六柱
「はぁ.......はぁ......」
「はぁ...........はぁ..」
ようやく取っ組み合いが終わり、二人は仰向けになり倒れていた。だが、未だに睨み合っている。
「フロールフ先輩に虐められてるって言っちゃおうかなぁ?」
「好きにしろ、卑怯者」
「あぁー言いましたね!絶対に言いつけて追放してやるんだから!」
力尽き、腕も上がらない両者は口で罵り合っている。
(何か勝手にスローライフ計画の第二項目が解消されようとしている件について.....)
とは言え、本題はなぜ、この二人がこの場にいるのかと言う疑問である。
「なんでついて来た.......クリームヒルト嬢はグンテル領へと里帰りしなければ公爵様がお怒りになりますよ。それにブリュンヒルデは家族に合わなくて平気なのか。学園にいる間はあまり里帰りが出来ないだろう。会える時に会って置いた方がいい。」
俺の推測ではロキが水面下で動いている。恐らく「ラグナロクの再来」、第二の巨人ヨルムンガンドの封印を解こうしているのだろう。
(アニメ三期ではヨルムンガンドの出現でバルドル辺境伯領が壊滅し、両親は死亡してしまった筈だ。)
生きているうちに最後の別れを済ませて欲しい。それが俺からお前に上げられる温情だ。
「ジークくんが好きだから!」
「お前を愛しているからだ。」
二人は立ち上がり、両腕へとくっつく。そして愛おしそうにジークフリートを見つめる。
「近い近い!」
二人はジークフリートへと頬擦りをし、とろんとした目で押し倒すのだった。
☆
(あの道化師は言った。ジークフリートは国を欲しいがっていると。)
ならば国を献上しよう。ジークフリート、お前が望むものはなんだってくれてやる。私はお前の妻だ。妻が夫に尽くすは道理であろう。ならば自国に未練などない。
(冥界の女王ヘル、番犬ガルム、冒険王グローア、剣帝ディートリヒ、道化師ロキ、そして覇王クリームヒルト。)
ジークフリートの創造神話を紡ぎ、支える「六柱」。いずれも一騎当千の力を誇り、単体で国を相手できる。だが、それでも地上世界には数多の英雄達が存在する。世界征服の夢は程遠い。
『ジークフリートがそれを望んだんだ。スローライフ、平和な世界。作ろうじゃないか。平穏で平凡で争いのない綺麗な世界を。』
ひっひっひと奇妙に嗤う道化師。冥界の女王は声を上げ笑い、グローアは面白いと頬を上げる。私は道化師の言葉を聞き、誓ったよ。ジークフリートの望む世界を作って上げようと。
(その為には策を張り巡らさなければならない。)
世界を混沌に陥れ、英雄達を一斉除去する。道化師はそう言った。簡潔に言えば『世界蛇』と『大狼』を復活させ、世界に散らばる英雄達に討伐をさせる。
(だが、ラグナロクの再来達には負けてはならない。勝つには七英雄級の戦士達が必要不可欠。故に私たちも最終局面に置いては参戦しなければならない。)
_____________そして荒廃した世界の上に楽園を立てる。その旗印となるのがジークフリート。私達は彼を王と讃える。
『_______________それこそが真のスローライフ計画だとは思わないかい?』
意地の悪い笑みだ。そして密会室を退出するために扉のドアノブへと手を掛けると何かを思い出したか道化師は皆へと告げた。
『最後の敵は『聖女』になる。精々気を付ける事だね。』




