第34話「どっちが? それとも」
「やっぱりお高い?」
魔法を使う為の媒体の入手を勧めながらもやっぱり難しいと答え直したソラに思い付いた単純な理由を口にする真愛。
「それもあります、でも······相性の合う媒体、魔法具を見つけるのが中々難しいという所です、私も剣を両手で使う都合で杖などではなく、指輪とか手を塞がない魔法具を探したのですけど自分に相性の合う物はなかなか見つからなかったんです、それなりの相性の物で妥協しようとも考えたんですが、もう魔法具というだけで高価で」
「お値段高い上に自分の魔力との相性もあるのかぁ~、今すぐ欲しがっても難しいね」
「ええ、それなりの相性の物なら見つかるかも知れませんがそれでも物自体が」
「そうかぁ」
高い魔力という事は判明しつつも、それを扱えていない真愛としては魔法具という媒体には期待したがそうは簡単にはいかないようだ。
希少で高価な上、自分の魔力との相性まで問われてしまうのならば今は諦めるのが賢明だろう。
「まぁ······始めっから物に頼るのは良くないし、まずは少しでも自力で魔力を制御できるようにしないとね」
「はい、それが出来れば真愛さんの魔力は大変に強力ですから、頼りにしてます」
「うん、何とかしなくちゃね」
それが出来れば強力。
ソラの言葉に真愛は頷いた。
昇る朝陽。
昨夜も塔からの襲撃は無かった。
いつ見張り台からの鐘が鳴るかと緊張していた中ではあったが大河は勝手口の近い台所で横になってそれなりに寝ることは出来た。
大河を眠りから冷ましたのは軽い鼻唄と鍋で何かを煮込む音と薄い匂いだ。
「おはよう! 大河は台所で寝てたんだね? 昨日も魔物が来なかったね!」
「おはよう、ここなら鐘がなったら直ぐに外に出られるからな······朝飯か?」
「そうだよ、市場で買ってきたキャベツのスープだよ、ニンジンも少しおまけで貰えちゃったよ」
「へぇ~、もう市場やってるんだな?」
「朝陽が昇るともうやってるんだよ、やっぱり物を売る人達はたくましいねぇ」
機嫌良くスープを煮込むイシュタル。
昨夜は魔物の襲撃に備えていたのは大河と同じなのだろうが早く起きて市場に出かけてきたのだろう。
彼女の言う通りこんな情勢でも朝一から市場を開ける物売り達もたくましいが、イシュタルもなかなかに負けていないと思う。
「真愛やソラは?」
「真愛とソラは今日の塔への遠征の準備中」
「そうか、みんな頑張ってるな······ならオレも寝てらんねぇな、よっと」
「何をするのもまず朝御飯だよ!」
床に寝ていた大河が起き上がって椅子に座ると、イシュタルが椀に入ったキャベツのスープをテーブルに置く。
「おう、ありがとな」
大河の体格にはスープの量はかなり少ない。
わずかでも満足感が得られるように薄い塩味のスープのキャベツを良く噛む。
『お、このキャベツ······元の世界のキャベツより固めだけど味は濃いな、塩味の薄いスープだけにこれは少し助かるな』
満足にはほど遠いが贅沢も言ってられない。
ソラがまとめている教会は貧しいし、街は毎夜の魔物の侵攻に弱っているのだ。
あっという間にスープを完食すると、大河は椅子から立ち上がる。
「ご馳走さま、真愛とソラを手伝ってくるよ」
「ハヤテ起こしてきてよ? 昨日の夜も魔物が来るかもしれないのに直ぐに寝ちゃってさ、それなのに朝も遅いんだもん、まだ二階で寝てるからさ」
「そうだったのか、まぁ、わかった」
台所を出る大河。
ハヤテは魔物を迎撃するつもりはないのか?
塔に遠征にいく際の収入の半分を渡すという約束だから街への魔物の襲撃をハヤテが迎え撃たなければいけないという必要はないが······
「それを頼むにしてもまだ報酬すら渡してない訳だしな、そんなうちに契約に無いことは頼みにくいな」
話がわからない相手ではないと思うが、大河はそんな事を考えながら二階に上がり、何部屋かある部屋を覗き込む。
その中の一室の隅でハヤテは薄いシーツを身体を纏って眠っていた。
傍らに立ち中腰で覗き込むと下着で寝ているのか薄いシーツに露になる彼女の身体のラインが目についてしまう。
「······まったく、昨日襲撃があったらどうするつもりだったんだ? 魔物に侵入されたら嫌でも闘わなきゃいけないだろうが?」
赤面しつつ顔を逸らす大河。
歳の近いソラに比べて打算的で色々な面でオープンな所があるハヤテだが、濃茶色のショートボブカットの髪がかかる寝顔は年相応の美少女。
それでいて成長は明らかにソラよりも進んでその身体つきの魅力は男を惹き付けるだろう。
「······でも、この歳でこんな世界で生きていくのも結構辛いだろうな、ソラにしてもハヤテにしても見かけが良いのだって逆に嫌な目に会うことだってあるだろうに」
ポツリとそんな事を呟く。
現に彼女は前のパーティーには邪な目に会わされそうになっていた。
そんなパーティーでの遠征中は彼女も安心して熟睡という訳にもいかなかったのかもしれない。
もう少し寝かせてあげたい気持ちも出てきたが今日は塔に登らなければならない。
「ハヤテ、悪いが起きてくれ」
彼女に声をかける。
「······ん」
ハヤテの瞳がゆっくり開く。
「起きたか? ソラや真愛はもう今日の討伐の準備をしている、イシュタルが少ないが朝食を用意しているからそろそろ起きてくれ」
「そろそろかぁ~」
上半身を起こして伸びをするハヤテ。
薄地のシャツを大きく膨らませる部分には敢えて眼を送らないようにして、
「じゃあ待ってるからな、準備をしたら頼むぜ」
大河は踵を返し部屋を出ていこうとする。
「大河······ちょっと聞きたいことが」
「ん?」
脚を停めて振り返るとハヤテは上半身をシーツで隠しながらニヤニヤと笑っていた。
「ソラにしてもハヤテにしてもはいいんだけどぉ、結局どっちがいいオンナ? それとも大河の本命はなかなかにカワイイ妹かなぁ?」
「······知るかよ!!」
こんな世界を渡り歩く強かな美少女の不意討ちに気の効いた返答が出来る程、器用ではなく頬を赤らめながら部屋を出ていく大河であった。
続く