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第4話「女神の街」

 草原を歩く。

 遠くには連なる山々。

 吹き下ろしの涼しい風。

 真愛と大河を先導して歩く赤茶色の髪の少女の名前はパッセといった。

 山菜を採りにきたという竹籠には何も入っていないが、今はそれよりも彼女の言う勇者の到着を自分達の住む街に伝える方が先だという。


「ず~っと言われてきたんです、天をつく禍が訪れ国が乱れた時、勇者さまが草原の丘に降臨され我々をお救い下さると!」


 さっきまでは大人しい印象すらあったパッセは笑顔で2人に振り返る。


「よ、良かったね······私達がホントに勇者さまだったらいいけどね」

「きっと間違いありません! まさしく予言の通りなんですから!」


 複雑な笑みを浮かべてしまう真愛。

 当然のように心当たりがない。

 横に並ぶ大河を見ると、両手を頭の後ろに回して飄々としていた。


「お兄ちゃん! 何を呑気な顔をしてるの? 今の状況を何とも思わない?」


 ムッとした真愛は顔を近づけるが、


「あのなぁ~、この状況で何も思わない訳ねぇだろ? でも今はあのパッセって娘に着いていくのが状況を理解できる唯一のルートじゃねぇか? だから大人しくついていってるんだよ、おそらく着いた先にゃ状況を詳しく聞ける大人もいるだろうからよ」


 大河にそう反論されて返す言葉が無かった。

 その通りだ。

 パッセはまだ幼い。

 この世界の状況を詳しく聞こうとして、過不足なく答えてくれそうな相手には見えない。

 しかし······


「ねぇ、パッセちゃん!?」

「なんですか?女勇者さま?」


 とりあえず気になることがあったので彼女を呼んでみると返事はこう。

 女勇者さま。

 その響きに真愛は頭を抱えたいのを抑えつつ、


「私達、あの大きな塔に向かって歩いてるけどあの塔は危なくないの?」


 と、パッセに聞く。


「あ······」


 パッセの表情が曇る。

 

「じ、実はあの塔はとても危ないです、夜になるとあそこから沢山の魔物が現れます、私達の街のすぐ郊外に塔が突然現れたから私達は逃げようがありません······あ、でも昼間は魔物が出たことがないから今は安心してください、早く街に急ぎましょう」


 魔物!?

 勇者さまという単語からもしかしたら有り得るかもという真愛の危惧が当たった。


「魔物って言うのは何? それに住んでる街のそばに突然あんなに大きな塔が出来たの!?」

「うっ······マジかよ? 魔物までとかそういう話になっちゃうのかよ?」


 思わず真愛の声が裏返り、すましていた筈の大河の表情も変わる。

 突如として現れた巨大な塔。

 そこから現れる魔物。

 もう自分達の知る世界では説明がつかない。

 ここは異世界だ。

 互いの現実味から夢や死後ではないとした大河と真愛であったが、思わず見合う。


「と、とにかくだ、今はパッセについていってこの状況を把握するのが大切だ」

「そ、それしかないね、昼間はその魔物も出ないんだから街に急ぐべきだね」


 一体何なんだ!

 何でこんな所に連れてこられた!?

 兄妹揃って叫んでみたいが、自分達よりも年少のパッセが困るだけだろう。

 真愛と大河はひきつった顔で頷き合った。




 20分も歩いただろうか。


「そろそろです、この丘の頂上からは街の様子が良く見えます」

 

 幾つめかの草原の丘を越えようとすると、パッセがそう言い、真愛達の視界に四方数キロメートルはあろうという街が入ってきた。

 大きい。

 それが一目で判断できたのはその街が高い城壁で囲まれて街の規模をハッキリとさせていたからだ。

 街の北側には街を見下ろすような白亜の城。

 そこから各所に伸びた道沿いに建てられた2階建てや3階建ての煉瓦造りのアパートメントの雑多な集合住宅。

 公園らしいスペースや様々な官庁施設らしい建物、平屋の建物ばかりの場所もあれば、テントや幌ばかりの目立つ場所もある。

 遠目からの印象は大きいが洗練はされておらず、雑多感の強い街であった。



「あれがパッセちゃん達の住んでる街? 想像よりも大きいんだね」

「ゴチャゴチャしてるが周りを壁が囲ってる城塞都市ってヤツか」

「そう、それだね城塞都市」


 真愛は大河の城塞都市という言葉に同意した。

 

「確かに立派な街だ、でも、ここまで近づくとアレも圧倒的だな、近くに寄ると偽物感が全く無いのがムカつくぜ、嫌でもここが違う世界だと言われてるみたいだ」

「そうだね、違和感は凄いのに本物だよアピールがスゴすぎるよね」


 大河が視線を向けたのは城塞都市の北側にそびえ立つ灰色の塔。

 一見観れば草原や山々に囲まれた平和そうな街の風景に入り込んだ圧倒的な異物感。

 大河の言う偽物感の無さ、という言葉に妙な説得力を感じた真愛は眼鏡のブリッジを中指で上げる仕草をしながら塔を見上げる。

 どこまで伸びているのか、頂は見えない。

 

「さぁ街に入りましょう、街のみんなが勇者さまの言い伝えを知ってますから歓迎してくれる筈です」

「あ、パッセちゃん、色々な事情はこれから会う人に訊くけど······」


 草原の丘を降りて街に向かおうとするパッセを呼び止める真愛。


「はい、何か?」

「街の名前を聞いてなかったな」


 真愛の問いにパッセはああ~と頷き、


「ここは私達が信じる女神様の名を冠した街シュティエルテルといいます」


 と、笑顔で振り返ったのだった。



続く 

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