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第36話「タマゴサンドと異世界」

 塔内二階。

 広めの部屋はすぐに見つかった。

 周囲にモンスターがいないのを確認するとイシュタルは背負ったリュックサックから紙に包んだ昼食をパーティーに配る。


「パッセが焼いてくれたパン、真愛が作ってくれた玉子料理を間に挟んでいるよ」

「玉子パンって訳か、真愛の玉子サンドイッチは俺の好みなんだ」

「えっへん、って言いたいけどねお兄ちゃん、材料が手に入らないものもあるからね······いつも通りじゃないよ」


 イシュタルから紙包を受け取る大河に真愛はう~んといった複雑な顔をした。


「これは美味しそうですね······うん、うん······とても美味しいですよ!」


 紙包を開き硬く薄目のパンで挟んだ玉子サンドにソラの声が弾む。


「ホント! 美味しい」

「うん······金がとれるな」


 イシュタルもハヤテも満足げ。


「じゃあ、俺も······」


 大河も紙包みをとく。

 パッセの焼いてくれた硬めの薄切りパン。

 それに挟まれた玉子は見た目は違和感がない。

 そして······


「おお、旨い! 普段の真愛の玉子サンドイッチとは味が違うけど、これはこれで旨いぜ!」


 大河が声を上げると真愛はフゥと安堵する。


「シュティエルテルの街は鶏はかなり飼われていてね、パッセちゃんが頑張って手に入れてきてくれたんだけど、油と塩、ワイン酢がすこしだけあったから簡単なマヨネーズを作って······ペッパーとか調味料は無かったからちょっと物足りないかも知れないけど」

「お手製マヨネーズかぁ、家にいた時から手作りだったからな、やっぱり料理は真愛だよな、物足りないなんて全然ないぜ!」

「えへへ······ま、まぁね」 


 大河に褒められて顔を綻ばせる真愛。


「美味しいものを好きな人に作って食べてもらうのは嬉しいよね~」

「ま、まぁ······久しぶりに簡単だけど料理が出来たからね」


 イシュタルが茶々を入れると、真愛は誤魔化すようにショートポニーの後ろ頭を掻く。

 傍らのソラもサンドイッチを口に運んだ。


「このカペリオンソースも美味しいですね、台所にある油がもっと良いものだったらもっと美味しくなるに違いないですね」

「カペリ······オン?」


 舌鼓を打つソラに首を傾げる真愛。


「ほら、油と酢と卵黄をよく混ぜてソースを作ったんですよね? カペリオンソースとかカペリソースという人が多いですけど、シュティエルテルでもお店では結構あるソースです」

「え? それは······マヨ」


 そう答えかけるが······


『そりゃ······こっちでも考えついたりする人もいるよね、同じ人間が住んでるんだから、それにしても私達の世界と同じ呼び方をするものもあれば、違うものもあるとか、不思議な世界だな、まぁ美味しさは変わらないから良いけどね』


 そんな事を思いながら、真愛はパリと固いパンを口に運んだ。





「じゃあ、いくよ」

「おう」


 真愛のライトボールで明るく照らされた室内。

 昼食休憩を終え、大河とハヤテは向かい合う。

 ジャラリ······とハヤテの右手から垂れる鎖鞭。


 ビュンッッ!


 放たれる鎖鞭。

 端から観ている者達からでも眼で追える。

 本気ではないスピード。


「きた!」


 大河は念を軽く込め黄色のオーラを纏った拳でそれを受ける。


『······よし』


 衝撃はあるが痛みはない。

 武器で受けるような感覚。

 受け止めた鉄鞭が黄色い焔を放つ拳に絡み付いていき······


 ビシッツッッ!


「くうっ!!」


 肘の部分に先端が当たると大河の表情が歪む。


「お兄ちゃん!」

「たいが!」

「大丈夫だ!」


 観ていた真愛とイシュタルが声を上げるが、大河は歯を食い縛りながら二人を制する。


「受けられますけど、その効果は」

「あの黄色い魔力の炎が覆っている部分だけ、受けられる範囲が狭いっちゃ狭いな、下手に頼ると相手の武器によっちゃ腕を持っていかれるかも」

「でも使えるようになれば」

「ああ······役に立つ」


 ソラとハヤテはそれを観て頷きあう。


「上手く受けるように練習するしかないよな」


 拳の光を収める大河に歩み寄りソラはその右の拳を包むように握る。


「受ける練習をするよりもこの光の範囲を拡げるようにする方が効果的かも知れません、でも大事にされてください、大河さまの身体は一つしかありません」

「ああ······そういう方向に鍛練した方か良いかな、魔力の鍛練って難しそうだな」

「前に言ったように基本的な魔力は先天的な物が大きいですけど要領を良くする事は出来ます、濃く狭い範囲を薄く広い範囲にする様な」

「ああ、なるほどな~、今度教えてもらうか」

「はい、帰った時に練習しましょう」


 ソラの助言に答えながらも右拳に添えられた少女の華奢な手の感触に大河はやや顔を赤らめる。


「······」


 その様子を見つめる真愛。

 眼鏡の奥の瞳がやや鋭さを帯びている。

 そこにイシュタルは近寄る。


「アレくらいはゆるしてあげなよ、マナ」

「え? そ、そんなんじゃないよ?」


 ジト目のイシュタルに肘でつつかれると真愛は慌ててパタパタと手を振る。


「ほんとぉ~??」

「うん、うん······ちょっと思ったことがあったんだけど、まだ無理かなぁとか」

「てっきり大河の手を握ったソラに怒ったんだと思ったよ、目が鋭かったよ」

「んな訳ないでしょ!? 私って前から少し考え事するとちょっと一点を見たままストップしちゃうんだよね、睨んでるつもりはないんだけど」

「へぇ~、何を考えてたの?」

「いや、今はまだむりだとおもうからいいや、さぁ、マッピングが正しければ二階はまだまだ広いんだから、お兄ちゃんとソラちゃん、そろそろ行こうか」


 イシュタルとそんなやり取りをすると真愛は手書きのマップをソラと大河の方に見せながら声をかけたのだった。



続く

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