唐突な命の危機
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
私は詰めが甘い。これは自他共に認めていたことだ。学生時代はテストで名前を書き忘れることなんてよくあったし、社会人になっても報告書のチェック項目を一つ飛ばしてしまっていたりした。
もう何度目かの溜息をつく。その吐かれた息は白い。
私は今、小屋の中にいる。全身が濡れて冷たくなっている。隙間風は情け容赦なく部屋の温度を下げ続け、外からはゴヒュー、ゴヒューという凄い風の音が間断なく聞こえてくる。
どうしてこんなことになったんだろう………
◆
私が目を覚ましたのは温かいベッドの上でも、ましてや森の中でもなかった。それもそのはず、私が転生して最初に思った感想はこうだ。
「寒過ぎ!死ぬ!!」
一面見渡す限り白一色。白、白白白白………
そして猛烈に吹き付けてくるもはや暴風と呼んで差し支えない程の風。その風に乗って飛んでくる雪は何の減速もせずに私の肌に当たっては溶け、当たっては溶けていく。その度に体温が奪われていく。
猛吹雪だ。それも結構酷い時の。
「どういうことですか!山村さーん!!」
私をここに送り出した者の名前を叫んでも帰ってくる声は無く、代わりに肺に冷たい空気が入ってくる。
「ヤバイ!寒すぎる!マジで洒落にならないんですけど!」
かまくらでも作らないと15分と持たずに死ぬと思った私は、辺りを見回す。
「あった!」
50mぐらい先に私の背丈を超えている雪山を見つけた私は、そこに向かって一目散に駆け出した。しかし、どうにも足が重い。雪の上を走っているのだからある程度は承知の上だが、明らかにいつもの歩幅ではない。
「…ん?歩幅?」
そうだった。私は転生手続の時に10歳の体を選択したんだった……。手元を見てみると、会社で死んだ時に着ていた服がダボダボになっていた。当然体が縮んでいるのだから歩幅も狭くなっている。
走るのが遅いと、当然のように暴風雪にさらされる時短も長くなってくる。
「ヤバイ!死ぬ!寒い!ヤバい寒い死ぬ!!」
極度の寒さと転生直後でこんな状況に陥ったせいか、語彙が3種類で凍結される。
必死に走って小高い雪山の前に着いた私は、着いた瞬間からほぼ素手で雪山を掘り進んでいく。この猛吹雪から逃れるためなら手の感覚を心配するなんて考えられない。考えてる暇もない。
もう手先の感覚は消え、少しずつ刺すような痛みを覚え始めた頃、掘っていた先の雪が崩れて木の板が現れた。
「これ掘り出せば屋根に出来るかも!」
急いで周りの雪から板を引きはがしていく。すると、木の板に取っ手がついているのを発見した。
「これ、もしかしてドア的なやつ?」
この板がもし本当にドア、もとい入口的なやつならこの向こうに空間がある可能性が高い。そう悟った私は取っ手に手を掛け、思い切り引っ張る。だが手応えがない。
「もう一度!」
手応えは無かった。
「引いて駄目なら押す!」
お!手応えあり!もう一度だ!
そぉーれぇーー!!
ゴゴゴという音がして扉が少し開き、向こう側が見えた。私はその隙間に体を捻じ込み、少しでも早く室内に入らんとする。無理矢理隙間を押し広げ、体が全部入ったと感じた瞬間、扉を勢い良く閉める。
こうして私はようやく猛吹雪から逃げおおせたのだった。
◆
「はぁ……」
寒い。
風は防げたんだから、次は暖を取らないと。
見た感じ作業小屋のようだ。部屋の隅に薪が大量に置いてある。火が付けられる道具、マッチやライターなんかがあればいいが……。
寒さを何とか堪えつつ探すこと暫く、作業机の引き出しの中にマッチ箱を発見。
「やった……」
これで暖が取れる……。
少し開けていた場所に薪を組み上げ、火の付いたマッチを近づける。すると、すぐに火が燃え移りまあまあな大きさの炎になった。
「なんて引火性の高い木…ありがてぇ…」
早速見つけておいた椅子を持ってきて座り、手足を炎に近づける。熱がじんわりと伝わってきて末端の感覚が戻ってくる。
「はぁぁ……いきかえるー」
さてと、これからどうしたもんか……。
■■■
路地裏で老人は本をめくる。一文字も見落とさんとばかりの眼光を持って読んでいく。
ふと、老人の手があるページで止まる。
「ここに行けば、会えると、いうのか……」
絞り出すように言った声は、誰の耳にも入らなかった。
寒過ぎて手が動かんのよ。ヒーターありでこれよ。あかんよ。