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虚無と抱き合うということ  作者: 骨もけら
全て私のせい
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罪と祈り③ 地獄の講義

やはり例年この時期になると創作意欲が高まるなあ

 さて、話しをしようとは言ったが、転生手続の時みたく嘘で丸め込まれるのはもうごめんだ。その嘘で時間を稼がれてヘグさんが死に、騎士団の総力が私に向くのは絶対に避けねばならない。包囲からの脱出は最優先なのだ。


(会話をして情報を引き出しつつ、脱出の機を伺うことにしよう)


 まず、目の前のマッド騎士だ。この人の魔術……確か『遍在』、と言ったものはそのまま包囲の一つを担っている。どうにかして魔術を解除させなければいつでも私を圧殺できる。

 次に結界だ。『吸禍結界』。ヘグさんの過去話に出てきた、貫通魔術陣に重なって張られていたものだ。表面には何かの文字列が鎖のように連なり、至る所で輪を形作っている。効果は知らないが、名前からして禍想力(ヴラ)を吸うことで私達のような存在の力を削ぐのだろう。


 つまり、力押しでは勝ち目がない。策を講ずる必要がある。


(先にマッド騎士を……いやいや無理だ。さっき騎士さんに事象強化を使った反動で体の中がまだちょっとぐるぐるする……ぅえ。車酔いみたい……。)


 嫌な汗が滲むような感覚を覚える。

 でも聞きたいことがある。

 深呼吸して、なんとか酔いを追い出す。


 すると、マッド騎士が小さく笑い始めた。


「くく、くくくく」

「何が、おかしいのですかね」


 私が話しかけると、この人は途端に面白そうな顔を浮かべた。


「いや何、随分と人間臭い動きをするものだと思ってなあ」

「はい?」

「結界に捕らわれてからすぐに暴れ出すかと思いきや、正座して考え始め、襲ってきた酔いに対して咄嗟に口を手で塞ぎ、あまつさえ深呼吸して落ち着こうとしている。とても興味深い!」

「はあ……」


そりゃそうだろう。元々人間なんだから。


「まあいいです。ところで、寒くないんですか?金属鎧で雪山は辛いでしょう?」


 天気の話題。

 初対面の対話における無難な切り出しだ。


「……そうだな。寒くはないな。《環境影響無効》の装具を備えている」


 そういうと彼は懐から緻密な模様が刻まれた青いペンダントを取り出した。

 私はそれを見るや、駆け出し、奪おうと手を伸ばす。しかし、


「おおっと」


 難なく躱され、ペンダントを持つ手とは逆の手のひらから氷が打ち出される。


「うっ!……がはっ!」


 咄嗟に両手をクロスさせて頭を守ったが、衝撃は腕に来ず、拳大の氷塊はお腹にやって来た。

 まともにくらったせいで、背中から結界に衝突した。


「……お、女の子のお腹に攻撃するのはやめて欲しいですね……」

「女扱いはしているとも。顔を狙わなかったのだからね?」


 ははあ、つまりは私の両手防御なんてなんの意味もないってことか。ちくしょう。


「さて、話は続けるのかな?」


 目論見その1、装備を奪って弱体化は失敗した。……いいや、直で狙ったのが良くなかったんだ。


「……続けます」

「よろしい」




◆◆◆




「まあ、まずは自己紹介からだな。吾輩はサージ・モルベルスト。フィルドバルド統一帝国第二騎士団で魔術参謀長を務めている者だ」


 モルベルストが手の先を軽くこちらに向け、発言を促す。次は私の番か。


(前世での名前は……ある。でも、転生者だとバレるとまたいきなり襲い掛かられるかもな……)


 未だ記憶に新しい悪夢。狂った男の叫び声。

 あんなものはもう聞きたくない。


 うん。嘘吐こう。


「……私に名前は、ありません。ここ一ヶ月ほどをヘグさんと過ごしているモノです」

「そうか?ならば便宜上、引き続き《虚無》と呼ぶことにしよう。さて、どうやら《虚無》君は例の存在である筈だがかなり言葉が分かるようだ。《転移》に教わったのかな?」


 ここは嘘を吐く理由ないかな。


「いえ、ヘグさんに会う前から喋れてました。普通は違うと?」

「ああ。基本的に彼等は自らの気の赴くままに行動し、膨れ上がり続ける力を御する事なく、周囲一帯に振りかざすのみだ。言語など、会話という意味合いでは使わんなぁ」

「では、私たちは例外と?」

「……まあそうだな。そういう事になる」


 そこの認識に関してはヘグさんと騎士団側で齟齬は無いみたい。となると、成長型だから言語が扱えず、拡張型だから扱えるというわけでもなさそう。

 やはり、『災禍』という存在についてまだまだ知る必要がある気がする。ここで騎士団側の見解を聞いておくのは、後々人里に降りた時に役立つかもしれない。


 つまりこれからしなければならない事は、格上であるモルベルストの張った包囲からの脱出を図りながら会話で『災禍』に関する情報を聞き出さねばならない。場合によっては戦闘も起こりうる。


 あれ?これ、きつくない?


「さて、これから話し合いをするわけだが……情報を受け渡す配分を考えると、講義と呼んだ方が良いな?よしそうしよう」


 勝手に始めようとしないで欲しかったところだが、私の方もちんたらしてはいられない。


「どこから話すんですか?世界の成り立ちからですか?」


 一応、ある程度の世界史はヘグさんから教えてもらっている。それをもう一度聞くのは遠慮したいところだ。


「いや、その前に授業料をどうするか決める必要がある」

「授業料?」


 え、まって?金取るの?


「あ、あのすみません、お金持ってないんです……」


 思わず小声だが漏れてしまった。これはまずい。財布は前世に置いてきている。ヘグさんから小遣いとかも貰っていない。ちょっと前まで生きていくことに必死で、収入の確認は最早会社を辞めるための口実にならないかとしかしていなかったんだ。そも、前世のお金を提示しても受け取ってくれる気がしない。

 ていうか、この段階で金銭要求されるのは完全に想定外だ。春になったら街に降りて仕事を見つけて食っていこうと思っていたのだから当然だ。ヘグさんに借りるというのも考えたが、元社会人としてのプライドと少額とはいえ借金持ちになることへの嫌悪感が立ち塞がり、断念した。


「なんだ?手持ちは無いか?」


 ヤバい。聞こえてたか。


「流石の吾輩も対価も無く知識を授けることはしないのだが?」


 こんな異世界に来て、レジに並んで会計しようとしたら財布が無いことに気づいた時みたいな冷や汗をかくことになるとは思わなかった。

 いや、あの時よりヤバいぞこれは。私の今の立場では、穏便に情報が聞ける機会がくる気がしない。だからこのチャンスを活かそうと思ったのに……!


 こうなったら賭けだ。


「お金は、ありません。ですが、私との戦闘経験を対価と認めてはくださいませんか……!?」


 私という存在は、非常に危険であると同時に、この人のような研究肌な人からすればかなり貴重だろう。

だから決してこれは身売りなどではない。


「ほぅ、そうくるか」

「私の様な話の通じる存在と相対する機会はいくらあなた方帝国騎士団であっても少ない筈です。そんな機会、見逃すおつもりですか?」


 自分でもうけるとは思えない提案だ。でも今はこれぐらいしか情報を得るための対価として差し出せそうなものがない。どうだ……?


「ふむ……構わない」


 キタコレ!!


「ただし、これから行う講義は戦いながら聴講したまえ」


 えっ


「また、一単元毎に理解確認ののための試験を行う。不正解だった場合、即座に『吸禍結界』の実出力を最大値に設定し、我が分体全てで君を圧殺する」


 はい!?


「では、まずは君達に対する我々の立場と世間の認識から。始めよう」


 そう言うと、モルベルストは懐から短杖を抜いて構えた。


「『雹雷オルド・ティディア』」


 瞬く間に大きな黒雲が現れ、冷たい風と共に雷鳴が轟いた。


「ちょっ!!」


 地獄の講義が、今始まった。

 

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