冥界の最果て
少しだけ時間は遡る。亀裂の中へと飛び込んだ俺は意識を失った。どれ程の間、意識を失っていたのかは正直分からない。
「_________やぁジークフリート、ファフニールのお宝は見つけたかい?」
目を覚ますとロキの顔が目の前に映る。近いな。
「冥界なのか、ここは?」
薄暗くて寒い。周りに見える景色はまさに氷の世界。
「ヘルヘイムの最果て、ニブルヘイム。」
ロキがにこにことした表情で答えてくれる。ちなみにではあるが今の俺の体勢はロキに膝枕をされている状況だ。
「廃人は巨人、憤慨は死骸、凍てつく大地は安土重遷♪」
座る大地を指差すロキ。顔を下げると、凍てついた巨人の目玉がそこには存在した。
「世界が九つの世界であった頃の話だけどね、「原初の巨人」が世界の大部分の材料として使われたんだよ。そしてそれこそが今座っているユミル。愉快だよね。」ひっひっひ
愉快ではない気はするが、興味深い話ではある。
(乙女ゲー世界なのに此処まで設定が作り込まれてるのか......アニメが三期まで制作されただけはあるな。)
取り敢えず今は冥界の女神ヘルの元に向かわなければな。立ち上がり、周囲の警戒をする。
「そんなに警戒しなくてもいいんだよ、ジークフリート。君が起きるまで僕が周りの死者達を土に還したんだ。ほら、あそこに転がる巨人達の死体が見えるかな。」
立ち上がったと同時にロキに抱きつかれる。
「混乱させて同士討ちさせて最後の一人を自害させんだ。ひっひ、全部ジークフリートの為にやったんだよ。誉めてくれると嬉しいな。」
上目遣いで懇願するロキの姿は凄く可愛いのだが、言っている事が怖すぎる。
「......ロキきゅんえらい」
「えへへ♪」
頭をナデナデでこれ程喜ばれるとは........。
(スローライフ計画にはロキの手助けが必要不可欠。正直に言うとロキに愛想を尽かされると俺は詰む。)
故に全身全霊を持って甘やかし、愛でるしかないのだ。嫌われない為にも。
「にゃおーん♪ごろにゃ~♪」
猫のように首もとを擦ったり耳を触ると嬉しそうに身体を預けてくる。あまりにやり過ぎると発情するので止め時を見極めなければならいが難しいことではない。
「やめにゃいで!しゃーーー!」
ガバッと強く抱きついてくる。可愛すぎるだろ........。
「.........学園に戻るまでのお預けだ。」
「えぇ!?ジークフリートのいじわる!」
冥界に来ていちゃついている場合ではないんだよ、ロキきゅん。取り敢えず歩き出すことにしよう。一刻も早く冥界の女神を殺してスローライフ計画を前進させなければ。
「ジークフリート、氷の国を抜けて歩き続けるとヘルヘイムの森へとつくらしいよ。落葉広葉樹が広がる樹海らしい。」
ヘルヘイムについてやけに詳しいロキえもん。
「巨人達を拷問して聞き出したからね。あと確か、ニブルヘイムとヘルヘイムの森の中間にはメングロズって女の館があるから気を付けろだって。まぁ大した脅威じゃないよ。」
__________とメングラッドの館までのいきさつをグローアに語る。
「おい!分かったから縄をほどけ!」
ちなみにではあるが現在グローアは縄で縛り付けてルーン魔術を使えないようにしている。なんか怒って襲って来たし。まぁロキが直ぐに無力化してくれたお陰で戦闘にならず済んでいる。
「どうするジークフリート、このまま身ぐるみ剥がして放置していく?」
「鬼かおんどれは!」
グローアの背中の上にて胡座をかき座るロキ。グローアはイラついた様子で舌打ちした。
「さて、遊びはほどほどにしてそろそろ森の中に入ろう。」
グローアを縄から解放し、出発することにする。
(森を越えた先に冥界の女神ヘルの居城がある。シグルド兄さんのことだ、恐らく一番にたどり着いてる。無事でいてくれよ.......)




