淑女達の目が.......
「_________今宵、我が城に集まるはヴァルハラ大陸に名を馳せる高貴なる血を受け継ぎし紳士淑女、どうぞ可憐に、華麗にお楽しみ下さいませ!」
ジークムンドの演説が終わり、広間は賑わいを見せる。特別室には各国の王族達が席を並べ、父上が仲介役をこなしている。
(侯爵家は力がある。そして古くから続く名家。多くの貴族や王族達から支持を受け、言っては悪いが、グンテル公爵よりも人気がある。)
その反面、蹴落とそうとする勢力も少なくはない。
(ではなぜ、蹴落とされないかって?)
ネーデルラント侯爵を含め、軍隊の質がいいのだ。クラキ国の王族が抱える『12人のベルセルク』と同等に戦える程に精鋭揃いである。
(シグルド兄さんが前衛で戦う場合に限るが。)
とは言え、今は社交界だ。仮面を被り、広間の隙にいるのだが視線が痛い。特に父上の視線が。
(社交界に参加しろとは言ったが、仮面をするなと言う制約はないだろう。)
父上はしゅしゅっと手話で中央へ行くように指示を出しているが冗談じゃない。顔を横に振り、×を両腕で作る。
(_________そうか、お前がそのつもりなら私は容赦はせんぞ)
ジークムンドは額に血管を浮かべ、にこにこと笑う。
『さぁさぁ、皆様に集まって頂いたのは親交を深め、大陸の未来について語り合おうと言う場なのですが........皆様にご報告があります。』
あの親父は何を考えているんだ。
「逃げるようとするなよ、ジークフリート。」
「に、兄さん.....」
足音もなく、隣にて話を掛けてくるシグルド兄さん。いつの間に帰って来ていたんだ。それに何だが少し怒ってる?
『不肖の息子ジークフリートは__________』
父親であるジークムンドニヤニヤと此方を見ながら間を作る。そして、あろうことか此方へと指を差し、宣言したのだ
「__________生きていたのです!アングルボサの呪いとの戦闘で深傷を追い、バルドル辺境伯が領地で治療を受けて、ようやく帰って来ました!」
ルーン魔術による照明が自分を照らし出す。周囲の貴族や王族達の視線が一斉に集まる。
(じょ、冗談じゃないぞ.......)
スローライフ計画以前の問題になってしまう。父上は社交界に出てくれるだけでいいと言うが、確実に自由が強制的に制限されてしまう。
(鴉羽の容姿を持つ俺は自慢ではないがモテる......モテ過ぎるんだ。)
この場にいる貴族達の質はかなり高い。高位の貴族。そして何よりも女性が多い。
『ジークフリート......我が愛しの息子。皆様に健在であると見せてやりなさい。』
謀ったな......父上。横目でシグルド兄さんを見ると「めんご♪」とウィンクをしていた。よし、社交界が終わったら兄さんの前でブリュンヒルデとイチャつこう。
(恋人関係ではないが寝取られを味合わせてあげるよ、兄さん)←虚ろな目
ネーデルラントに災いを!ネーデルラントに不幸あれ!と頭の中で考えていると、ジークリンデがヒョコッとシグルド兄さんの後ろから姿を現す。
「______おにぃ、いこ」
「え、ちょ、心の準備が」
自分の手を引き、広間の中心へと連れていかれる。そしてジークリンデは一礼をすると、自分を置き去りにしてシグルド兄さんの元へと戻って行ってしまった。
(視線が痛い。)
劇的な台詞もスピーチの原稿も作っていない自分に何を語れと。
『緊張しているのか、我が息子よ。傷の事なら気にするな。外傷は聖女様に治して頂いただろう。例え、傷付き、醜くなろうとも此処におられるわ慈愛に満ちた紳士淑女、誰も咎めぬし、お前を差別などしたりしない。』
父親が紹介するようにブリュンヒルデが前に出る。彼女は美しい葵色のドレスを身に纏い周りへと手を振ると拍手が起きた。
(とんだ役者どもだよ、こいつら!!)
そして自分を見知っている貴族の淑女様方から凄まじい声援の声が湧く。
「ジークフリート様ぁ!!」「どのようなお姿になろうとも愛してます!」「あぁ、どれ程、この時をお待ちしたか.....」「気にせずともわたくしが面倒を見ますわ」「声を、声をお聞かせ下さいましぃいいい!!」
会場が異様な雰囲気に包まれる。逃げ場はない。と言うか逃げようとすればルーンの盟約で下痢が三日間続く。覚悟を決め、仮面へと手を掛け、その姿を外周へと晒す。そして貴族時代の自分を思い出し、言葉を紡ぐ。
「________________神々に祝福を。世界に……輝ける大地に祝福を。私の眠りは終わった。ジークフリートは目覚めたのです。それは此処に集いし皆様による助力合ってのもの。感謝いたしましょう。私の寵愛が皆様に届きますように。」
あぁ、死にたい..........




