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虚無と抱き合うということ  作者: 骨もけら
全て私のせい
7/22

その鹿は強く、そして

不定期すぎて申し訳ないです。

 目の前で繰り広げられている光景は、最早地球で起こり得るものでは無かった。

 熊が後ろ足で立ち上がり、大きく息を吸い込む様な動きを見せる。それに合わせて狼達が鹿に向かって走っていく。鹿は迫り来る狼達に向けて黒い煙の様なものを吐きつけ、鹿の正面に迫っていた一頭に直撃する。すると狼の体の輪郭が一瞬ブレたように見えた次の瞬間、その狼は足を止め、蹲って震え出した。


(なんかあの黒い煙やばそう…。吸い込んだ煙が脳に何か影響させたのかな?)


 その時、


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 周囲の雪を跳ね除けながら熊の咆哮が質量でも伴ってそうなレベルで鹿に突き刺さる。

 黒い煙に直撃しなかった他の狼達に囲まれていた鹿は、その咆哮を真面に食らった。


(あの熊やば…。あんな衝撃波出せる熊なんて絶対地球にはいないわ。うん。もう認めよう。ここは100%異世界だ)


 あんなのを見せられてしまってはもうこれ以上異世界を認めないというのは意地っ張りになってしまうだろう。

 雪煙が晴れていき、熊の咆哮による被害が露わになっていく。斜線上にあった木が根元から消し飛んでいた。斜線にギリギリ被っていた木も半分以上削られて今にも倒れそうになっている。

 だが、そんな中でも鹿は何の痛痒も無いと言わんばかりに立っていた。

 恐ろしい。素直にそう思える。あんな木が根元から逝くような攻撃食らってピンピンしてるなんてとんでもないヤツだ。きっと熊と狼達は外見に騙されたのだろう。元の世界ならまず間違いなく被捕食者であろう外見をしているのに、あいつは…。

 鹿が、反撃だ、と言わんばかりに突進する。走り出すと同時、角が青白く光り輝き、その長さを増す。狼達と熊が飛びかかる。狼達と熊が飛び上がって地面から足が離れたその瞬間、鹿が急加速し、角を振りかざす。長く伸びた角は熊と狼達全員を易々と切り裂き、一瞬にして粉微塵にした。血の一滴すら残さない、正真正銘の粉微塵であった。


 熊と狼達だった粉は、山風に乗って散っていった。

 

(ありえないでしょ…。あの鹿強すぎるんだけど。最後の一瞬で足が地面から離れて回避出来ないタイミングで急加速して一気に斬り刻むって…。それ鹿がやるの!?なんかアニメとかでたまに見るような剣の達人がやるもんでは?と、とりあえず決着ついたし、気付かれる前に小屋に戻ろ…)


 そうして私は、小屋に戻った。


 鹿が、私を見つめていることに気付かずに。



◆◆◆◆◆



 その男、名をタイネと言い、最上位の仕事屋であった。タイネは剣鹿族の生まれである。剣鹿族とはその名の通り、剣を扱う鹿族の総称だ。タイネは剣鹿族の中でもとびきり強く生まれ、5歳で生え始める角はしなやかだが決して傷付かず、そして自由にその長さを操ることができた。顔も良く、腕も立つタイネの将来は安泰かと思われるが、そうはならない。何故なら、タイネは自身の欲望に非常に忠実であったからだ。

 

 フィルドバルド統一帝国の北西に聳えるアーグソン山脈の麓に位置する街、ニーネルの公衆食堂で、タイネは溜め息をつく。


「はーあ。そろそろ金稼がねぇとなぁ」


 手元には財布用の小袋と雑品入れ。腰には人型の時に使える最低限の得物。身に纏っている寒さを凌げるだけの上着。これが今の彼の所持品全てだ。小袋の中には粗銅貨4枚と純銅貨1枚。到底明日を迎えるには足りない額だ。

 この公衆食堂は仕事屋達の集会所兼仕事斡旋所になっており、店内の掲示板には張り紙形式で依頼票が出される。

 タイネは掲示板の前に立ち、報酬のいい仕事を探す。


「冬だし碌なもんがねえな…」


 夏場であれば、アーグソン山脈に用がある学者や薬屋の護衛とかで儲けるところだが。


 「…おっ?これは…」


・内容:アーグソン剛力熊の毛皮と纏雷狼の毛皮、酷冷石の調達

・報酬:純金貨10枚

※尚、全ての素材を同時に調達した場合のみ依頼達成を認める。


「これだな」


 アーグソン剛力熊はアーグソン山脈の固有種だ。他の剛力熊類はあまり山には住み着かないのだが、アーグソン剛力熊は完全に山に適応し、アーグソン山脈という過酷な環境下で鍛え上げられ、ただでさえ強力かつ危険である剛力熊の3倍は強いとされている。特に大音量の咆哮と共に発生する指向性を持った衝撃波は非常に危険であり、直撃は死と同義とまで言われる。

 纏雷狼はその名の通り雷を纏った狼だ。大抵5頭で動いており、個体間の連携に優れている。個人で相手するのは非常に危険だと言われる。

 しかし、タイネにとってはこいつらなど雑魚同然だ。今まで何度も狩り殺してきている。アーグソン剛力熊は自身の膂力に物言わせて一直線に突っ込んで来るだけだし、纏雷狼は一頭行動不能にしてしまえば割とあっさり連携が崩れるのだ。

 酷冷石もアーグソン山脈でよく採掘される鉱物だ。夏場は周囲の岩石と全く見分けが付かないのだが、冬になって気温が下がってくると青く輝き始める。周囲の気温によってその性質を上下させ、極低温下においては金や銀以上の展性や延性、電気伝導率、魔力伝導率を誇り、硬さは金剛に勝ると言われる。アーグソン山脈はその気温の低さから良質な酷冷石が採れる。しかし当然ながら、採掘には多大な労力がかかる。しかも、未加工の状態では魔力を加え続ける事でしか変形しない為、採掘者は大量の魔力を持っていることが条件となる。

 タイネでなければ割に合わない仕事であろう。


 早速仕事を受け、出発した。


 雑品入れに衣服を全て収納して全裸になり、人型から獣型へ変わる。獣人族と総じて呼ばれる種族の者は皆人型と獣型を入れ替えることができ、タイネは仕事の際はもっぱら鹿の姿で行うのを流儀としている。人型での雪山は何かと不便だ。足はとられ、みるみる体力を消耗させてしまう。少なくとも人型よりは獣型の方が動きやすいというのは、獣人族系の仕事屋では常識である。

 山中を探すこと暫く。開けた場所でアーグソン剛力熊と纏雷狼が争っているのを発見した。


(おいおい。下手に戦うなよ。お前らの毛皮が穴だらけになって報酬額が下がったらどうすんだ?)


 両者の戦いに躍り出る。突如現れた餌に両者の動きが止まりかけるが、すぐさまこちらに爪と牙を繰り出そうと飛び掛かってくる。まるでこいつを先に仕留めた方が勝ちだ、と言わんばかりのがっつき様である。しかし、タイネには通用しない。恐ろしく速いステップで攻撃を躱し、自在を伸縮する角で切り刻んでいく。


(うーん。少し狭いか?おっ、あの山小屋周りかなり開けてんな。あそこまで引っ張るか)


 逃げる動きを見せるタイネを、両者は追い縋って仕留めんとし、小屋の前まで辿り着く。纏雷狼が前に飛び出す。タイネはそのうちの一頭に精神系魔術に分類される『隔絶』を吐きつける。その効果によって、吐きつけられた個体は怯えだして蹲った。


(今までずっと仲間がいたもんな?急に一人になるってのは恐ろしいよなぁ!?)


 それでも他の纏雷狼達はタイネに噛みつこうとしてくる。


(チッ、…なるほど。失うことに慣れていなかったのはお前だけだったみたいだな!)


 いつもなら連携が崩れる筈だが、この群れはどうやら経験が豊富らしい。驚きから少し動きが鈍っていたところを突かれ、危うく噛みつかれそうになる。


(チッ、クソが!)


 その時、


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 アーグソン剛力熊の咆哮が轟き、衝撃波がタイネの身体に迫る。


(…!!防御を…!!)


 タイネは咄嗟に自分の魔力を全て注ぎ込み、一瞬の内に防御結界を纏い、身構える。その直後、途轍も無い衝撃が身体に走り、吹き飛ばされそうになる。しかしなんとか踏み留まった。


(…危ねぇ。一瞬でも結界張るの遅れてたら死んでたかもな。だが残念だったな?不発だ。でも、魔力を使い切っちまった…。ああクソ!やっとこさここまで溜めた魔力だったってのによぉ!)


 獣人族は総じて魔力をほとんど持たず、最大貯蓄量も回復量も非常に少なく、遅い。タイネは生まれつき貯蓄量は多かったが、回復量は他の獣人族と同じくらいであった。タイネの場合、魔力が満タンになるまでにはその貯蓄量の多さもあって約3ヶ月かかるのだ。つまり、もう依頼を達成することは出来なくなったということだ。


(クソ!クソクソクソ!!!もうこうなったらテメェらを八つ裂きにしないと気が済まねえなあ!!?)


 仕留められていないと見た熊と狼が、自分に飛びかかってくる。


(フッ、バカが!死ね!)


 角に意識を集中し、眼前の光景に線を入れる。その線を辿るように駆け出し、角を振るう。熊と狼達がタイネの操る棚の斬撃によって粉微塵と化した。

 

(はあ、クソ…。暗くなる前に帰るか。また新しく仕事出てるといいんだが…。……ん?今、小屋の方なんかいなかったか?あっ!まさか遭難者か!?それならツイてるぞ!捜索願が出ていれば確実に金が手に入るし、出てなくても本人から取り立てればいい!よし!善は急げ、だ!まずは置いてきた荷物を回収して、すぐに戻ってこよう!頼むから死んだらするなよ!俺のためにもな!)


 タイネは走り出す。首の皮が繋がったと勘違いして。


タイネの第一印象はチンピラです。


戦闘描写ムツカシイネ…

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