クリームヒルトの焦燥
クリームヒルトは修練場で剣を振るう。
(ボズヴァル・ビャルキ.....フロールヴに従える戦士達の中で一番の勇士。)
クラス対抗戦で戦ったから分かる。奴は強い。戦上手だ。だが手加減をした。覇王であるこの私に対して全力で挑まなかったのだ。
「苛つかせてくれる。この私におべっかを使い、さも自分が勝たせてやったと目で語る。」
例え奴が本気を出そうと私は勝っていた。勝っていたんだ。故に焦燥感に苛まれる。他者に王太子の許嫁だからと贔屓をされていると勘違いされるのが無性に腹立しい。
「ジークフリート.....お前が恋しいよ。」
剣を振るいながらジークフリートとの思い出に浸る。
「あの時に戻りたい。あの頃の幸せに再び触れたい。お前だけが私を私と見てくれたんだ。」
公爵令嬢としての側面ではなく、クリームヒルトとして。
「.........聖女の従者はお前なのではないのか、ジークフリート。」
以前は聖女の多大なる妨害により兜の中の正体を暴くことが出来なかった。けれど、確かにあの全身鎧に身を包んだ男からはジークフリートの気配を感じたんだ。
「確かめたい........」
(お前は私以外の女に従わなくていい。お前は私だけを求めろ。私もお前だけを求める。永久に二人で領地を治めよう。世界を望むなら私がお前にくれてやる。だから側を離れるな。)
訓練を終え、帰り道を歩きながら思考する。
「.........そうだ、奴は確か」
レギンは聖女の従者と同じ部屋だったな。素顔を見たことがないと言うが、恐らく嘘だろう。
(脅し、聞き出すか?)
いいや、あいつの事だ。小賢しい言い訳を並べるに違いない。ならば私自らが従者の宿舎を訪れようではないか。宿舎に戻り、私服へと着替える。
「この目で確認してくれる。」
日が沈むまでにはまだ時間はある。ジークフリートがいる従者寮へと向かうことにする。
(お前こそが私の探し求めるジークフリートなのだろう?)
こつこつと足音を響かせ、階段を上がる。クリームヒルトは頬を上げ、ドアへとノックをした。
(逃がさないぞ、ジークフリート。)
「今出る!」と男の声が部屋から聞こえてくる。
(............やはり、ジークフリートの声だ!)
私の感に間違えはなかった。私がジークフリートの声を聞き間違う筈がない。扉を開け次第、覇王の能力の一部である『威圧』で身動きを取れなくしてしてやる。
「レギン、帰りが遅く..........」
狼形の兜に軽装の装備を纏うジークフリートは言葉に詰まる。
『威圧発動』
グッとうめき声を出すジークフリート。私は室内へと入り、扉をしめ鍵を掛ける。
「何も話すな。何もするな。私に全てを委ねろ、ジークフリート。」
背後へと周り耳元で呟く。そして威圧で動けないジークフリートの手を取り、ベッドへと連れていく。
「お前は自由だ。ふふ、さぁ素顔を見せてくれ。」
優しくジークフリートの兜へと手を当て、ゆっくりとその兜を外していく。
「______________あぁ、私のジークフリート♡」




