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今日はゴールデンウィークの前日だ。俺、桐生燈夜は珍しく真剣に悩んでいた。明日からのゴールデンウィークで遊ぶには人数が少なすぎることだ。この学校の制度の問題で他クラスとの関わりは少ない。自分のクラスで遊ぶにしても、まともに遊びそうな人が少なくて話にならない。


「北村、ゴールデンウィーク暇か?」


「暇な訳ないじゃないか。ゴールデンウィーク明けはテストだぞ。そもそも俺はお前のことが嫌いだ。この前のリストラは目に余る。」


 これも遊べない原因の一つだ。


「別にお前は退学しなかったから、いいだろ。成績だけ良い馬鹿かと思ってたが、ちゃんと俺の考えをよめたんだな」


「何を言っている? お前の考えなんてよめる訳ないだろ。俺は退学する可能性があるから、密告なんてしなかっただけだ」


 は……? こいつ……


「つまんねえ奴。次、退学になるのはお前だな」


「馬鹿なことを言うな。俺は上クラスで卒業するから、問題ない。お前は退学しなかったら、上クラスで卒業出来るぞ。俺に感謝しろ」


 勘違い野郎おつ。


「あっそ」


 他の六人と不知火に期待するか……。


「なあ、不知火」


「どうしたの、桐生くん?」


「なんで俺の言うことを聞いたんだ?」


 不知火には佳音が俺を信じるように言っていたのだが、ちゃんとやってくれるという保証は全くなかった。


「どちらにしろ良くないことが起こるから、のんのんのいる未来を選んだだけだよ。それじゃ、ダメ?」


「どちらにしろ良くないことが起こる?」


 リストラは成功した筈だ。


「うん、そのうち思い知ることになるよ」


 そう言い捨てて不知火は佳音の所に戻ってしまった。あいつには、何が見えていてなにを考えているかが分からない。だから、不知火の意見はおそらく自分にとって参考になると思っている。


「桐生、ゴールデンウィーク暇か?」


「御園虎羽だっけ?」


 こいつは、ちゃんと俺の考えをよんだ人であって欲しい。金髪にピアスの不良とか頭悪そうなんだけどな……。


「リストラ作戦か。面白ぇじゃねぇかよ。俺はお前に興味をもった。これからは仲良くやろうぜ」


「ああ、よろしくな。それで、ゴールデンウィークは普通に遊びたいのか?それとも何かあるのか?」


「ゴールデンウィークはな、寮生狩りをしようと思ってるんだよ。だから、それを手伝いをしろ」


 寮生狩りか……。


「悪くないな。手伝うぞ。その代わりに寮則を説明しろ。そして、先生を間において確認させろ」


 もしかしたら、俺を騙すための罠かもしれない。


「用心深けぇな。まあ、分かった」


「今日の放課後によろしくな」


 御園虎羽という人間は、頭が切れるのか、俺と真面目に組む気なのか、その二つをこのゴールデンウィーク中にハッキリさせるつもりだ。場合によったら、退学させることまで視野にいれるつもりだ。


 帰りのホームルームの時間になった。キノコ先生がいつもみたいに面倒くさそうな表情で、教室に入ってきた。


「はーい、明日からゴールデンウィークですー。ゴールデンウィークの宿題はありませーん。でも、ここで五月の課題を発表をしますー。今月は、密告することが、課題ですー。一位にはシルバーライフ、最下位はマイナス五ライフで、密告を一回でもしたら、プラス一ライフですー。頑張ってねー」


 いつものようにクソみたいに真面目な顔をした北村が、手を挙げて質問しようとしている。質問する前に考えたら分かるだろ。


「シルバーライフってなんですか?」


「北村くんー、愚かだねー。そんなの教える訳ないじゃん。ちゃんと、十ライフ使用して裏ルール買ったらー」


 ここまで毒舌だったっけ?


「クッ……分かりました」


「じゃあ、またねー」


 この人直ぐに帰ろうとするから、捕まえるの大変なんだよな。教室を一番に抜けて、大声で呼び止めた。


「キノコせんせー」


「どしたー?」


「この後、少し時間をいただいても大丈夫ですか?」


「えー、まあ、わかったよー。その代わり、急いでねー」


 この先生はなんやかんやで、話は聞いてくれる。もうちょっと、真面目に働くべきだと思うけどな……。


「よう、桐生。アポはとれたのか?」


「ああ、居るなら自分でアポとって欲しかったけどな」


「桐生はお気に入りみたいだからな、その方が確実性があるだろ」


 別に気に入られてるつもりはないんだけどな。


「燈夜くん」


 後ろから肩を叩かれたので、振り返ると佳音がいた。


「今日、一緒に帰れる?」


「ごめん、これから御園と用事があるんだ。その代わりゴールデンウィークで埋め合わせするから」


「ホント! じゃあ、今日の夜、電話かけていい?」


 電話……?


「ああ、いいよ。じゃあな」


「うん、またね」


 キノコ先生から急げと言われていたので、御園と一緒になるべく早く着くように職員室へと向かった。


「遅いよー」


 キノコ先生は開口一番、文句を言った。


「ごめんなさい。今日はお願いがあって」


「ちょっとー、デートの約束に他の男連れてこないでよー」


「職員室でそういうこと言ってて大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、みんな、私がこんな人って理解してるしー」


 まあ、そりゃあそっか。


「で?本題はー?」


「ライフの譲渡って可能ですよね」


「「え……」」


 両者、これには驚いているみたいだ。生徒間の情報交換が可能なら、ライフの譲渡は必須だろう。


「なんで……まあ、可能だけど。どうしたいの?」


 キノコ先生のいつもの間延びした話し方が戻ってるから、いつもより真面目に話を聞いてくれているみたいだ。


「俺から御園に一ライフ譲渡するので、寮則を教えてもらいます。だから、その確認役をお願いします」


「ちょっと待て、裏ルールは一章につき一つじゃなかったのか?ライフの章は、シルバーライフだろ」


 なんだ、御園はこっちには気づいていなかったか。


「先生はその後、無料の情報の信憑性が低いと言っていた。だから、あの情報は嘘の可能性が高いし、あの日のことは全て嘘の可能性だってある」


「このあま、こんな面して立派な詐欺師じゃねえかよ」


『特殊諜報員』を育成しているのなら、このくらい朝飯前だろう。


「ちょっと、御園くん。酷い言われようだけど、それは置いとくね。だから、さっさと寮則の説明をして」


「わかったよ、せかすなよ。寮則は三つ。一つ目は寮生はテストで全員で、同盟を組める。同盟とは、テストのペアと同じ仕組みである。二つ目は寮に通学生が入るには、一ライフ必要である。三つ目は寮の共有スペースでは、ルールの一章が適用される。て、書いてあるぞ」


 なるほど……。寮生同盟とは、恐ろしいな。


「共用スペースってなんだ?」


「多くの人は、共有談話室と書かれた部屋だと思っている。ここだけ、学校並みに監視カメラが付いているからな」


 なるほど……


「つまり、御園は違う可能性があると思っているんだな。共有されている部屋は全て共有スペースだと、考えているということか?」


「惜しいな。可能性じゃなくて、確証だ。キノコに一ライフ払って、共有スペースの確認を取った。その結果、個室以外は全て共有スペースだった。だから、そのどこかで仕掛ける」


「ちょっと、先生をつけてよ」


「へいへい、きのせん」


「キノコ先生、共有スペースの話はホントですか? 一ライフ払います」


「ホントだよー。ライフの手続きはこっちでしとくねー」


 間延びした話し方が戻ったから、恐らくもう話が終わったことを理解したのだろう。先生の前ではな。


「御園、俺の家来ないか?」


「ああ、分かった」


 これからの作戦は人の少ないところでするべきだろう。


 俺の家に着くと、既に車が一台帰ってきていた。


「ただいま」


「お、燈夜、おかえり」


 もう、ゴールデンウィークが始まっているらしい大学生の姉が、リビングのソファで本を読んでいた。


「お邪魔します」


 御園が礼儀正しい!


「こんにちは、お茶とお菓子持っていくね。ゆっくりしてってね」


「大丈夫大丈夫、そんくらい自分でやるから」


「そう? なんかあったら、呼んでね」


「はいはい」


 適当にジュースとクッキーを自室に持って行った。


「御園って礼儀正しいんだな?」


「あ? 初対面の人には、礼儀正しくするのが常識だろ」


「キノコ先生は?」


「あいつは、いつも一緒にいるだろ」


「まあ、それもそうか」


 ……そうなのか? 自分で言っておいて疑問に思った。


「本題に入るぞ、お前はまだ百ライフ貯めてるよな?」


「まあ、一応、貯めているけど?」


「寮の掲示板に嘘のイベント告知を貼る。場所は食堂、競技はダウトだ」


 ダウトのルールを簡単に説明すると、次のような感じだ。




 カードをシャッフルし、全員に均等に配ります。


 一人ずつ、カードを裏向きにして場に出していきます。カードは一→二→三→……十二→十三→一……の順番で出すきまりなので、一番目のプレイヤーは「一」と言って、カードを出しましょう。


 四番目のプレイヤーなら「四」と言ってカードを出します。順番どおりのカードを持っていなかった場合、ほかのカードをこっそり出してしまいましょう。


 カードが出されるたび、ほかのプレイヤーは順番どおりのカードかどうかを見きわめます。「このカードは違う」と思ったら、「ダウト」と宣言しましょう。


 宣言があれば、実際にカードをめくって確かめます。


 もし順番と異なるカードが出されていたら、ウソを見破られたプレイヤーにペナルティがあります。場のカードをすべて、手札に足さなくてはなりません。


 カードを同時に二枚以上出していた場合、一枚でも異なるカードがあればウソになります。逆にバレなければ問題ないです。


 逆に、順番どおりのカードがきちんと出されていた場合は、「ダウト」と宣言したプレイヤーが場のカードをすべて手札に足すことになります。


 誰も宣言せず、次のプレイヤーがカードを出したら、順番は次のプレイヤーへと進みます。


 この場合、カードは裏向きのままで見ることができません。


 この流れをくり返し、誰か一人でも手札がなくなったらゲーム終了です。最初に手札がなくなったプレイヤーが一位、あとは手札の少ない順に二位、三位、四位……と順位が決まります。




「つまり、まとめて密告したら、ぼろ儲けって事だな」


「そーゆー事だ。上手く行けば、殆どの人を退学にできる」


 それにしても、よく考えられている作戦だな。今月の課題ともマッチしていて、今月の課題は恐らく一位を取れるだろう。


「早速、明日やるか」


「分かった。寮に朝の十時に来い。遅刻すんじゃねえぞ」


「了解」


 イベントの具体的なルールは御園に任せといて、一応自分が不利にならないようにチェックだけしておいた。


「じゃあ、また明日な」


「ああ、ロビーに居とけよ」


 御園は案外、早く帰って行った。


「ちょっと、燈夜。お客さん来るとか聞いてないよ。怖かったよ、あの人。燈夜も高校生になって、悪の道に染まっちゃった?」


「大丈夫大丈夫。あいつは見た目程、悪いやつではないから」


 事実は知らないけど……。


「そっか。オススメの本あったら、教えてね」


「ああ、分かった」


 俺の姉は文学少女ってのが、一番当てはまる表現だ。毎日のように小説やライトノベルやらを読んでいる。それに影響されて俺もたまに読むようになった。


 トゥルルルトゥルルル


 楽しそうな着信音が、俺のスマホから鳴った。


「もしもし」


『もしもし、燈夜くん。今大丈夫?』


 電話をかけてきたのは佳音だった。


「ああ、大丈夫だぞ」


『ゴールデンウィークって暇な日はいつか分かる?』


 突然どうしたんだろう?


「明日以外なら、何時でも空いてるけど?」


『そっか、埋め合わせ期待しているね』


 そういや、そんな約束もしていたな。


「あまり、過度な期待はしないでくれ」


 それから、三十分程度雑談して、通話を終えた。それにしてもなんでわざわざ通話なのだろうか?

読んでくれてありがとう‼︎

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