悪役令嬢追放
「________________神々に祝福を。世界に……輝ける大地に祝福を。私の眠りは終わった。ジークフリートは目覚めたのです。それは此処に集いし皆様による助力合ってのもの。感謝いたしましょう。私の寵愛が皆様に届きますように。」
劇を魅せる様に表情と動きを大袈裟にする。そして周囲を一望すると喝采が起きた。
「ジークフリート様が生きていた!」「ジークフリート様ぁ!!!」「あぁ、主神オーディンよ、私をこの時代に生んで下さり感謝致します」「抱いてください!」「私と婚約しましょう!」
「「「いいえ、私と婚儀を結んで下さい!!」」」
淑女達が360度、一斉に押し寄せる。ジークフリートはもみくちゃにされSOSを父のジークムンドに送るが、親指を上げてグッジョブとどや顔を決めてくるだけで何もしてくれない............
(いいぜ......こっちだって万が一の時に備えて台詞を考えて来てるんだよ、くそ親父)
父上がその気なら、此方にだって考えはある。
「________お嬢様方、私はもう侯爵家の家紋を背負うことは叶いません。これは最後の挨拶の場。けじめと謝罪を皆様に伝えたかった私の我が儘なのです。」
淑女達が「一体どういうことだ!?」と唖然とした表情を見せる。そしてジークムンドは「なんてことを.....」と憤怒としていた。シグルド兄さんとジークリンデは呆れた様子で頭を抱えていた。
「私は一度死んだのです。ネーデルラント侯爵を継ぐのは我が敬愛する兄君シグルド、そしてそれを支えるのは妹のジークリンデです。死した死人が後から横槍を入れるのは彼らに失礼な行いだ。だから、私はこれを機に侯爵家の名を返上し一「冒険者」となり、弱き者を救っていこうと考えております。私が経験したあのような惨劇を領民達に決して味会わせぬように......」
拳を握り、悔しそうな表情を浮かべる。どうだ、ロキ程ではないけれど俺だって演技には自信があるんだ。
「ジークフリート様......」「なんて崇高な.....」「..........しゅき」「わ、私はジークフリート様をお支えしますわ!」「助力致します!必ずや領民達を幸せに致しましょう!」
淑女達はメロメロとした熱い視線をジークフリートへと浴びせる。
「いいえ、レディ。私のことは構いません。皆様には末永く己の領地を、ヴァルハラを平和に支えて下さるだけで感無量なのです。私は私に出来る事を精一杯やっていこうと思います。」
自信を持った表情でこれからの人生を人々の為に歩んでいこうと宣誓する。するとジークムンドは声を荒げた。
「我が息子よ、素晴らしい考えだ!だが、私にはお前の家紋を剥奪する勇気はない......確かにお前が死に、ネーデルラント家の意向は変わってしまった。グンテル公爵家令嬢との婚約は破棄となったことも確かだ。だが、お前自身が責任を感じる必要はないのだ。すべての落ち度は私にある。もう一度と私達と、ネーデルラントの未来を考えていこう!」
上手いなぁ.......顔が引きつるよ。淑女達も「そうよ、ジークフリート様は悪くない」と声が上がっているのも聞こえてくる。
(ふざけんな........それにその勝ち誇った顔)
にまにまとしたジークムンドの顔にイラつきを感じる。
「父上.......私は既に死人。ネーデルラントに危機が迫れば駆け付けましょう。ですが、私にはどうしても為さなければならない使命があるのです。」
「使命とはなんだ?」
此処であのカードを切るしかない。この顔形を信じ、迫真の演技を見せてやるよ。
「アングルボサの呪いの駆逐__________世界蛇ヨルムンガンドの討伐です。」
この宣言に淑女達だけでなく場にいる貴族達がざわめく。それはそうだ。神話の時代の化物を顔がいいだけの若造が倒すと言うのだから。
「バカな、封じられている場所でさえ分かっていないのだぞ?」
芝居の見せ所だな。
「えぇ......ですが、冥界の女王ヘルならば」
フロールフ先輩がクラキ王に事の真実を伝えている筈だ。国家機密ではあるが、此処で晒け出させて貰う。
「...........ジークフリート、口を慎め。」
王族達が何事かとジークムンドへと視線をむけていた。これはクラキ国でも上位の貴族達にしか伝えられてない真実。ラグナロクの再来の一体「冥界の女王」がヴァルハラ学園の新学長など誰が信じようか。
「その様な戯れ言で貴族の立場を放棄すると言うのか!グンテル公爵令嬢はどうする?悲しんでおられたのだぞ......殿下との婚約はお前が死んだと報告をされたから決定されたに過ぎん。夢物語を語るより、今この場で我が王にお前の意思を伝える男気を見せたらどうだ。」
話の内容をずらして来たな。確かにこの場で「冥界の女王」の話はタブーだ。ふふ、冷や汗を浮かべ回らない頭でなんとか言葉を滑らせているな。いい気味だ。
「先ほども申しました通り、私は死人なのです。クリームヒルト嬢は素敵な女性だ。私のような貴族ではない未熟者には釣り合わないのです。殿下との幸せを私は心から願っております。」
侯爵家との接点を断ち、貴族としての立場をなくす。そして、クリームヒルトを追放と言う形ではなく、殿下との本来あるべき形で収束させるべきなのだ。ブリュンヒルデ、お前にはフロールフ先輩ルート以外を選んで貰わなければならない。
「________________お前が貴族でなくなると言うのなら、私も貴族である必要はないな。」
深紅のドレスを纏ったクリームヒルト本人が群がる淑女達を重力制御で退かし、自身の前へと立つ。
「クリームヒルトッ!!」
う、うわぁ......グンテル公爵が物凄い形相でクリームヒルトを睨んでいる。そしてクラキ国王が座る王族席へと目を向け、語った。
「________フロールフ殿下は私ではなく、違う者に恋慕しております。」
膝を地面へとつき、礼儀を尽くす。クラキ王はクリームヒルトへと鋭い眼光を向けていた。
「今代の「聖女」ブリュンヒルデ。彼女こそが殿下に相応しいと私は進言します。」
クリームヒルト.......先手を打ちやがった。ブリュンヒルデが何やら企んでいたようだが、先に止めを刺しやがった。
(う、うわ.......ブリュンヒルデの奴、今にも襲いかかりそうな形相をしていらっしゃる)
視線をクラキ王に戻すと王族席からフロールフ先輩が姿を現す。
(フロールフ先輩、来てたのか.......)
そして前へと出るとクリームヒルトを見下し、広間へと声を上げる。
「君の行いは目に余る。無意味な領民や家臣の殺害。学園での「聖女」に対して暴挙の数々。貴族としてあるまじき行いだ。此処にクラキ国、王太子として宣言する。」
ブリュンヒルデの策略が発動するが、クリームヒルトはニヤリと笑っていた。逆にブリュンヒルデは血がにじみ出る程に拳を握りしめていた。
(フロールフは悪意があって、クリームヒルトを陥れようとしているわけじゃあないな....)
ブリュンヒルデの元来の計画の上に、クリームヒルトが入れ知恵をフロールフにしたのだ。
「______________クリームヒルト•グンテル。貴様の爵位剥奪、並びに国外追放を命じる。」
フロールフがクリームヒルトに対し、ウィンクをしている。
(恐らく、クリームヒルトがフロールフに言ったのだろう。)
私を追放し、ジークフリートと結ばせればブリュンヒルデはお前のものだぞ、と。




