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私、紺野佳音は焦っています。なんと、もうすぐ四月が終わる。今は四月二十九日の帰りのホームルーム後である。まだ、課題をクリアしていないのに……。うちのクラスでは桐生くんが、次々に密告をしたせいで課題の進行状況が芳しくない。桐生くんに近づくのは既に課題が終わった生徒だけである。学級委員という役職を得て、周りと喋る機会は多いが、嘘がなかなかつけない。
「ねえ、ちょっといい」
まさかの桐生くんに、声をかけられた。嘘をつかないようにしないと……。
「うん、いいよ、どうしたの?」
「紺野はもう課題をクリアした?」
めっちゃフレンドリーやな。
「まだだよー。ホント大変だよー。」
「じゃあさあ、俺とテストのペア組まない?」
「え?」
ルールにある通り、ペアの点数は二分割される。でも、何で私?
「俺、全国模試三位だから、点数は保証するよ。」
「え、嘘。」
「嘘だと思うなら密告してみれば。俺はライフ困ってないし。」
え……。
「密告するの? しないの?」
「え…じゃあ、する?」
「はい、ダウト。お前は密告をする訳ない。俺は本当に全国模試三位だから、密告したら退学。俺に密告されたくなかったら、ペアを組め」
脅迫じゃん!
「何でそこまでして私なの?」
「一番、可愛かったから」
か……かわ……可愛い?
「そうそう、その反応とかも可愛いよ」
「ばか」
もー、恥ずかしい……。
「今日、一緒に帰ろうぜ」
え……デートかな? ついに私にも彼氏ができるのか?
「え……急だね……。ちょっと待って」
雅と毎日帰る約束しているから、謝罪してこないと。
「雅ー、ごめん。今日は別々に帰っていい?」
「うん、いいよー。また、明日ね」
「じゃあね」
ちょっとは、悲しんで欲しかった……。ぐすん。
「桐生くん、帰ろ」
「おう」
「桐生くんも通学生だったんだね」
「ああ、タク通だよ」
「たくつう?」
「タクシー通学のこと」
金持ちじゃん!
「すごい、せこい、家どこなの?」
「港区だよ」
やっぱり金持ちだ……。
「どこか寄ってくか?」
「いいの?」
「あ、うん、こっちから誘ってるんだけどな」
「ああ、確かに、ハハハ」
「そこのカフェでいい?」
「うん、いいよ」
やっぱり、これは下校デートではないか?人生初のデートがイケメンとです。やばい……緊張しすぎて、心臓がはち切れそうだ。
「まず、課題の必勝法を教えてあげるよ」
そんなの、あるんですか!
「まあ、必勝とまでは言えないけど、大抵の人はひっかかる」
「なになに、教えて」
「もう、課題出来たよ。って言うだけで、大抵の人は信じる」
「え……」
それって、まさか、雅は私にこれをやったの?
「ん? なんか、思い当たることでもあったのか?」
「うん、ちょっとね。雅に言われたから、もしかしたら、それをやられたかも」
だとしたら、雅は意外と頭がキレる?
「雅って、不知火?」
「そうそう」
「じゃあ、不知火の前でするのは、危険だな」
「雅は密告するような人じゃないよ」
「人を信じたら、この学校では生き残れないぞ」
「雅は、可愛いから大丈夫だよ」
「あっそ」
以外に引き下がりが早い。
「あれ、納得してくれたの?」
「いや、不知火の裏を見つけて、教えて黙れせようと思っただけ」
「さいてー」
素直なのかと、思っちゃったじゃん!
「まあ、雅の前ではやめておくよ」
「お、やっぱり、信じれなかった?」
「違うよ、雅にやると、騙し通したことにならないでしょ」
てのは建前で、雅がこの考えを持っていたことだけで、信頼が歪んでしまっていた。不知火雅という人間が分からなくなってしまっていた。
「まあ、頑張れよ」
「うん、頑張る」
さて、この必勝法は誰に使おうかな?
「紺野じゃなくて、佳音って呼んでもいい?」
「え……いい、よ」
「俺のことも、気軽に燈夜って呼んでくれ」
「え、ちょっとそれは心の準備が……」
「なんだそれ?」
男子を下の名前で呼ぶとか、幼稚園以来だよ。
「と……燈夜くん」
「佳音どうした?」
やばい……名前で呼ばれると、キュンときてしまう。
「な……なんでもないよ」
「そうか」
「佳音は、何でノーマルスクールに入学したの?」
「憧れていたお姉さんが、『特殊諜報員』だったから追いかけたいの」
今も元気でやっているかな?
「姉が居たの?」
「いやいや、近所のお姉さんだよ。よく、お世話してくれてたんだ。五個上かな?代わりに年子の妹ならいるよ」
小学生の時は、毎日のように遊んでもらってたな。
「妹は見てみたいな」
「全然、可愛くないよ。ホント、生意気だよ」
「そんくらいがいいんじゃね?」
「えー、そうかな? そういえば、と……燈夜くんは、何でノーマルスクールに来たの? やっぱり、『特殊諜報員』になりたかった?」
「まあ、それもあるけど、給料が出るからかな。上クラスに行ったら、毎月一千万円だぞ。金持ちになれるじゃん」
そういう考えの人も一定数いるみたいだ。
「佳音は、クラスメイトは全員必要だと思うか?」
「え、必要なんじゃない?」
「上クラスを目指すなら、強いクラスを作るべきじゃないのか?」
「でも、どうしようもないでしょ」
「いや、使えないやつは、全員退学にすればいいんだよ」
考え方が怖い。
「でも、どうやったら使えないかどうか分かるの?」
「それも含めてテスト出来るんだよ」
「でも、私が退学になったら怖いな」
「そうはならないようにする」
「雅は?」
「助けることは、出来る」
「なら、いいと思うよ。上クラスになるのが一番大事だからね。私の夢のために、何人が退学になっても気にしないと思う」
私は他にも『特殊諜報員』にならないといけない理由がある。そのためなら、何人だって退学させれるだろう。
「やっぱり、佳音を選んで正解だったみだいだな」
「えへへ、ありがとう」
多分、私は目的のためならこの男ですら、裏切るだろう。それから暫くして、私たちはそれぞれ帰った。タクシー通学いいな。
俺、桐生燈夜は来週にはクラスメイトを半分は消す予定だ。そのために、佳音は存分に利用をするつもりだ。
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