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虚無と抱き合うということ  作者: 骨もけら
全て私のせい
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転生手続

 覚悟を決めた私に、山村さんが言ってくる。


「では、これより転生手続を開始したいと思います。どうぞ、おかけになってお待ちください。」


 目の前にあったカウンター席の椅子が引かれて、着席を勧められる。


「ありがとうございます。」


 改めて辺りを見渡してみる。本当に市役所のような光景が広がっている。


(なんか懐かしいな…。)


 私はふと、小さい頃にお父さんに連れられて来た市役所を思い出した。面白いことなんてないぞ、と困り顔を浮かべていたのに、私は駄々をこねて無理矢理ついていったのだ。

 感傷に浸っていた私に、反対側の席に座った山村さんがまた声をかける。


「では、こちらの書類に目を通してご記入箇所にチェックをして頂いた後、下の欄にハンコをついて頂きます。それで転生手続は完了となります。」


(ハンコ?今私手ぶらなんだけど…。…まさかハンコが無いと転生できないとかあったりする!?サインとかでもいいのかな…)


「あ、あの…、私今ハンコ持ってないんですけど、サインとかでもいいですか?」


「サインではこの書類は受理できません」


(まじか…。私転生できないのかな…)


 半ば落ち込みかける私に、またも山村さんが告げる。


「ハンコでしたらご自分で用意されたらどうでしょうか?」


(…は?何を言っているのこの人?ハンコが今すぐ用意できるわけないでしょう。でも、冗談には聞こえないし…)


「えっと、どういうことですか?」


「ここはある種の精神空間。夢の中のようなものです。ですので、本人が強く望めば望んだものが具現化するのです」


 そう言うと山村さんはおもむろに目を閉じ、何かを念じ始めた。…暫くすると、私と山村さんの間に熊のぬいぐるみがどこからともなく降ってきた。とても一般的に想像できる、普通の熊さんだ。上を見上げても何もない。こんなことができるなんて…。


「どうですか?結構可愛らしく出来ていると自負しています。では、今のようにしてみてください」


 いや、出来る訳ないじゃないか。でも、出来ないと決めつけるのもよくない、か…。


「やって、みます…」


 私はゆっくりと目を閉じ、いつも使っていたハンコを思い浮かべる。


(確か、入れ物は小さいがま口タイプのやつで、本体はオーソドックスな白いハンコだったかな)


 すると、コトン、という音がした。目を開けてテーブルを見てみると、思い描いていたハンコが現れていた。


「え、すごい…」


「お見事でございます。まさか最初の1回で成功されるとは。素晴らしい才能をお持ちのようですね」


 山村さん、すごいヨイショしてくる…。恥ずかしいな…。


「それでは、朱肉はお貸ししますので、ご記入が終わり次第押印をお願い致します。質問等ございましたら、その都度で構いませんのでご気軽に申してみてください」


 私は上機嫌に頷き、書類を読み始めた。


 書類の大まかな内容はこうだ。

 ・転生を希望する世界

  □ファンタジー世界 【ゲーム要素】有 / 無

  □サイバーパンク世界

  □精神世界

  □半精神世界

 ・転生年齢

  □0歳(生まれたばかり) □5歳  □10歳  □15歳  □17歳  □20歳  □25歳

 ・転生場所

  □市街地  □村  □森  □洞窟  □溶岩流  □雪山

 ・転生種族

  □人間  □人間以外

 

 未練・不運計測値が100以上の方には、以下のサービスから1つ好きなものをお選びいただけます。

  □出生申請(王侯貴族、名家の血筋など)

  □強力なスキル・ステータス

  □圧倒的な超幸運

  □強靭な精神力

  □顔面偏差値の申請

  □飲食・睡眠の不要と疲労の大幅軽減

  

 至れり尽くせりじゃないか。どうしたもんか。

     

 まずファンタジー世界はやっぱり憧れるから決定かな。ゲーム要素か…。RPGほとんどやったことないから無しで。

 年齢は…、もし赤ん坊の時に事故とか起きたら拙いから、最低でも自分で動ける年齢がいいな。…となると、10歳以上か。というか、30歳とかにできないのかなと思ったけど、私は今25歳だからもしかしたら現在の年齢以上で転生は出来ないのかな。まあ、折角新しい人生を歩めるのにわざわざ自分から楽しめる時間を減らすなんてしないけど。

 よし、10歳スタートで行こう。不審者にならないかだって?………大丈夫でしょ。多分。


 場所は…、村かな。最近ずっとパソコンしか見てなかったから緑が恋しいんです。てかなんで転生場所の候補に溶岩流や雪山があるの?死ぬじゃん。あ、多分人外に転生して、もしドラゴンとかになっちゃったら即討伐なり捕獲なりされちゃうからってことかな?

 一応山村さんにも質問してみたら、その認識で結構です、と言われた。よし。

 種族は人間一択。異論は認めん。


「……あ、上のほうの項目は終わったんですが、下の未練・不運計測値ってのは…」


「それでしたら、そちらにあります機器に手をかざして頂くだけで計測できますよ」


 山村さんの手の方向には、レジでカードの暗証番号を打ち込むお馴染みのやつがあった。

 手をかざしてみる。すると………


「計測値194…。サービスの対象ですね」


 山村さんがいつのまにか自分の隣にいた。


「努力が報われたんですかね…」


 前世の不運やクソ野郎共に感謝という名の煽りの言葉を頭の中で送っておこう。バーカバーカバーーーカ。

 …さて、いつまでもマウントをとってるわけにもいかないよね。

 サービス…、どれも良さそうだな…。うーん。迷う。顔面偏差値はいいや。人間中身が大事よ。ゲーム要素無しで行くから「強力なスキル・ステータス」は消えるか。転生場所を村にしたいから出生申請もしない。運とか精神とかよく分からんわ。

 消去法だけどやっぱこれでしょ。「飲食・睡眠の不要と疲労の大幅軽減」。


「山村さん、決めました。『飲食・睡眠の不要と疲労の大幅軽減』にしたいと思います」


「承りました。効果は転生直後から発揮されます。勿論、お客様が食べたいと思われたときはちゃんと食事が出来ますし、寝たいときは寝られますよ」


「あ、確かにその懸念がありましたか。ありがとうございます」


「いえいえ」


 よし、後はもうハンコ押すだけだ。それが終わったら新しい世界、新しい人生が私を待っている。

 がま口を開け、ハンコを取り出し、朱肉を付け、ポンッとな。そして書類を山村さんに差し出す。

 

ようやくこれで…


あれ、意識が遠のく…


そうか。提出した瞬間発効なのか…



なんか手際よくていいな……



ふふふ………




楽しみ過ぎる………






そうして私は山村さんのとても安堵した表情を最後に、淡い光に包まれた。


 


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