序列二位同士の戦い【後】
「はは、面白い奴だ。「冒険王」の力、そして「勝利の剣」、「九つのルーン魔術」全てを解放する。」
灼熱を纏い淡く輝く刃。変わる雰囲気。基礎能力はほぼ互角だった。けれど、この男には更に上があるらしい。冒険王としての能力。そして「勝利の剣」、「九つのルーン魔術」。
(九つのルーン魔術.......)
北欧神話の主神である『オーディン』が習得したルーン魔術は以下の18になる。
一、救いの呪法 . 戦いや悲しみ、悩みなどを取り除く助けとなる。
二、癒やしの呪法 . 医術を志す者に必要とされる
三、敵への呪法 . 武器の刃をなまらせ、役に立たなくする
四、解放の呪法. 手足にされたいましめを、ほどいたり切ったりする。
五、矢止めの呪法 . 投げ槍などの飛び道具を、ひとにらみで落とす。
六、呪い返しの法. 呪いによって受けた傷を、それ以上にして相手に返す。
七、鎮火の呪法. 呪歌によって、火事の勢いをそぐ。
八、なだめの呪法. 親しい者同士に起こった憎しみの感情をなだめる。
九、航海の呪法. 海が荒れている時、風や波を鎮める。
十、退魔の呪法. 幽体離脱した魔女を、元の身体に戻れないようにする。
十一、盾の呪法. 戦士に勇気を与え、無事戦場から連れ戻す(盾にかける)。
十二、死人の呪法. ルーンの力で死者を動かし、話ができるようにする。
十三、守りの呪法. 水でその身体を清め、剣の刃が通らないようにする。
十四、知識の呪法. 神々や妖精達に関するすべての情報。
十五、小人の呪法. 神々には力、妖精には栄華、オーディンには知恵を授ける。
十六、情愛の呪法. 女性の心をとらえ、恋をかなえる。
十七、貞節の呪法. 女性の心変わりを抑え、自分の元に留まるようにする。
十八、最後の呪法. オーディンだけが知っている奥義。
そして七英雄の一人である『賢者ウォーデン』もこのルーン魔術を全て扱う事が出来る。このいずれかの九つをグローアは扱えると言う事だ。それに付け加え宝剣に『冒険王』としての覚醒能力。チート過ぎる。
「__________お前にはそれをするだけの価値がある。」
するだけの価値はない。オーバーキル過ぎる。
(考えろ.......この卑しい男に勝つ方法を)
グローアには小細工や小手先の技は通じない。
「手加減は.........してくれないよな?」
時間を稼ぎ、考えるんだ。三撃以内で決められなかった。全力で踏み込んだ初撃すらもダメージを飛んで軽減されてしまった。
「_______俺の全部を受け止めてくれ。」
殺す気か.........なんてな。対策は一応一つだけある。
(魔法袋)
腰にある魔法袋。冒険者時代に高額を叩いて購入した品だ。アイテムや武器をストックすることが出来る便利な異次元収納ポケット。ディートリヒとの戦闘の際に小麦粉を出し、目眩ましに使ったのを覚えているだろうか。
(彼奴の全力攻撃一回分はストック出来る.......が壊れる。)
魔法袋の裏技。どんな攻撃でも一回だけ取り込んでくれる。けれどそれをすると魔法袋は収納されているアイテムや武器もろとも破壊し破裂する為、冒険者間ではその使用法はタブーとされていた。
(って言ってもこの使い方知っている奴は少ないけどな。)
先ほど投げつけた槍を回収し、双槍を構える。
「俺は降参も逃亡もしないぜ?そら、放って見ろよ......お前さんの全力って奴を。」
相手の魔力切れを狙う。その一点にかけるしかない。
「勝機がある、といった目だな。いいだろう。俺の全霊を込めた一撃を手向けにしてやる」
グローアの勝利の剣からは渦のように灼熱が溢れる。そして剣はグローアの手を離れ、ひとりでに空中にて動き出す。そしてひゅんっとこちら側へと斬撃が振り下ろされる。
「________がっ!?」
闘技場に巨大な亀裂が入り、深い溝が出来上がる。桁違いの威力に汗が止まらない。
「うぅ..........」
いや、そんなことよりも左腕一本丸ごと持っていかれた。痛いとかそんなレベルじゃないぞ。即座に傷口をルーン魔術で焼く。
(どうする.......攻撃を取り込む以前に反応出来ないぞ)
予想以上に攻撃速度が速かった。てっきりビーム系が来ると思ったら斬撃系だったんですけど。
「ジークフリートくん!降参しますか!!」
試合の領分を超えているよ、あの攻撃は。ベオウルフ先生には悪いけれど、降参は出来ない。観客も俺が試合続行に対し驚いているが、とことんやってやるよ。
「なんだ、正面に打つのが怖かったのか?」
「俺はこのような模擬試合で人殺しにはなりたくない。」
ごもっともです。だけどそれは王道じゃない。
ばん
「今度はしっかりと当てろ。本当の冒険者ってものを見せてやるよ、冒険王(笑)」
胸をバンッと叩き挑発をする。
「死んでも恨むなよ。」
グローアの勝利の剣がルーン魔術により強化され、再び宙へとひとりでに浮遊する。
(剣が放つモーションに入ったらこいつを発動させればいい。)
そして「勝利の剣」は横薙ぎに振るわれる。空間が裂かれ、ジークフリートの元へと斬撃が迫る。
「________________魔法袋ッ!!」
キュインと斬撃を吸収すること成功する。だが、吸収すると同時に魔法袋がパンッと破裂した。そして破裂した袋から斬撃が吐き出され、グローアの左腕を切り裂く。
「ぐぐっ!!?」
グローア共にジークフリートも驚きの表情を隠せずいた。
(........え、吐き出すの!?)
反射して左腕に向かってくれて良かった。危うくクラス対抗戦で死者を出すところだった。
(勝利の剣はもうこの試合では使えない、か.........)
グローアは膝をつき、息を荒くする。大技を二度放ち、思わぬカウンターパンチを喰らったのだ。
(俺も未熟者だな......己の放った斬撃を視認出来なかった。矢止めの呪法も発動しない訳だ。)
グローア側も限界が近い。しかし、闘志は滾っている。まだまだ技を競い合いたいと震えが止まらないのだ。
「____________ジークフリートぉ!!!」
叫ぶグローア。その表情は興奮と好奇心が押さえられない子供の表情だった。
「はは、面白い、面白いぞ!!最後まで立ってた奴がこの戦いの勝「降参」............は?」
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