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第9話「少女騎士奮戦」

「奥にはパッセや子供達がいる、開けた窓から侵入を許さないように、ヴィスパー!」

「り、了解ですっ!」


 薄暮に塔より迫りくる宙を舞う影。

 真っ直ぐではなく、蛇行や旋回をしながら近づくそれらを睨みながらソラが声を上げると、ヴィスパーは緊張感のある返事で応じる。


『来るんだ······』


 身体の震えを抑えられない真愛。

 朝には都会のオフィスビル街にいた自分が夕暮れには道の世界で魔物を迎えている。

 まさに奇なりというやつだろう。


「撃ちます! 私の周りから離れて、視線も外して下さいっ!」


 ソラの凛とした高い声。

 撃つ!?

 持っているの白銀の剣。

 何を撃つの?

 ソラは自分の鼻先に左こぶしを握りしめ、瞳を閉じて何かの言葉を呟く。

 聞いても全く理解の出来ない言語の数秒間の詠唱の後、ソラの目が見開かれ左手が迫りくる魔物の影に向けられる。


「ライトニング!!」


 左手を纏うように走る眩しいばかりの電流、雷鳴が轟き、左手から放たれた電流は遠く宙を舞う影に直撃し、衝撃音と爆発と共に数体の影が燃え上がりながら落下していく。


「······マジかよ」

「マジだね······」


 天城兄妹は唖然としてしまう。

 始めて目にした魔法。


「ソラさんはホントに天才なんです、剣を持たせても大人顔負けだし、魔法は神聖聖徒会と仲が悪い伝統派魔術師協会の大師長も認めるくらいなんですから!」


 興奮気味にヴィスパーが話す。

 ファンタジーには疎い真愛だが、ソラは剣でも魔法でも戦える万能の能力という訳か。


「やった!」

「流石はソラちゃんだ!」


 周囲の者達は歓喜の声を上げるが、ソラはフゥと一息つくと、


「何分の一も落としてません! すぐに来ますよ、格闘戦では絶対に一人にならないように!」


 ソラは剣を構え直して叫んだ。





「きたぞっ!!」


 翼を羽ばたかせて飛んできた黒い影はスピードを落とすことなく、そのまま神聖聖徒会の教会の庭めがけて着地したが、着地地点の目測を誤ったのか庭よりも少し手前の道路に降りてしまったようだ。

 ゴロゴロと石畳を転がり、教会の塀を突き破って庭に現れて、咆哮を上げる。

 蜥蜴の顔で二足歩行、手には盾と剣を持ち翼まで生えた獣人。


「リザードマンだ!」

「かこめっ!」


 農具や手製の槍など立派とは言えない武器を持った数人の自警団員がリザードマンを囲む。

 誰と戦うか? 獣人の考えを理解するには至らないが、その動きが躊躇の為か一瞬止まったのは確か。

 次の瞬間に顔面に拳大の火の玉が直撃、獣人はゆっくりと背中から斃れた。

 火の玉の飛んできた方向には手をかざしたソラ。


「やったぜ、ソラさん!」

「流石だ!」


 ヴィスパーはやんやの喝采。

 周りの男達も盛り上がるが、いつの間にか教会の上空に達していた数匹の鳥のような魔物から掴まれていた肩を離され、各々に魔物が教会の庭に降り立つ。

 何組みかのそれはまるでコンビネーションのあった軍隊の降下作戦の様にも見えた。


「飛べなきゃ城壁を越えられないから、ああやって来るんだ······」

「頭を使うのは人間ばっかりじゃねぇ、って事だ、あんまり数が来るとソラの魔法も全部はやりきれないんだな」


 不安げな真愛、大河も舌打ちする。

 ソラの魔法に迎撃されないよう、今度は何匹かが纏めて来たのだろう。


「オークだ!」


 着地したのは禿頭の4体の筋骨粒々な大男。

 だが口からは牙が伸びており、手足には鋭い爪、耳が僅かに尖っているという獣人だ。

 各々がサイズの大きいハンマーや斧を持っており、その怪力は用意に想像がつく。


「1対1は避けてっ! 1体ずつ! 1体ずつ倒していけばいいからっ!」


 ソラはそう指示を出すと白銀の剣を振りかざしてオークの1体と戦い出す。

 一騎討ちを避けろというのは、戦い慣れない他の者への指示であり自分は違うのだろう。


「囲め!」


 十数人の自警団員は何組みかのグループに別れて、残る3体のオークを迎え撃つ。

 ソラと対峙するオークが唸り声を上げ、ハンマーを振り下ろすが、ソラは身を屈めてかわす。


「ハッ!!」


 裂帛の気合いと共にソラの切り上げがオークの胸板を捉える。

 飛び散る血飛沫。


「よしっ!! 流石はソラさん!」


 ヴィスパーが拳を握りしめるが、オークは大きく体勢は崩したが絶命はしておらず、ハンマーを握る手ではなくソラに向かって前蹴りのようなキックを繰り出してきた。


「!!」


 白銀の剣を盾がわりに構えたソラであったが、その前蹴りを受けてしまい、まるで打ち出された様に宙を舞い、地面に背中から落ちる。


「うぶっ!!」


 前蹴りのダメージもあるが、地面に背中を打ち付けた時に肺から空気が全て吐き出されるかのような衝撃に端正な顔を歪めるソラ。


「体格の差が······!!」


 真愛は思わず唇を噛む。

 ソラの攻撃が一撃で相手の致命傷にならなかったのも、前蹴りの反撃がダメージが案外に大きいのもそれが原因に違いない。

 オークは身長は50センチ以上、体重は少なくとも100キロはソラよりも上回るのだ。

 技やスピードでは勝てても、重量さはパワー、耐久力の差を生んでしまうのだ。


「まだまだっ!」


 素早く立ち上がる。

 少し咳き込んだがまだソラは戦えるだろう。


「頑張って!! ソラちゃん!」


 声援を送る真愛。

 ソラは一瞬だけ視線をこちらに送り、白銀の剣を構えながら僅かに笑う。

 前蹴りで離れた距離をオークが詰めようと動き出すが、それよりも早くソラの魔法の詠唱が始まる。

 この事態の解決にソラの選んだのは魔法であった。

 オークの駆け足と咆哮。

 そうはさせるか、とばかりに吠えて横凪にハンマーを振るが、ソラはそれを前進して伏せながらかわした。


「うまいっ!」


 互いに通り抜ける形になり、オークは勢いが止まらずに距離が再び空いた。

 ハンマーの攻撃は後ろにかわして回避するのが確実だったかも知れないが、それでは突進してくるオークとの距離は縮まるばかり。

 交差する形での回避なら相手の突進スピードも相まりこちらも前進するから距離が空くのだ。


「エクスグラヴィティア!」


 詠唱を終え、ソラの叫びと共に白銀の剣の刀身に黒い炎の様に揺らめく影が宿る。

 何の魔法!?

 真愛の疑問と同時にオークは地面を蹴散らしながら、ターンしてソラに再び走り出す。


「そりゃああっ!」


 ソラはそれに対して跳躍し上段から剣を振り下ろす······だが、両手で構えたハンマーの柄に剣は受け止められた。

 高い金属音。


「ああっ!」


 悲鳴を上げてしまう真愛。

 剣を受け止めているハンマーは使えないが、オークはこの状態から反撃は可能。

 さっきみたいに蹴りを繰り出してもいいし、強引に体当たりしてもいい。

 体重の軽いソラの跳躍しての攻撃を受け止める事に成功したこの状態は遥かにオークの有利。

 だが······ソラの口元は笑った。


「フレイヤッ!」


 ソラの叫びと共に瞬時に様相は変わる。

 白銀の剣に纏った黒の影の揺らめきが増し、同時にソラの前体重を乗せた上段攻撃すら受け止めていたオークは、


「ヴォォォォォォ」


 と、苦悶にも聞こえる雄叫びを上げたのだ。

 ガクンッ!

 ハンマーで剣を受け止めたまま、オークの両膝が地面に付きソラも着地する。


「え!?」


 真愛は手を口元に当てて驚く。

 まさか······いくら全体重を乗せた跳躍からの上段とはいえ、ソラの体格であの屈強な体躯を持つオークを圧したのだ。

 有り得ない。

 それどころか······ソラの押しつける剣は更にオークを圧倒し、受け止めたハンマーが両膝をつくオークの顔面にめり込むまでになっている。


「エクスグラヴィティア······フレイヤッ!」


 歯を食い縛るソラが更に唸るように叫ぶと、白銀の剣に宿った黒い影は再び揺めき、遂にハンマーの柄はバキッという音を立てて二つに折れ、剣がオークの顔面に直接めり込み、


「はあああっ!!」


 ソラが高い声で上げた怒号と共にオークは顔面から真っ二つに唐竹割りにされたのである。

 飛び散る鮮血。

 返り血を浴びながら立つソラ。

 白銀の剣に宿った黒い影はもうほぼ消えていた。


「あの魔法は瞬間的に剣に凄い重力を与えて威力を増す魔法!? 技の切れが良くても押し負けする軽量のソラちゃんの弱点をカバーしている、ソラちゃんはやっぱり凄い」


 魔法を遠距離の先制攻撃にも、近距離での格闘戦にも十分に活かしている。


「でも······」


 少し黙っていた大河が口を開く。


「やっぱりまだ幼い、って言っても過言じゃない女の子だぜ、ほら」

「え?」


 息が上がっていた。

 白銀の軽装鎧の上からでも胸元も肩も息をする度に大きく動く。

 頬を伝う大粒の汗。

 

「喧嘩だって、大の大人や男だって初めは意気がって始めた奴が2分もやると体力を使い果たしてヘロヘロになっちまうんだ、ましてやあの化け物と殺し合いなら、あの歳の女の子の体力には酷ってもんだぜ」


 更にソラは魔法を使っている、その消耗も少なくないのだろう。


「少し休みたいところだが······」


 そこに響き渡る咆哮。

 別に戦っていたオークが二匹、ソラの目の前にゆっくりと歩いて現れた。

 後ろには一匹のオークと十数人の自警団員が地べたに倒れている。

 奮闘虚しく、一匹のオークは倒したが自警団員は一人残らず戦闘不能だ。


「······こいっ!」


 白銀の剣を再び構えるソラ。

 しかし、剣を上げる動きもどこか重さがあった。




「お兄ちゃん!」


 意を決した。

 この状況で名前を呼ぶのは無責任かもしれない、相手は不良やゴロツキではない。

 魔物、モンスターなのだ。

 しかし······真愛はオークとソラの戦いを観て、尚且つ兄の名を呼んだのだ。

 お兄ちゃんなら勝てる、と。


「真愛の許可が出たな······じゃあ、遠慮は全くなくいかせてもらうぜ」


 大河は木戸の枠をヒョイと飛び越えると、ソラに迫ろうとするオークに両手を合わしポキポキと指を鳴らしながら歩み寄る。


「大河さまっ、いけませんっ!」


 ソラが思わず声を上げるが、


「ここからは俺の勝負だぜ、ソラはゆっくり休んでな! 久しぶりにぶっとばし甲斐のありそうな奴なんで実はワクワクしてるんだ!」

 

 不敵な笑みを浮かべ、握られた大河の拳はまるで黄金のような光に包まれていた。



続く

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