学園に帰還
「これは一体どういう状況だ........」
冥界突入から数日が立つ。冥界の女王ヘルは殺した全ての生者を生き返らせて、地上へと強制転移させた。地上に溢れていた死者達はヘルがヘルヘイムへの扉を閉じることで収まり、地上に残って奮戦していた生徒達により全てが浄化される。暴れていたニーズへッグはスノッリ君主導の指揮で拘束し、覚醒したディートリヒの奥義「次元斬り」でサイコロステーキにしたと言う。
「いえいえ......ですから私がヴァルハラ学園の学長となる、と言うことですよ。」
そして今現在、学園長席に座る冥界の女王はクスクスと愉快に嗤っていた。
「ウォーデン学園長はどうしたと聞いているんだよ?」
シグルド兄さんが凄い剣幕でヘルを睨み付ける。
「冥界の統治を任せましたよ。」
「「「はぁ!!?」」」
学園長室に集まるのはベオウルフを除いた冥界に突入した者達。
「あのクソ老害のせいでフェンリル兄さんが繋がれてますからね.....逆に鎖をつけてやりましたよ。その補佐としてベオウルフさんが冥界に残りました。もっともベオウルフさんは補佐と言うよりは死者たちと戯れたいがために残ったのでしょうがね。」
学園で彼女の正体を知る者は冥界へと足を踏み入れた者達だけである。
「あぁ、殺そうとしても駄目ですよ。私が死ねば、オーディンは死に、死者の国が完全に開く様に調整しましたから。」
地上に来た冥界の女王はかなり弱体化している。故に警告するのだ。もし自分が死ぬような事があれば地上と冥界の境界線を失くし、一つの死国にすると。
(考えたな.......これで彼女に手出しが出来なくなった。それに学園長ウォーデンを最初に捕らえたのは事故ではなく狙ってのものらしい。)
冥界の番犬ガルムが各自に飲み物を配って行く。
「これからはベオウルフさんの代わりに私が教職に就くことになりましたので、以後お見知りおきを。」
シベリアンハスキー頭の獣人。ボスヴァルを圧倒したと聞くが、かなりの実力者らしい。
「おい、それよりも聞きたい事がある!」
「_________________何でしょうか?」
こめかみに血管を浮かべたクリームヒルトがヘルへと声を上げる。
「何故私のジークフリートがお前の膝の上に乗っている!羨ましい!」
感情に素直過ぎる。その隣にいるブリュンヒルデなど先ほどから放心状態だと言うのに。
「私のジークくん、ジークくんが汚された、汚された.......」
大袈裟過ぎる。て言うか真横にいるロキの視線が物凄く痛い。視線だけで人を殺せそうな眼力だよ。
「さぁ、そろそろジークフリートを返して貰うよ。僕も彼も君と遊んでいるほど暇じゃないんだ。取り決めを行いなら君たちだけですることだ。」
いつの間にかロキにお姫様抱っこをされている状態になる。道化師の力だろう。
「はぁ、切ないですが.....今は我慢をしましょう。どうやら皆様方とお話をしなければ納得していただけなさそうなので。」
「覇王」「聖女」「勇者」「聖者」、そして覇王の従者である「レギン」、聖者の部下である「ボスヴァル」、美髪王が学園長室へと残る。
「ロキ、もう大丈夫だ。」
姫様抱っこから解放され、外の空気を吸う。そしてロキと共にウルズの泉が一望出来るベンチへと座る。
「________暫くは休校になるらしいぞ、ジークフリート。特例で二週間程の外出許可が出る。何処か遊びにでも行くか?」
グローアが後ろから声を掛ける。
「もう腕は大丈夫なのか?」
「あぁ、聖女が治癒を施してくれた。」
腕を回し異常がないことを見せてくれる。
「........そうさな、本業の冒険者らしく何かクエストでも受けて小銭稼ぎでもしよう。」
「ジークフリート、僕も一緒に行っていいかな。」
ロキが上目遣いで可愛らしく懇願してくる。
「あ、あぁ....ロキがいてくれると助かる」
ロキの様子が最近少しばかり可笑しい気がする。前から可愛らし場面は何度もあったが、地上に戻って来てからは甘える頻度が増えたのだ。
「ちょっと!私を置いていくって酷くない!」
モルドさんが此方へと走ってくる。
「いやいや、学園長室から一緒に出たでしょ。」
「そ、そうだけど.......ちょっとスケッゴルドの様子を見に行ってたのよ!ニーズへッグと戦闘になって........今もまだ、意識が回復してないの。他の生徒達を庇ってニーズへッグの息吹を直に浴びてしまったのは知ってるでしょ?」
..........初耳だ。
「病室に向かおう。せっかく鍛えたのに死んでもらっては困る。」
「ちょ、ロキくん!外傷はもうブリュンヒルデさんに治して貰って、後は起きるのを待つだけだから!」
ロキが直ぐにベンチから立ち上がり、治療室へと向かう。モルドさんもそれを追って行ってしまった。
「______________ジークフリート、お前は一体何を成そうとしてる。『スローライフ計画』とはなんだ?」
グローアは二人が去って行くのを見計らいジークフリートへと訪ねる。
(冥界の神ヘルを懐柔し、あまつさえ彼女を利用しようとしている節がある。皆が気付かずとも俺は異様性に気付いているぞ、ジークフリート。)
冥界で二人と行動を共にする際に『計画』という単語をよく口にしていたのを覚えている。そして事の原因である地下迷宮の鍵を簒奪し、冥界への扉を抉じ開けたのはジークフリート達なのではないかとも疑っている。
「はは、簡単な話さ。単純に平和な生活を送る為の計画。誰だって老後が心配だろ?」
ジークフリートはベンチから立ち上がり、優しい笑みを向けた。
(誤魔化そうとしているようだが、無駄だ。そもそも俺はお前達の敵じゃない。鍵を簒奪したのがお前達の仕業なら僥倖。つまらない世界よりも俺は冥界に行った際のようなスリルを求めている。)
スヴィプダグ•グローアは冒険王。冒険に餓えた狼。危険が伴う険しい道を乗り越えてこその英雄。ならば、俺はお前の『計画』とやらに加担しようじゃないか。新たな冒険を始める為に。
「________________俺をお前達の仲間に入れてくれ。」




