トリックスターはご満悦
「___________なんだよ、友達は嫌か?」
道化師と言う「職業」を天啓で得てから僕は道化師を演じて来た。イカれた野郎だと何度罵られたり殴られたりしただろうか。僕はただヘラヘラと笑い、嗤っていた。
「ぼ、僕は.......」
男爵家の五番目に生まれて勘当。そりゃそうだ。道化師と言う職業は相手を騙すことしか出来ない無能な職業。家族に見捨てられ、裏切られ続ける人生。僕の人生は無価値で必要のない道化の様な人生。ならば道化は道化らしく世界を欺き、混沌に陥れよう。
(自分の存在を認めて貰うために。)
そう考えていた。学園に来るまでは「暗殺者」として影で腕を磨き、研鑽した。最も僕は直接手を下すことは少なかったけど。策略を張り、相手を動かし罠へと引きずる。仲間同士に亀裂を入れ仲違いをさせ殺し会わせる。薬や洗脳で人間の心を何回も壊した。
(生きている心地がしたのは相手を陥れ、絶望の顔を見せてくれる時だけだった)
殺し、欺き、地獄へと落とすことが嗜好の喜び。僕は嗤いながら血を浴びる。
「.......なっても、いいのかい?」
だけど人恋しさもある。我が儘で寂しがり屋の僕。かまって欲しいから虚勢を張り多弁であるけれど、誰からも相手にはされなかった。
「はは、なってもいいかなんて聞かなくていいだろ。俺たちはもう友達だろ。」
友達に憧れたんだ。学園に入学した理由もそうだ。普通の人間として扱われたい。年相応の友人と談笑をしたい。ただ、それだけの理由で僕は.......
「は、はは!僕たちは親友だ!踊ろう!偽ろう!世界が終わるその時まで!」
ジークフリートの手をとり、はしゃぐ。
「おいおい、大袈裟だな。」
そんな僕を見て彼は笑ってくれた。小馬鹿にするような笑いじゃなく、ただ友人に向ける優しい微笑み。
(入学して良かった.......出会いは何時だって人を変えると詩人はいう。)
まさにその通りだ。【アングルボザの呪い】の解錠は先送りにしよう。混沌よりも今は友人との青春を楽しみたくなった。




