第32話「新メンバーと考えよう」
「ハヤテだね、宜しくね! わたしはイシュタル!」
「アハハハハ······ちっちぇ! かわいらしい、この娘は神聖聖徒会の保護してる子供だな、こちらこそ宜しく」
神聖聖徒会教会。
明るく挨拶するイシュタルの修道服の頭巾をポンポンと叩くハヤテ。
「いや、イシュタルはパーティーメンバーだ、保護してる子供じゃないぞ?」
「そうだ、武器は猛練習中のこのスリングだぞ! 保護なんてされてないぞぉ!」
大河が説明すると口を尖らせて皮製スリングの投擲ポーズをするイシュタル。
「へ、へぇ~、こんな子供が猛練習中ね、そりゃ伸び代がありそうだわ」
ハヤテはその端正な顔をやや引きつらせた。
「真愛です、えっと兄の妹です」
「あ、ああ······勇者様の妹さんね、観たところ武闘派には見えないね、何で闘う?」
「えっと······まだ······無理で」
「え、無理?」
ハヤテの問いに罰の悪そうに答える真愛。
「いや、真愛は純粋な魔力を計る判定じゃ青とかいうスゲェ魔力なんだけど、まだ練習不足でさ、制御が効かなくてボンボン自滅しちまうんだ」
「あと······魔力を使う供給力が弱くて回数が使えないです、自滅でもいちいち気絶してます」
下手なフォローを入れる大河。
頬を掻きながら素直に弱点を吐露する真愛。
「へ、へぇ~、魔力が高い判定でも供給力が無くて制御の効かない魔術師か······」
「騙しやがったな!」
「何がですかっ! 誰がパーティーの全員が手練れだなんて言いましたか!? だいたいそれならあなたを雇う必要がありますかっ!!」
襟首を掴むハヤテ。
ソラも負けないくらいの勢いで反論する。
「······むっ」
「それに大河様以外はみんな女子、それも言葉通りでしょう? ハヤテさんの望んだ通りの契約はもうしましたよ!? 今さら文句は言わないでください」
分が悪い。
ハヤテはソラの襟首を掴んだ手を離すと、傍らのイシュタルや真愛を一瞥して息をついた。
ジャラッ。
両手から垂れる鎖鞭。
教会の裏庭の風に揺れるボブカット。
「······!!」
ブンッッッッ!!
眼を見開いた瞬間。
空気を切り裂く音と共に数メートル先に立てられていた一本の薪が左手からの鎖鞭に弾かれて飛ぶ。
「うわ!」
「見えない」
驚くイシュタルと真愛。
鎖鞭のスピードを眼で追えなかった。
回転してまだ宙を舞う薪。
「······そらっ!」
今度は右を振るハヤテ。
一撃目よりも抑えられたスピードの鎖鞭は宙で回転していた薪に巻き付いて捉える。
バシッ!
それを手元に引き寄せハヤテは鞭を持ったままの右手で受け取った。
「おお······すげぇ!」
「うん!」
鎖鞭の技術に驚き手を叩くイシュタル。
真愛も興奮気味に頷く。
「私はスピードには自信があるけど腕力は同じ歳くらいの女子とそうは変わんないからね、ナイフや剣も扱えない訳じゃないけどこれが合うんだ、今はメインはこの鉄鞭だな」
「合う武器かぁ、アタシもスリングだけじゃなくて何か考えてみるかな?」
「いや、イシュタルのスリングという選択は悪くないよ、子供の筋力でもダメージは与えられるし、何よりも近距離戦闘をしないで済む、あっちこっちの武器に浮気するよりもまずは一つを練習するんだ、6扱える武器が一つある方が4扱える武器が2つある人間よりも結局は強い」
鎖鞭に興味を持つイシュタルにハヤテはそう言いながらスリングを受け取る。
「あと一つに絞るなら物にも拘るんだな、私の鎖鞭も小さな鎖を連ねた単純な物だが地金や繋ぎ、持ち手はかなり弄った、金もかかったけどな······このスリングも材質や包む石、大きさなんか納得いくまで考えてみるんだ、こういう破けてる部分も良くないぞ、自分の武器は自分の金や命と同じくらい大切にしないとその2つを失う原因にもなるからね」
「うん! わかった、直すよ!」
スリングを返されてアドバイスを受けたイシュタルは嬉しそうに元気な声で首を縦に振る。
ソラよりも一つ歳上らしいハヤテだが、冒険者としての経験は長そうで道具にも拘りがありそうだ。
「で? 真愛は何も持ってないけど普段は何を武器にしてるの?」
「ええっと······棒を選んだんですけど、オークと闘った時にすぐに折れちゃってね」
ハヤテの問いに罰の悪そうに後ろ頭を搔く真愛。
「棒!? 棒術でも使う?」
「棒術? いやいやそんな事は出来ないよ、何となく扱いやすくて叩けばダメージを与えられるかな? って、武器屋さんで買ったんだけど」
「安かったしね」
「······役立たなきゃタダでも無駄だよ、イシュタルはともかく真愛は魔法が未熟なら通用する武器を考えなきゃな」
イシュタルと顔を合わす真愛にハヤテは呆れ顔を見せるながらも、
「さっき聞いたけど、この教会には良い温泉あるんでしょ? 汗もかいたし入りながら考えようか?」
と、踵を返して歩き出した。
続く




