ジークムンドは息子を働かせたい
さて、実家に帰って来て早一週間がたった。正直に言うとジークリンデと一緒に食べ、遊んで、寝るの繰り返しだ。これこそがまさにスローライフと言いたいのだが、父上の「働け」と言う無言の眼差しがきつくなってきた。
(まだ一週間だけなんだけど、酷くない?)
休校が解かれるのは早く見積もっても一月先だと学園から手紙が届いている。良いではないか。夏休み気分で何が悪い。
「_______ジークフリート、ネーデルラントの作物事情を知りたいか?」
「いえ、別にそこまでは」
ジークムンドは事あるごとに作物事情、財政事情、税改革、領土拡大などの話題を振ってくる。
「まぁ聞け。ネーデルラント領は畜産農業と畑作に力を入れているのは知っているな。」
もちろん知っている。
「だがな、近年ではネーデルラント領に多くの元ベルン国民達が流れて来てな.......畜産が間に合っておらんのだ。それに昨年のアングルボサの呪いの暴走で、多くの畑は荒れてしまった。」
ちらちらと上目遣いで此方を見てくるジークムンド。可愛くない。ベルン国って確かディートリヒの......
「それで、どうするんですか?」
「わからん!」
頭が痛くなって来た。この父親はどうやってネーデルラント領を潤わせているのだろう。というか現在のネーデルラント領の様子はどうなってるんだ。大丈夫だよな?
「畜産農業の機能低下と言いますが、主にどれですか?酪農が間に合っていないのか。それとも肉牛、豚、ニワトリなどの何れかの供給が間に合っていないのか。」
「全てだ。アングルボサの呪いに多くを食い殺され、生産と供給が追い付いていなのだ。」
難民を受け入れた結果、領民が飢えては意味がない。共倒れだ。とは言え家畜達は殺されてしまったのだから、どうすることも出来ないのも確か。
「はぁ_________循環型農業を目指して下さい。」
「循環型農業?」
家畜を増やし、尚且つ多くの収益をもたらしたいのならばこの方法が一番だろう。勿論、ルーン魔術を応用した人工授精なども考慮しなければならない。
「肉牛や豚の排泄物から堆肥を作るのです。そしてその堆肥を利用して農作物を育て、それをまた家畜の餌にする。永久循環機関がつくれますよ。」
肉牛や豚の排泄物だけでなく、生ゴミなどの使用が可能だ。人が増えたからと金銭で解決しようとすれば後でツケが戻ってくる。ならばコストカットをしたうえで高品質の畜産をしようではないか。
「それにより、家畜達は質の良い飼料をたっぷりと食べられ、ストレスなく健康に育ってくれます。とは言え、数が減っている今は人工授精で数を増やして行くことから始めないと行けませんけどね。」
家畜の飼育を終えるまでは領民達に我慢して貰うしかない。他領土からの輸入も出来るが、コスト、そして恩を作ってしまうために難しい。
「まぁ循環型農業が完成するまでは「ジャガイモ」にでも専念してください。ルーン魔術で植物の成長の活性化でも行えば領民達が飢えることはないでしょう。」
さて、ジークリンデに槍の稽古でもつけるとするか。
「________ジークフリート、お前をネーデルラント領常任顧問に任命していいか?」
「嫌です。ネーデルラント領には沢山の優秀なブレーンがいるではないですか。父上は良い領主ではありますが、知識が不足している。故のブレーン達なのです。なので父上が無理に考えずとも事態は直ぐに解決されますよ。」
「あれ、ちょっと貶されてない?」
勘がいい親父だな。
「貶していませんよ。それでは俺はこれで失礼します。」
ジークリンデが庭で待っている。急がなければな。




