第35話「ゆっくりですけど努力して色々と出来てきます」
まだ陽が真上に上がるまでかなりある時刻。
新たにハヤテを加えて五人となったパーティーは巨塔の壁に空いた穴の前に立つ。
「じゃあ、いきましょう」
「ソラちゃん」
銀色の軽装鎧にマント、腰の剣を抜き放つソラに真愛が声をかける。
「どうしました?」
「中に入ると暗いでしょ? だからライトボールの魔法は私が使うよ」
「······わかりました」
真愛の申し出に頷くソラ。
『出来るのか? また爆発して気絶しないか?』
判定で青という最上級の魔力を持つ真愛であるが制御が効かず更にそれを維持する供給力が消費が大きすぎる魔法に追いつかないという弱点が露見している。
そんな心配が喉まで出かかる大河だったが、それをグッと呑み込む。
成功したとは聞いていないがひたすら練習をしていたのは知っている。
眼鏡にショートポニーテールの妹は成績は優秀、手先も器用で家事全般もこなす、しかし物覚えが特別に良いわけではなかった。
例えば料理にしても何度も失敗しつつもいつの間にかモノにしている。
「オタク気質で執念深いんだよ? おとなしく見えてプライドも案外に高いから出来そうな事がやれないのは我慢できないんだよ」
そう言えばそんな事言われてたな真愛は······
大河はそんな事を思い出す。
「ま、お手並み拝見」
塔の中に踏み入るとハヤテが真愛に振り返る。
「うん······」
やや緊張気味に頷いてから真愛は何言かの短い詠唱を呟き、
「ライトボール!」
と、手を暗い宙空にかざす。
輝いた。
そういう表現の方が合っている。
灯ったや光ったでは済まない。
そんな光の球がパーティーの頭上に現れた。
「ま、まぶしっ······でもやった!」
光球に手をかざしながら喜ぶイシュタル。
前にソラが塔内で使ったライトボールは大きさは拳大、周囲をやや暗めながらも数メートルは十分に照らすくらいの明るさだった。
しかし、真愛のそれは大きさは人の頭部くらいで明るさも眩しいくらいに明るい。
「真愛さん、平気ですか?」
「う、うんっ」
光球は爆発しながったが本人は平気か?
魔法供給力を使い果たして気絶はしていないか?
やや息を乱しながらも平気な様子の真愛にソラは安堵した顔でまるで小さな太陽の如く輝く光球を見上げる。
「すこしだけ明るすぎますね、ここまで光量が強いと持続時間も短くなりますし、真愛さんの消費も大きくなりますから」
「ソラちゃんの使ったライトボールをイメージはしたんだけどなぁ、その辺りはまだまだ練習しないとなぁ」
「でも成功しました、これからは色々な魔法も制御出来るようにしましょう」
「うん!」
真愛はソラに嬉しそうに答え、
「やっと出来るようになったな、一体何回爆発させたんだ?」
軽く手を挙げた大河には、
「ほっとけ!」
と、パーンと勢い良く手を合わせた。
空気を切り裂く鉄鞭。
顔面にそれ直撃させられたコボルトは醜い声を上げて背中から倒れ、もう一匹も突き出された剣に胸を貫かれ絶命する。
「ふぅ」
二匹を見下ろすハヤテとソラ。
「速いな」
「凄い、スリングする暇が無かったよ」
驚く大河とイシュタル。
パーティーは先日に見つけた階段を上がり二階に達していた。
そこまでに三回の戦闘があり、二、三匹のコボルト、リザードマンというモンスターが現れ大河が魔力を纏った拳で一匹を仕留め、残りはソラとハヤテが戦闘早々に片付けていた。
「ソラちゃんも速いけど、ハヤテちゃんのスピードは凄いね、あっという間にモンスターに鎖鞭を叩きつけてる」
「うん」
感心する真愛に同意するイシュタル。
シャツに胸当て、腿を出したショートパンツにブーツという軽装からハヤテの闘いのやり方はスピードを重視しているというのは解っていたが想像よりもハヤテのスピードは速かった。
闘い慣れしている。
「やるな」
「まぁね」
獲物を回してくれという程にまだ余裕のない大河にハヤテは倒れたコボルトの死体を脚で転がして何やら物色し始める。
イシュタルもその様子を覗き込んだ。
「何か持ってるの?」
「そりゃコイツらだって頭が悪いけど生活があるからね、何かしら持ってる時が······あ、布の袋に、ラッキー! 金が入っているぞ! ここに入った冒険者の物をコイツが拾うか、ブン獲って持っていたんだろうな」
小さな布袋を見つけて狂喜するハヤテ。
他の冒険者や討伐隊の人間の残された遺品をコボルトが持っていたのだろう。
中々の幸運。
「これは私が見つけたんだから······」
「ダメ! パーティー全体報酬です! あとで約束通り半分はハヤテさんが取り分で私が責任を以てお渡ししますので、一旦は私に預けてください」
「チェッ」
金の入った小袋を自分の腰のポーチにしまおうとするハヤテであったが、聞く耳持たんというソラに手のひらを出されると口を尖らせながら小袋を渡し、
「それにしても大河の拳にかける強化魔法は相当なもんだね」
と、大河の手に宿る光を拳に顔を近づけて見つめてくる。
「え?」
「詠唱なしで直ぐに出るし威力もある、それに供給力の消費も少なそうだ、武器をある程度は強化できる魔法はあるけどそこまで便利なのもないよ」
「そうだな、これがなきゃ素手でモンスターとやり合うなんて難しいな、助かるぜ」
「多分受けにも使えるよ、試してみる? 攻防に使えたら便利だよ」
「······そうか、そういう使い方もあるか」
ハヤテの指摘に拳を見つめる大河。
光の拳を使っている時は拳には痛みは感じないし、頑丈なモンスターを叩いても拳は傷ついていない。
ならば受けにも使えるだろうとは行き着くところではあるが、まだ実戦経験不足の大河はそこまで至っていなかった。
「練習もいいけど、塔に入って時間も経つからお腹もすいたぁ、広い場所に出たらまずお弁当を食べてから練習しようよ」
「そうだな、まずは広い場所に出てからメシを食ってから考えるか、俺も腹が減ったからな」
イシュタルの提案に大河は拳の光を解き、彼女の修道女頭巾の頭の上にポンと手を置くのだった
続く




