表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/37

第5話「足を思いっきり踏む」

 シュティエルテルの街。

 真愛と大河はパッセに連れられて街を囲む城壁の門に近づく。

 10メートルはあろうという高さの城壁、門も比例した巨大さだ。


「大きい、まさに城門だね」

「当たり前だろ」


 当たり前で結構抜けた発言をしてしまい大河にツッコミを受ける真愛だったが、西洋式の城の城門をこれだけ間近にみるのは初めてだ。

 城門の前に来ると数人の武器を持った者達が駆け寄ってくる。


「パッセ、おかえり······ん?」


 槍を持った中年の男性がパッセに挨拶してから、後ろに連れた大河達に目を止める。

 目立つだろう。

 大河も真愛も現代社会の服装。

 武器を持った者達は年齢は上だが、格好はパッセと変わらないくらいの身分に見える。


「め、珍しい格好の人達を連れてんな、怪しいヤツじゃねぇか?」

「大切なお使いの人です、ソラ様にお通ししますから開けてください」

「ソラちゃんへの使いか、そりゃ疑って済まないな、どうぞどうぞ」


 真愛としてはパッセが勇者さま云々と彼らに言い出すのではないか、と心配したが、彼女がソラ様という名前を出しただけで彼らは大人しく大きな城門の脇にある木製ドアを開く。


「こっちから入るんだ? 大きな城門が開くところ見たかったな」

「私達が山菜採りや郊外に作った畑にいったりする時はこっちから出入りします、いちいち大きな門を開けるのは大変ですから」


 大きな城門の開閉は観てみたかったが、真愛はパッセの説明に頷きながらドアを通る。


「本物の街だ······」


 ドアから入ってすぐ。

 目の前の光景に立ち尽くす真愛。

 石畳の道路。

 煉瓦造りの二階建てのアパートメント。

 ポツポツと歩く人々。 


『やっぱり······ここは現代じゃない、異世界の街なんだ、間違いない』


 嘘を感じなかった。

 自分の感性がこの街並みを一目視ただけで嘘ではないと訴えてきたのだ。


「お兄ちゃん」

「ん!?」

「やっぱり本物だよ」


 他人から見れば意味すら図りかねる真愛の言葉に大河は、


「わかってる、心配すんな」


 と、答え、真愛のショートポニーテールの頭の上を軽く二回撫でた。



 


「ここは神聖聖徒会という私達がお世話になっている組織の施設です、聖徒会のソラ様ならきっと勇者さま達の先の事に力になってくれる筈です」


 殆ど人通りも無い街を少し歩き、パッセに連れてこられたのは塀に囲まれた2階建ての建物だった。

 庭はある程度広いが建物自体は立派とは言えない。

 かなり古い建物のようで、囲む塀も所々が崩れてしまっている。


「ここで待っててくださいね」


 パッセは2人に門の前で待つように言うと塀の木造の両開きの門を開け、庭に入って建物に入っていく。


「神聖聖徒会のソラ様? 変な宗教じゃなきゃいいけどな」


 パッセがいなくなった後で大河が肩をすくめる。


「変かどうかはわからないけど、何かの宗教的な団体だとはおもうな、ここはパッセちゃんみたいな小さな子を一緒に住まわせてる住居施設って感じかな?」


 建物を見ながら答える真愛。


「住まわせてる?」

「詳しくはわからないし、こっちの世界の常識もわからないけど、教会とかって身寄りの無い子を預かったりしてるでしょ? そんな感じかな」

「映画とかで良く見る設定だな、でもパッセが身寄りの無い子とか話してたっけ?」

「お世話になってる、って言ってたからもしかしたらそうじゃないかな? と、思っただけで別に聞いたわけじゃないよ」


 そんな事を話していると、パッセが建物から出てきて真愛達に駆け寄ってくる。


「お待たせしました、ソラ様は今出かけてられますから、中でお待ちください」



 


 建物の内部は外観よりも更に質素だった。

 壁は殆ど土壁で部屋の仕切りのドアも無い。

 真愛と大河が通されたのは食堂らしき場所。

 

「ソラ様がもう少しで来られますから、そこに座られてお待ちくださいね?」

「ありがと、そうさせてもらうね」


 パッセに勧められ、食堂の長机の椅子に座る大河と真愛だったが、ふと視線を感じた。


「!?」


 そこには廊下から食堂を覗いてくる数人の幼い子供達。

 まだ7、8才だろう。


「どうしたの? 何かあったの?」


 真愛の視線にパッセも気づき、子供達に歩み寄る。


「パッセ姉ちゃん、山菜採れた? お腹空いたよ」

「き、今日は大切なお客様が来られたから山菜採りは中止したの、まだ小麦粉があるからパンを後でつくってあげるからね」

「うん、早くねぇ」


 子供達は大河と真愛を物珍しそうに見ながら、廊下に駆けていく。


「あの子達は?」

「この施設でお世話になっている行くところのない子供達です、私も色々あってお世話になってます、ここには私を含めて14人います」

「そうなんだ、賑やかだね」


 真愛はそれだけ聞くと、パッセに笑いかけ長机のテーブルに視線を落とした。


「あの子達を少し見てきますね? まだまだ小さな子も多くて······」

「私達には構わなくていいよ、大人しく待ってるくらいは出来るから」


 走っていった子供達が心配げなパッセに真愛が顔を上げて笑いかける。


「すいません、じゃあ」


 パッセがパタパタと食堂から去ると、食堂にはテーブルについた大河と真愛だけになる。


「真愛······そういえば何時だ?」


 大河に訊かれて真愛はシャツの胸ポケットからスマートフォンを取り出す。

 

「11時だね」

「家出たのが9時過ぎだから······」

「2時間前にはこんな所にいるなんて、お兄ちゃんも携帯は持ってるでしょ?」

「こうだよ、バイクぶつけられた時だな」


 大河がシャツの上着のポケットから出したのは画面が完全にひび割れたスマートフォン。

 

「電源も入らない? 画面が割れても電源が入る事はあるらしいよ?」

「ん~、ダメだな、俺のは完全にオダブツだ、一応聞くけど真愛のも通信圏外だよな?」

「うん、ダメだね」

「使うかどうかはわかんねぇけど、電源を切ってた方がいいな、圏外だとバッテリーの減りが早いらしいからな」

「うん、そうだね」


 スマホを持っていてもわかるのは元の世界の時間くらいだ。

 当然充電も出来ない環境なので、真愛は大河の言う通りに電源を落とし、スマホをシャツのポケットにしまった。


「ねぇ、お兄ちゃん······」

「ん?」

「怒ってるかな? すっぽかしだよ?」

「へっ、心配するのそっちかよ!? アイツなら遅刻だー、って怒ってこっちに迎えに来そうだけどな」

「あははは」


 大河が呆れ気味に言い、真愛がそれに笑った時、



「お待たせしました」



 パッセを伴って現れたのはまだ10代前半の金髪を両側頭部から長く垂らしたツインテールの白衣の少女であった。


『スゴい!』


 16歳で高校1年生の真愛からも年下であろう事はすぐ判った。

 それよりも一目で目を奪われた。

 光に綺麗に映える金髪。

 抜けるような白い肌。

 通った高めの鼻に細い眉。

 丸目の碧眼、薄い唇。

 まだ幼い丸みが残っているが形の良い輪郭、少女の成長期を迎えたばかりで僅かに膨らみを帯びた身体に細い手足。


『まるで外国人チャイルドモデルか、外国映画の有名子役みたいだよ!?』


 目の前に現れたソラという少女は紛れのない美少女だったのである。


「ソラと申します」


 頭を深く下げた彼女。

 選ばれた美少女の纏う独特の雰囲気。


「あ、わわ、私は天城真愛といいます」


 それに圧されてしまい、椅子から立ち上がり慌てた自己紹介を始める真愛だったが······


「へぇ、ここでヒロイン登場って訳な、流石にかわいいや」


 その大河の呟きを聞き逃さず、眼鏡の奥の瞳を鋭く輝かせ、


「お兄ちゃんも挨拶しなさい!」


 と、長机の下で大河の左足を思いっきり踏んづけたのであった。



続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ