる。それに影響されて俺もたまに読むようになった。
トゥルルルトゥルルル
楽しそうな着信音が、俺のスマホから鳴った。
「もしもし」
『もしもし、燈夜くん。今大丈夫?』
電話をかけてきたのは佳音だった。
「ああ、大丈夫だぞ」
『ゴールデンウィークって暇な日はいつか分かる?』
突然どうしたんだろう?
「明日以外なら、何時でも空いてるけど?」
『そっか、埋め合わせ期待しているね』
そういや、そんな約束もしていたな。
「あまり、過度な期待はしないでくれ」
それから、三十分程度雑談して、通話を終えた。それにしてもなんでわざわざ通話なのだろうか?
読んでくれてありがとう‼︎