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第8話「迎撃」

 連れてこられた建物はソラの属する神聖聖徒会という組織の教会であり、礼拝堂もあり大人の神父などもいたのだが隣街に避難してしまい、今はソラが中心となって以前から預けられた子供達を世話しながら暮らしているという。  

 女神シュティエルテルは大多数の国民が信仰している神であり、神聖聖徒会は国内最大の教団であるらしいが、街がこの状況ではそれも大した助けにならないようだ。

真愛と大河の二人は部屋で休むように言われていたが、特に疲れてもいないし外の空気も吸いたいのでソラの許可を得て、敷地の外には出ないという事で裏庭に出ていた。


「もう少しで陽が落ちるね、夕方だ」

「そうだな」


 街の西にはかなり低くなった太陽、北側にはそびえ立つ塔。

 真愛と大河は並んで塔を見上げる。


「やっぱ、たけぇな」

「上が見えないね」

「フェンリルって魔術師がさ、街を滅ぼしたいんならさ、あのままこっちに塔が倒れてきた方が早くね?」

「あのねぇ······フェンリルは街を滅ぼしたいじゃなくて、支配したいんでしょ? 街を潰したかったら初めから塔を街に落とせば良いんだから、城の天文官の人が空から塔が落ちてきたと言ってたでしょ?」

「そうだった、そうだった」

「······もう」


 後ろ頭を掻く大河。

 真愛は視線を塔から大河に移す。


「お兄ちゃん、ソラちゃんの言っていた勇者の予言覚えてる?」

「え? 言い伝えの事か?」

「うん」

「天を云々とか······仲間を云々とか」

「全然覚えてないね? さっきの塔の事といい、実は何にも覚えてないね!?」

「たはははは、いやいや」

「まったく······」


 笑いで誤魔化そうとする大河にジト目を向けてから、真愛はため息をつく。


「ほら、ソラちゃんの教えてくれた予言には勇者は天に向かって進撃して侵略者を倒し、頂から帰る、って言ってたんだ」

「それはどういう事だ?」

「天に向かって進撃というのは塔に向かって攻め込む、って事じゃないかな? そして侵略者フェンリルを倒して、頂、すなわち塔の頂上から元の世界に帰っていく、こんな感じに私は解釈したんだ、だから私達があの塔に登ってフェンリルを倒せれば······」

「塔の頂上から元の世界に帰れると?」


 振り向いた大河に真愛は頷く。


「そう、具体的な方法も確証はないけど、予言では私達が元の世界に戻れる方法を示してる」

「そりゃいいや、予言ってことはそうなるんだろ? 俺達はフェンリルを倒して無事に帰れる、っていうのが確定してるみたいな感じじゃん?」

「そういう解釈!?」


 そういう考え方もあるか。

 楽観的な返事をした大河に真愛は苦笑する。


「どこにも五体満足、二人とも無事に帰れるとはないけどね······それにさ」

「ん?」

「もっと気になる事があるんだけど······」


 真愛が切り出そうとした時、


「そろそろ陽が落ちます、建物の中に退避していて下さい」


 背後からソラの声がかかる。


「わか······うわ、」

「すげぇな」


 話を中断して振り返った先には、白銀の軽装鎧、白いマント、鎧と揃った柄の色の剣を腰に差したソラが立っていた。

 身長は150センチ半ばのソラであるが、着なれているのか、鎧との着合わせに違和感がない。


「ほ、本物の鎧だね?」

「コ、コスプレ感無しだぜ」

「何の話ですか? そろそろ陽が落ちますからとにかく建物の中へ、そこの勝手口から調理場に入れますから」


 さっきまで白の修道服のような格好をしていた可憐な少女の白銀の鎧姿。

 本物の雰囲気に驚く二人をソラは建物に入っているように指示する。


「避難はわかるけど、この建物は少し心細いな、いくらでも中に入られそうで」

「強い魔法ではないですが、この建物の周囲には魔法結界を張ってあります、下級の魔物なら建物に触れることも出来ません」


 大河の素直な不安。

 それは真愛も思っていたのだがソラは答える。


「それなら安心って事かな? じゃあソラちゃんも中にいれば······」

「そんな簡単じゃありません、魔力の強い魔物は結界を何ともしませんし、中には結界の素である魔方陣や魔術基盤を破壊して結界を無効化しようとする相手もいますから」

「だよねぇ」


 何かしら問題のある提案だと解っていながら聞いた真愛はソラの答えに首を傾げて苦笑した。

 魔方陣、魔術基盤。

 解らない単語について質問してみたいが、塀の向こう側の道路が騒がしくなってきた。



「ソラさん!」


 聖徒会教会の門からでなく、塀の壊れた隙間から入ってきた少年が姿を現す。

 年齢はソラと同年代だろう。

 栗色の髪の毛に可愛らしい顔立ちの男子。

 粗末な布地のシャツにスボンという格好であるが、右手には短刀が握られていた。


「ヴィスパー、壊れた所から出入りしてはダメと言っているでしょう!?」

「アハハハ、すいません」


 ソラに怒られたヴィスパーはバツの悪そうに頭を下げた後で、


「ええっと? そちらは?」


 と、ソラの後ろの真愛と大河を見てくる。

 二人に振り返りながらのソラの表情に少し迷いが見えたが、


「ヴィスパー、詳しくは後で話すけれど、お二人はとても大切な客人なの、だから今から貴方には2人の護衛を頼むわ、襲撃が始まったら教会の中をしっかり護っていて、お願い」


 そうヴィスパーに頼む。

 どうやらソラはこの少年に大河と真愛の護衛役を頼むつもりのようだ。


「え? みんなが戦ってるのに、ボクは結界のかかった教会の中にいろっていうんですか? 今は少しでも奴等を迎え撃つ手が欲しいのに」

「本当に大切な客人なの、ヴィスパーだから頼んでるんでるのよ? だめ?」


 ソラの頼みを一旦は渋ったヴィスパーであったが、ソラの表情が曇りかけると、


「いや······ソラさんの指示ならボクがイヤなんて言う訳ないじゃないですか、お二人とも、ボクはヴィスパーといいます、聖徒会の信徒とかじゃないですけど宜しくお願いいたします」


 アッサリと頼みを引き受け、短剣をパッと背中に回して、大河と真愛に頭を下げる。

 わかりやすい。

 

「宜しくね、ヴィスパー君、私は真愛」

「俺は大河、頼むな」


 兄妹でヴィスパーに軽く挨拶をすると······


「陽が沈むぞぉ!!」

「奴等がくるぞっ!」

「篝火を炊け!」


 街のそこら中から声が響き渡り、ゆっくりと周囲に暗闇の帳が降り始める。

 パッセや子供達が庭のそこらに用意していた台に松明を立てたり、ランタンを置き、パタパタと裏口から教会に避難していく。


「パッセ、大河さんと真愛さんが入ったら、金錠を全部忘れずにかけるのよ!」


 ソラはパッセに大声で注意してから、


「じゃあ教会の中へ、私と数人の自警団員がここの庭を護りますから絶対に外に出ないで下さい」


 と、三人に微笑む。


「わかった、ソラちゃん、頑張ってね」

「お手並み拝見だぜ」

「ソラさん、気をつけて」


 大河達は各々にソラに声をかけて、パッセ達に続いて裏口から教会に入る。

 裏口から入ったすぐの場所は調理場だ。

 パッセや子供達は更に奥の部屋に入っていくが、大河は調理場で足を止め、壁の木窓を上に上げた。

 調理場の木窓は何個か並んだ釜戸の換気用で大きく、開けると裏庭が一望できる。 


「お兄ちゃん!?」

「何してるんですか? 結界が張ってあっても絶対に安全な訳じゃないですよ、結界に入れない魔物だって飛び道具だって使ってきますよ! 窓なんか開けちゃダメですってば!」


 大河の予想外の行動に真愛は驚き、ヴィスパーは慌てて注意するが、


「奥に引っ込んじまったら、魔物との戦いがどんなもんか観れないだろ? それじゃあ意味がないんでな、お手並み拝見って言ったろ、いけると思ったら俺もいくぜ!? 俺達はそれくらいじゃないと困るんだろうがよ? なぁソラ!」


 大河は外にいるソラに大声で叫ぶ。

 裏庭に立つソラは数秒間、大河と視線を交わしていたが、フッと笑みを見せ、


「そうですね、言われる通りです······とりあえずは私のお手並みを見て、いけると思ったなら······遠慮せずに来てください!」


 と、腰の白銀の剣を抜いて塔の方向を見据えた。



 暗くなりかけた空。

 巨大な塔の各所から宙に浮いたポツポツと黒い点が見え初め、それが動き始める。


「きたぞーーー!!」

「くるぞぉぉぉ!」

「弓を構えろ!!」


 街の各所から聞こえてくる住民達の声。

 教会の庭を守るソラと武器を持った住民達も一気に緊張感が増す。


「どんな野郎共だ? さっさと来やがれ!」


 興奮気味に迫りくる黒い点を睨む大河。

 そんな横顔を真愛は······


『お兄ちゃん······こういう時のお兄ちゃんって、やっぱり······ドキドキするっ、こんな時なのに、下手したら死んじゃうかもしれないのにっ』


 赤面しつつ、胸をときめかせて見つめてしまうのだった。



続く

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