序列一位同士の戦い【前】
「な、何を言っている!」
立ち上がろうとしたグローアへ「エギルの兜」の効果を発動させる。
「ぐっ」
(身体が震えて、動けないッ)
対峙する者を恐怖に陥れると言う効力を受け、その場へと両膝をつく。ジークフリートはグローアの元へと近づき、首筋へと槍を当てる。
「___________俺の降参だ、ベオウルフ先生」
槍の矛先はグローアの首を捉えている。誰がどう見てもジークフリートの勝利だ。だが、ジークフリートが言葉にしたのは自身の「敗北」だった。
「ど、いう、つ、りだ!」
(くそ、精神攻撃の一種のせいか口が上手く回らんッ!)
エギルの兜は序盤から使っていた。けれど、効力は表れなかった。
(大技を使った反動で今のグローアの魔力は空に近い。故にルーン魔術、第一項目「救いの呪法」は発動しなかったんだ。)
救いの呪法とは戦いや悲しみ、悩みなどを取り除く助けとなるルーン魔術。常時発動型の精神抑制魔術である。だが魔力が底をつきかけているため、発動が解けたのだろう。
「_________ジークフリートくん、試合は君の勝ちだ」
ベオウルフ先生は鋭い眼光でそう断言する。しかしジークフリートは喰い下がる。
「降参すると言いましたよ、先生。俺は下手をしたらグローアを殺していたんです。」
魔術袋が破裂した際に斬撃が吐き出され、グローアの左腕を切り飛ばした。あれは計画して放ったものではない。偶然の事故なんだ。もし放たれた場所が腕部ではなく、人体の急所となる場所だったなら......
(大技を使用させ魔力不足に追い込み、純粋な切り合いだけで決着をつけるつもりだった。)
当たった場所が胴体や頭部であれば死んでいた。結果的には勝った。だけど実質的には俺の大敗だ。観衆の面前で殺していたかもしれない。罪悪感で押し潰されそうだ。
「もう一度言います。俺の負けです。」
グローアは全力で技を放つと言っていたけど、あくまでも試合という形でだ。斬撃は明確に自分の左腕を狙い、切り落としたのがいい証拠だろう。
「ふ、ふざけるな!!」
腕や足の一本消し飛ばされたとしても試合後にブリュンヒルデ、聖女の力で再生できる。
「勝負はまだ終わってない!」
「いいや、お前さんの勝ちだよ。」
そう言い残し、控えへと戻る。ベオウルフ先生とグローアが何か言ってはいるが構わない。このまま控え室で身体を休めよう。
「ロキ.....頑張れよ。」
控えにてすれ違い様にロキへと励ましの言葉を送る。ロキはその言葉を受け、闘技場へと足を踏み出す。
「ジークフリートが降参すると口にしたんだ。彼の意思を汲み取ってくれないかい?」
そしてベオウルフ先生へと序列一位同士の戦いを開始するように進言する。ベオウルフは観覧席に座る学園長ウォーデンへと確認をとる。ウォーデンは「始めよ」と指示を送り、ベオウルフは観衆へと告げる。
「_________勝者スヴィプダグ•グローア!!」
ぱちぱちとまばらな拍手が鳴る。その会場の様子に歯ぎしりしながらグローアは控えへと戻っていく。
(これ程の屈辱を受けたのはじめてだ.........ジークフリート、貴様は俺が屠る。首を洗って待ってることだな。)
入口からグローアとすれ違い様に入場してくる一人の青年。
「これよりは個人戦最後の大トリ、序列一位同士の戦いだぁ!!!」
ベオウルフ先生が場を盛り上げる為に声をあげる。
「僕はロキ、『道化師』の職業を選定されたちょーと悪戯づきなエルフさ。ファフニールのお宝は見つけたかい?」
短剣をジャグリングしながら身体を一回転させ、お辞儀をするロキ。
「「b」組序列一位、ボズヴァル・ビャルキ。フロールフ・クラキ王太子殿下の第一の臣下にして最強の『ベルセルク』。精々跑くことだ。狂気に呑まれないようにな。」




