一緒にいて
「魔帝よ、行くぞ___________」
七英雄が一人、魔帝の襟根っこを掴み前進するヴォーデン元学園長ことオーディン。
「おい、クソジジイ!っ、くそ、放しやがれ!!俺がいつお前に協力するなんて言ったンだ!!!」
引き摺られる魔帝の三歩後ろを歩くベオウルフ。
「私個人としてはこの状況は結構好ましのですが、やはり倫理的に正しくはないですからね。矯正はする必要があります。その為には貴方の協力が必要なのですよ、魔帝。」
冥界にてオーディンの補佐を勤めていたベオウルフは時間があれば冥界で暴れる戦士達と戯れていた。聖光で殺さない限りは永遠に復活し続ける事が出来る冥界の死者達はよいサンドバックであるのだ。故に冥界の女王が目指すものは悪いものでもないと個人的には考えていた。
「ベオウルフよ、弁えよ。そなたの悪い癖じゃぞ。」
オーディンは溜め息をつき、冥界の女王がいるであろうヘルヘイム城を目指す。
「_____________どうでしょう、ジークフリートさぁん!素晴らしい眺めだとは思いませんかぁ?」
目の前に広がる混沌に歓喜とした表情を見せるヘル。
「...........死を取り除いた先にあるのは停滞と衰退だ。」
ジークフリートは深刻な表情を見せ、冷静にそう言い放つ。
「調和の取れない世界では魂は腐っていくしかない。始まりは良いかもしれない。けれど、百年、千年と時間が経つに連れて人は人の思考ではなくなってしまう。」
事実、冥界で永劫の時を生きた死者達の中には自我を失い彷徨っているだけの亡者達がいた。
「その為の処置として冥界では聖光を扱える職業適正を分別し、浄化の冠職を与えているのです。」
「心を失くした亡者を浄化し、輪廻の彼方に還すことは良い処置だと評価できる。だけど、生者と死者の境を失くしてしまえば........いつか遠い未来で誰もいなくなってしまうんだぞ。」
ヘルは口角を下げ、無表情となる。
「______________それの何が悪いのですか。」
ジークフリートはヘルの肩へと手を置き、彼女の瞳の奥を覗き込む。
「お前が一人になる。」
ヘルはジークフリートの手を払いのけ、睨み付けた。
「人間である貴方に何が分かると言うのですか。死を根絶した先にあるのは絶対の楽園。貴方が作り上げた神聖国とは比較対象にもならぬ程の永遠の平穏が訪れるのです!」
ジークフリートはヘルの両手を掴み、力強く握り締める。
「もう一度言う..........俺が心配しているのはお前自身だ。他の誰でもない。冥界の女王ヘル、永劫の時の果てにお前は一人になってしまう。」
冥界の女王ヘルは頭の中で理解をしていた。死者だけの世界が行き着く先は虚無だ。何もなく、静寂で廃坑とした世界。その中に一人ぽつんと玉座に座る自分の姿が浮かぶ。
「........ならジークフリートさんが一緒にいて下さい。」
ヘルはジークフリートの胸へと飛び込む、上目遣いでジークフリートを見上げる。
「俺が俺でいられる内は...........一緒に入るよ。だけど、人の精神は永遠ではいられない。だから多分.....俺は君を置いて逝ってしまう。」
ヘルの頬へと手を置き、子を諭す様に言葉を告げる。ヘルは一瞬、悲しそうな表情を見せるが直ぐに元の表情へと戻り、顔を胸へと埋めた。
「私が一人になっても忘れられないくらいの楽しい思い出を作って下さい。」




