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俺、桐生燈夜は不知火雅の話を聞いて結論を出した。
「物心ついた時の疑問を素直に口にして、ちょっとな生意気なガキが不知火雅なんじゃないのかよ?」
「え?」
「だってそうだろ。その頃までは自分を偽ってなかったんだろ。」
それ以外に何がある。
「雅、もう自分を偽らないで、自分を偽ることは自分を傷つけるんだよ。自分を持たないと人は幸福になれないんだよ」
「で……も、お父さんはそれを許さない」
「ほら今、人の意見を否定したよ」
「あ……ごめ……ん」
「謝らなくていい。確かに人の意見を否定するのは良くないこと。でも、全く否定しないことが一番悪いことなんだよ」
「ほ……んと?」
「うん、雅はもう高校生でしょ。父親から逃げれるんだよ。学校やめてうちで暮らしてもいいよ。私が上クラスになってたんまり稼ぐから」
「な……なんで? 私の為にそこまで?」
不知火は疑問を口にした。あと一歩。
「だって、親友でしょ?」
果たしてこの関係を親友と呼べるのだろうか。もし、不知火が佳音の家で暮らすとしたら、それはヒモだ。不知火は佳音に申し訳なさを抱えて、過ごすことになるだろう。それにクラスから不知火雅という人間を失うのは惜しい。
「一度、父親と話してみたらどうだ?」
「お父さんと?」
「ああ、それで殴られそうだったら逃げてこればいい」
その父親はそろそろ冷静になっている筈だ。だって、妻を亡くしてもう十年の時間が経っている。それでも殴るなら、それはそういう人間だったということだ。
「それは危険だよ。昔みたいに雅が監禁されたら、どうするの?」
しかし、父親がもう正常だったら、その選択肢は間違っているだろう。だが、佳音の言っていることも一理ある。
「のんのん、ありがとう。やっぱり、一度話してみるよ」
「で……でも」
「大丈夫。明日いなかったら、のんのんが助けに来てね」
「……分かった」
佳音は長く悩んだ末、了承した。さて、どうなるだろうか?
「ちょっと、寄り道して帰ろうよ」
「いや、既に寄り道してるからな」
「燈夜くん、小さいこと気にしてるとハゲるよ」
はげねえよ。
「ストレス発散にボーリングしたい」
「お、雅。いい感じだね」
「そう?」
これ以上今日は疲れたくないんだけどな。
「二人の方がいいか?」
優しさに見せかけた逃亡を図る。
「桐生くんもいてもいいよ。のんのんと二人きりも嬉しいけど、桐生くんは別に居ても嫌じゃない」
「私は燈夜くんがいた方が嬉しい」
「へー、私と二人きりよりもそっちがいいんだ」
「いや、そういう事じゃなくて。いないかいるかだといた方がいい的な?」
俺の扱いてきとうだな。逃げられないなら、ちゃんと楽しむか。
「女子二人と男子一人か。両手に花じゃん」
「そうかもな。この前は逆だったけどな」
あの時も俺以外の二人の方が仲良かったんだよな。なんか、い心地が悪いのは、変わらないみたいだ。
「この前?」
雅が素直に疑問を口にしている。適応が早いな。
「ああ、虎羽と山口さんとカラオケ行ったんだ」
「山口さんって、うちのクラスのクール×可愛いの凄い人の?」
「いや、佳音の印象は知らんけど、その人だよ」
クールっていうかあれは何なんだろうな。
「虎羽って誰?」
「あ、それ、私も気になった」
「のんのんも知らないの?」
「うん、同じクラスの人かな?」
いや、隣の席だろ。
「あの、金髪ピアスのやつだよ」
「えー。あの不良?」
「いや、実際不良じゃないからな」
「のんのん、隣の席じゃん」
「まあ、まあ。雅は隣の席の人覚えてるの?」
「え、いないよ。両隣退学」
「その節はごめんなさい」
「別にいいよ。隣の席の人、一回も喋ってないもん」
隣ぐらい喋れよ。
「それにしても、あの席順どうやって決まっているんだろうね?」
「てきとうじゃね?」
あんな学校だから、何か意図があるのかもしれないが、案外キノコ先生がてきとうに決めてそうでもある。
「席替えあるかな?」
「普通は、テストごとにあるけどね」
「確かに。私達の中学もテストごとだったね」
キノコ先生だから、面倒くさがりそうだ。
「そういや、雅はダウトテストどうやって一位をとったの?」
「色んなキャラで人に取り入った」
「うわー。ひくわ」
「燈夜くん、雅をひかないであげて」
「桐生くん、酷い」
「え? 俺悪い?」
冗談半分だったのに……。
まあ、いろいろ話している内にボーリング場に着いた。
「最下位は罰ゲームね」
「のんのん、自信あるの?」
「ううん、ボーリングは初めて。でも、運動は得意。」
「いいよ、初心者には負けれないよ」
「あの、俺男子だけどいいの?」
「いいよ、よゆー」
「燈夜くんに勝てるかは分からない」 これは男子の意地として、負けれないな。
「私がエントリー表出しとくね」
不知火がエントリー表を出している間に、佳音と飲み物を買いに行った。
「運動する時、何飲む?」
「普通にスポーツドリンクだけど、ボーリングだからな」
「私はオレンジジュースにしよっと」
「じゃあ、俺はサイダー」
「雅は何がいいと思う?」
「佳音の方が付き合い長いだろ」
「そうだった。じゃあ、私と同じやつ」
エントリー表を書き終えたらしい不知火がこっちに歩いてきた。
「私、オレンジジュース嫌い」
「えー」
知ってるんじゃなかったのかよ!
「だって、雅はいつもオレンジジュース飲んでたじゃん」
「キャラ作りの一環だよ。私はサイダーの方が好き」
それは、寄越せってことかな?
「まあ、いいけど。ほれ」
「ありがとう」
プシュー
俺が投げたサイダーを開けたら、サイダーが吹き出した。
「ちょっと、雅。大丈夫?」
「大丈夫……じゃない」
制服のシャツが透けてきた。
「ちょっと、燈夜くんは向こう向いててね」
「わ……分かった」
約一分
「もう、いいよ」
「了解」
振り向くと、長袖のニットに身を包まれた不知火が居た。
「桐生くん、三時間は許さないから」
「それ、今日中に許す気ないよな」
俺はこの時、自分の失敗に気づいていなかった。
自分たちのボーリング台に着くと、俺と佳音は目が一点に集中した。
一レーン:不知火雅
二レーン:世界一可愛いのんのん
三レーン:アホ
「おい、アホって何だよ。」
「何となく、サイダーかけられる予感がしてて……」
「雅、嘘ついてる」
「あー、ごめんごめん。自販機の前でのんのんとイチャイチャしてるの見て、ムカついたからアホにした」
「三時間は許さないからな」
やられたらやり返す。
「じゃあ、チャラってことで」
「ってか私の名前も何?」
「そのままだよ」
「そんな真っ直ぐな目で答えないで」
俺らに精神攻撃だろうか。しかし、そんな必要はなさそうだった。不知火の初球はストライク。
「雅、もしかして得意?」
「もちろん。『特殊諜報員』なるもの運動神経は大事だよ」
初球はどう飛ぶかの予測だろ。絶対やり慣れてるだろ。
「ふ、私もストライクとってくるから」
カッコつけた佳音の初球はガター。
「こんな筈じゃ……」
「まだまだだね」
俺は無難に九本倒した。
中盤、不知火は相変わらず殆どストライク。
佳音はだんだんストライクかスペアになってきた。
俺は、ガターが増えてきた。
終盤、不知火は相変わらず殆どストライク。
佳音は全てストライク。
俺は、ガターかスペア。
結果、俺の惨敗。
「男子の癖に弱いね」
「お前らが強すぎるんだよ」
「二ゲームは私が勝てそうだね」
「無理無理、のんのんにはまだ早い」
「あの、そろそろ帰る時間じゃね?」
それもそうだろう。放課後ダウトテストを受けてカフェに行って、ボーリングをしているのだから、かなり遅くてもおかしくない。
「あ、桐生くんは罰ゲームね」
「燈夜くんの罰ゲームどうしよっか?」
あれ?そういえば、罰ゲームの内容を決めていなかった。ぬかった。男子ということで完全に油断していた。
「桐生くんが罰ゲームなるのって、多分少ないよね」
「確かに。燈夜くんは、だいたい何でも強いもんね」
ヤバい……。俺の本能がそう告げる。俺は今、あの二人の言うことを聞かないといけない立場だ。ヤバい要求されたら逃げるけど、まともな要求は聞かないといけない。何がくる? 精神攻撃はやめて欲しい。
「じゃあ、いつか一回ずつ言うことを聞くでいいんじゃない?」
「流石、雅。天才」
「でしょでしょ」
攻めれるギリギリできた……。
「分かった。変な要求以外はのむ」
「桐生くん、楽しみにしとくね」
「燈夜くん、覚悟しなよ」
あー、最悪だ。油断大敵だ。ルールはちゃんと確認しとかないと……。




