雪山中級サバイバル ①
良かったね。
いつまでも落ち込んでる訳にもいかないよね…。
まずは現況を確認しないと。私は今、木造の小屋に入って暖を取っている。外は猛吹雪だ。風の音がとてもうるさい。小屋にあった薪にライターで火を付けて何とか暖を取れている。
まさか異世界に転生してすぐサバイバルする羽目になるなんて思わなかった。まぁまだここが異世界であるという保証なんて無いけどね。もしかしたら某探偵漫画の主人公みたく薬で若返っただけだという可能性はまだあるんだから。
サバイバルの基本は衣食住の確保と正気を保つことだ。ここは異世界かも知れない。魔法とかあるかも。
絶対に生き延びてやる。生き延びて土地も人間関係も狭苦しかった日本では出来ないようなことをするんだ。
そうやって妄想していると、自然に生きる気力が湧いてきた気がした。未来に希望を持てるなんて何年ぶりだろうか。日本では毎日が地獄でしかなかったのに、暫定異世界に来た途端これとは。もしかして、この世界の方が私に合ってるのかな。…まだ早いか。
さてと、体も温まってきたことだし、なんかしないとどんどん思考が悪い方へ流れちゃうから、行動開始といきますか。
まずは小屋の物色だな。何か使えるものがあるかも知れない。特に毛布類があればいいな。今はまだ日が出てるけど夜になったら一段と冷え込むのだろうしね。夜に行動するのはサバイバルでは危険らしい。
ましてやここは暫定異世界だ。割とマジで命に関わるかもしれない。室内を改めて見回すと、入ってきた入り口から見て右側の壁に机があり、正面に大きな棚が三つ並び、左側の壁には薪割り用と思しき斧や工具類が立て掛けてある。
私はまずマッチを見つけた机を調べることにした。結構収納があるタイプの机だ。上側の引き出しにはもう一箱マッチを見つけたがこれだけだった。
下側の大きな引き出しには一匹の鼠の死骸があった。大学の研究室でマウスを扱ったことがあったからそこまで驚かなかった。だが引っ張り出してよく見てみると、頭から小さな角が生えていた。それに私が知ってる鼠より手足の爪が鋭いように感じる。こんな鼠は地球にはいない。やはりここは異世界なのか。とすると、この鼠はよくある魔物ってやつなんだろうか。
まぁいいか。
次に私は一番机に近い棚を調べた。棚の前には本が大量に落ちている。こういう所って絶対黒いカサカサくんがいると思うので、あまり近づきたくないが、サバイバルではそんな事いっていられない…よね…。
仕方なく覚悟を決めて一気に本を両手で横に押しやる。何も動くモノは無かった。良かった。なぜ態々本を押し退けたかというと、棚の下に両開きの取手付きの戸があるのを発見したからだ。絶対カビ臭いだろうし、虫の死骸とかいっぱいあるだろうけど、室内をパッと見渡しても毛布類はない。なら、探すしかない訳で。
今一度私は覚悟を決めて戸を開く。戸の中は埃っぽいが虫の死骸とかは無く、変な匂いもしなかった。
そしてなんと、奥の方に布らしいものを見つけたのだ。私は堪らずそれを引っ張り出して広げた。縦横二メートルの黒色の大きな布であった。しかも裏表があり、裏地は何か動物の毛皮でとても暖かそうであり、表地は硬いがしなやかな革のようであった。
「凄い…。めっちゃあったかい!」
オフィススーツでは味わえないこの圧倒的なまでの温もり。空気中に抜け出ていた体温を余さず捉えて離さない断熱性。日本の高級服屋なんて行ったこと無いから分からないが、今この瞬間は今までの人生で初めて心から安心を実感出来たのだった。
私は暫くこれにくるまって温まった。残り二つの棚の収納にはこれと同じ素材の手袋と上着、ズボンが入っていた。私はすぐさまスーツの上からこれらを着た。この装備を置いていってくれた人には感謝しかない。本当にありがたかった。
日も落ち始めた。私は緊張の解れと暖かさからうとうとし始め、火に少し薪を焚べてから睡魔に身を委ねたのだった。
上級クリアは人外の領域…!クリアすればきっと世界の見方が変わるであろう…!!