ロキはご執心
______訓練場にて
「くっ、」
(当たらねぇ!!)
『c』組も『a』組に習い、ランキング形式を取り入れることとなる。そして現在、クラス内で模擬戦闘を行っていた。
「落葉は覚悟っ♪成長は何処っ♪強い強いぞ巧言令色!」
(ジークフリート、今は僕だけを見て、僕だけに集中して、君の意識の全ては僕が独占できている。もっと長引かせよう。見つめ合うこの時間、君と二人だけの時間を。)
そしてクラス内序列を決める初戦でロキと当たってしまい手も足もでないと言った状況だ。
「はぁああ!!」
(強すぎんだろ、こいつ......サーカスショーに出てくるパフォーマーみたいに柔軟に攻撃を避けやがる。)
二槍の攻撃を軽々と避け、嗤う。そして嗤うだけで反撃には転じないのだ。
「当てられぬか♪当たらぬか♪脆弱で堕弱♪愉快に踊れ♪踊り狂え♪」
突きを放てば槍の上に乗り、蹴りを入れようとすれば背後に回られ頬へと人差し指を当てられる。
「大丈夫、ジークフリートは何があっても僕が守るから......心配しないで」ボソ
(僕の目の届く範囲では誰にもジークフリートを傷つけさせてあげない。)
挙句の果てには耳元でそう呟かれ「もっと楽しもう」と微笑を見せる。随分と嘗められたものだ。
「はっ!守られるほど落ちぶれちゃいねーんだよロキっ!!」
槍を横薙ぎに振るう。ロキはそれを避けるように後部へと数歩後退する。
「改革は不要、努力は不良.......しかし甘受しよう、容認しよう。ジークフリート!ファフニールの宝は見つけたかいっ!!」
(いい、いいよジークフリート。君はこれから強くなる。実力さが離れていようと諦めず立ち向かってくるその心意気。その闘志に満ちた対抗心.....ぞくぞくするね。さぁ、君の持てる全てを僕に注いでよ!)
ジークフリートは低く姿勢を構え、ロキへと向かい一直線に駆ける。ロキは両手を広げ、ただ嗤う。
(この一撃で決着をつけてやる!)
「早期に俺を沈めなかったこと後悔するなよ、ロキッ!」
ロキは回避能力が異常だ。故に隙をつく必要があるのだ。
(___________兜の能力を解放)
この一手でしかロキに勝てる勝算が浮かばない。エギルの兜の特性として「対峙する者を恐怖に陥れる」と言う効力を有している。この効力を使って隙をつくしかない。
「_______________あは♪」
「っ!!?」
槍がロキの眼前へと迫ろうとした刹那、俺の槍は完全に停止する。いや、俺自身が身体を止めたのだ。
「動かねぇっ!!」
(っ...........なんっつープレッシャーをしてんだ)
恐怖で動けない。
「面白い能力を持ってるんだね、ジークフリート。だけど狂人で凶悪で、偽りに長けた僕に恐怖は感じないよ。恐怖は絶望で塗り潰せる。だから塗りつぶし、君に僕の絶望を分けて上げた、ふふ♪」
(何を言ってんだ、こいつ.......)
ロキに兜の力は作用した筈だ。にも関わらず、ロキは一瞬の動揺も見せず、逆に俺を恐怖に陥れやがった。
(道化師の能力はなんだ.....能力を跳ね返す力なのか.......わかんねぇ......)
プルプルと膝が笑っている。みっともないと反吐が出る。
「もし僕が恐怖を感じるんだとしたら.......君を失うことだよ、ジークフリート」
動かない身体。その頬へとロキは優しく手を置き、はにかむ。
『そこまで!勝者ロキ!』
教師によるジャッジが下る。俺はなす術もなくロキに敗北したんだ。これが本当の殺し合いだったら死んでいたのは俺の方だった。
「________________完敗だよ。」
流石はラスボスの一人と言うべきか。身体への重圧がなくなり、動けるようになる。そして大きく息を吸い、吐き出した。ロキの方へと視線を向けるとクラスメイト達に囲まれるロキの姿があった。
『ロキ君凄い!』『変な格好してんのに強いのな、お前!』『見直したよ!』
ロキはどこか照れた様子で相槌をうっていた。
「ふ、おれ以外にも友達が出来そうで良かった。」
『ラグナログの再来』は恐らくこの先、ロキの手によっては起きないだろう。心の孤独を埋める役割が俺以外にも出来たのだから。
「___________ジークフリート、どこにいくの?」
と感傷に浸っているとロキがいきなり後ろから抱きついて来た。
「ロキ、クラスメイト達はどうしたんだ?せっかく仲良くなれるチャンスだろ?」
「ジークフリートがいる。他に必要な友人はいないよ。僕はジークフリートだけがいいんだ。だからジークフリートも僕だけを見てて。」
目の奥がぐるぐると回っている。ロキの『友情』というのか『愛』と言うのかが日に日に重くなっている気がする。
「俺のこと好きすぎるだろ。」
「好きさ。愛情は感情、感情は平常、屋烏之愛、愛及屋烏」ぎゅ
抱きつく力に更に力が入る。美少年にも美少女にも見えるロキにドキドキする。
「......ロキは男色家なのか?」
「ジークフリートだからいいのさ。生まれてこのかた、恋愛なんて感情を僕は知らない。だけど君といると心が熱く、安心をするんだ。ジークフリートになら全てを捧げてもいい。それほどまでに君に信頼を置いているよ。」
中性的な声。華奢な体つき。潤んだ瞳に柔らかそうな唇。
(だ、だめだだめだ!!俺は何を考えてんだ.........)
ロキは正面へと移動し、自身の胸へと手を当てる。日の光が眩しく、ロキの表情が見えにくい。
「僕の性別を気にしているのかい、ジークフリート。ふふ、僕は道化師。男にも女にもなれる紛い物だ。君が望むならどちらの性別にだってなってあげるよ?子を孕めと言われれば孕んであげよう。世界が欲しいといえば献上しよう。全てが君の行動原理になるように努めよう。」
「ロキ.......」
ロキは嗤っていた。光悦とした表情で、悪役が見せる悪い笑みで。
「______________僕の親友ジークフリート、願いを言ってごらん?」
 




