ティルヴィング
「ちょっと、あんた起きなさいよ!」
ぱちぱちと頬を叩かれ、目を覚ますホールファグレ。
「ここは.......そうか、僕たちは冥界に着いたんだね。」
深淵の中ゆえに視界は悪いが広葉樹が周囲に在ることは確認出来る。
「えぇ......だけど、私たちがいるのは森の中よ。明かりなんてないし、ルーン魔術で視界を補強するしかない。」
「そう見たいだね。」
紅葉が広がる深淵の森。何とも奇妙で異様な雰囲気を放つ。
「ねぇ、気づいているとおもうけれど」
「見ているね、僕たちの事。」
戦闘態勢に入るモルドとホールファグレ。こちら側を観察する何者かの敵意がより増す。
「出てきたらどうないだい」
ホールファグレは髪の毛を一本抜き、「美髪王」の能力で貫通力を高める。そして此方を観察しているであろう者へと投擲した。
カキン
「___________酷いことをするねぇ~。おじさんはただ君たちと仲良くなりたいだけなんだけどねぇ~。」
無精髭を生やした貴族風の男が剣を振るいホールファグレの投げた髪の毛を叩き落とす。
「あれだけの敵意を出して起きながら良く言うわね。」
「敵意ではなく敬慕だねぇ~。」
「君の感情はどうでもいいよ。剣を抜き、こちらに構えている。敵だ。」
背中に帯刀している六本の武器、全てをホールファグレは抜刀し、中段の構えをとる。二本は両手、残る四本は髪で固定している。『美髪王』の覚醒能力とは己の長髪を自由自在に操ることにある。
「髪使い、珍しいねぇ~。おじさんが生きていた時代にはいなかったねぇ~。だけどその程度の職業適性じゃあ俺のティルヴィングは敗れないだろうねぇ~。」
白銀の刀身。黄金の柄。見るもの全てを惑わせる魅了を放つ魔剣。それを三本指でやる気なく持ち構える男。
「一応言っておくとおじさん、大神オーディンの血を引く王だったからねぇ~。知ってる、スウァフルラーメ?ティルヴィングの第一所持者.........って言っても知らないだろうねぇ~。」
魔剣ティルヴィングを上段に構える。そしてスウァフルラーメと自身の事を呼ぶ男は剣を振り下ろした。
「ホールファグレ殿下ッ!!」
ホールファグレは六本の剣を使い、防ごうとするが全ての剣は砕かれ胴へと斬撃を喰らってしまう。
「あぁおじさんの剣ねぇ~鉄も容易く切りさくし、狙ったものは外さない魔剣なんだよねぇ~。オートで剣が軌道にそって振るわれるから一騎当千なんて呼ばれてねぇ~」
自慢気に昔話を始めるスウァフルラーメ。倒れるホールファグレを支えつつ、ルーンで応急措置をする。
「でも調子に乗ってたのかねぇ~、おじさん剣を奪われて死んっ」
モルドは隙だらけのスウァフルラーメへと縮地を使い魔剣ティルヴィングを握る手首を切り落とす。
「お前ッ、アルングリムと同じ軽騎___________」
そして地面へと落ちる前に魔剣を掴み上げる。そしてスウァフルラーメの喉仏目掛け、鋭い突きを放った。そしてそのまま横薙ぎに魔剣を振り払いスウァフルラーメは絶命させた。
「_____________私、お喋りな男って苦手なのよね。」
モルド「この魔剣........持って帰りましょう」
 




