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第31話「ハヤテという少女 その3」

「な、何でですかっ? 私達の条件にダメ出ししたのは貴方の方じゃないですか!? 急に仲間になるというのはどういう事ですか?」

「そんな難しい事じゃないよ、まずは私が失業中という事、アンタみたいな生真面目さんがパーティにいた方が何かと安心できる、って事よ、そこのお兄さんが私の同意なしに何かしようとしてもソラちゃんが見逃さないでしょ?」


 突然のパーティ参加の申し出に驚くソラ。

 対するハヤテは両手を後ろ頭にしながらあっけらかんに答えた。

 ハヤテのような年齢の美少女ならば前のパーティーであったような身の危険を今度は排除したいと思うのは当然であろう。

 

「なるほどな、可愛らしいには可愛らしいなりの苦労があるんだな、ちなみにウチのパーティには男はオレしかいないからな、あと2人も女子だし俺の妹もいるからな、兄としては下手なことをするつもりは毛頭ないぜ」

「へぇ、妹までいるハーレムパーティー? じゃあそれに私が参加してもオーケーかな?」

「そんなに良いもんじゃないと思うが今なら経験者は大歓迎だぜ? 俺としてはな」


 ハヤテと大河は悪くない雰囲気で話す。

 とにかく今は冒険経験者の仲間が欲しい。

 さっきソラはハヤテには問題があるものの腕の良い冒険者という噂を口にしていた。

 指摘された通り他の冒険者の納得できる前金などを積める立場でない現状ならハヤテの申し出は渡りに舟であり、大河としてはハヤテに仲間になってもらいたいと思っているのだが。


「············」


 彼女への訝しげな表情を崩さないのはソラ。

 2人の年齢はハヤテの方が歳上に見えるがそうは離れてないだろう。

 だがタイプはハッキリと違う。

 ハヤテの自由奔放そうな性格は生来生真面目なソラにはやりづらそうに見えた。

 それにハヤテの良くない噂もソラは知ってもいる様子でもある。

 だが······


「正直、私達には······あなたの言う通り一流の冒険者が納得してくれるような条件を出す蓄えも、それを作るような時間もありません、正直選べる立場じゃないのはわかっています、そこにあなたの申し出は断るべきじゃないと思います」


 ソラは薄笑いを浮かべるハヤテを見つめる。


「じゃあ······決ま」

「でもっ!」


 ハヤテの言葉を遮るソラ。

 そう簡単には思い通りにはなりません。

 ソラの口調が強くなる。

 普段から礼儀正しい娘だが決して弱気ではない。


「でも? なぁに?」

「······私はハヤテさんが腕が立つというのは噂でしか聞いてないんです、実際見てません!」


 鋭くなるソラの碧眼。

 ハヤテはニヤニヤとホォと口を開く。


「な・る・ほ・ど~、ソラちゃんには見せてないねぇ、私のつ・よ・さ」


 対照的な表情ながら見合う美少女2人。

 大河と看板娘、そして聞き耳を立てていた周囲の冒険者達にも走る緊張感。


「それを証明すれば良いわけだ?」

「その通りです」


 十代半ば程度の美少女同士が不敵な笑みを浮かべ合っている。


「いつ証明するよ?」

「いつでも······いや、今がいいです、今すぐがいいんです、私じゃお不足ですか?」

「ここじゃ迷惑だよ、それにソラちゃん修道着じゃんか? 平気かな~?」

「格好なんて気にしませんよ? 冒険者ならいつでも戦えなくちゃいけません、外出ましょう」

「だね」


 明らかにやる気の2人はいつの間にか席から立ち上がり見合っていた。

 テストがてらの実力比べ。

 展開の早さに多少戸惑ったが、


「······まぁいいか」


 大河は仲裁をしようとは思わなかった。

 確かに噂だけでハヤテを仲間に加えるなら実力を知りたいと思ったし、それをさせなければソラの方が納得しないだろう。


『どちらかが重傷を負うくらいエキサイティングするようだったら俺が止めるか、女子の何の意地かはわからないけど互いに一旦はやらないと引っ込みがつかないのは確かなようだし』


 そんな事を考えながら大河が椅子から腰を浮かせかけた時であった。

 酒場の両開きのドアが周囲の注目を集めるように勢い良く開く。


「見つけたぜ! ハヤテ!」


 怒号と共にそこには筋骨粒々長身と中肉中背の戦士風の出立ちの男が2人立っていた。

 突然の乱入者に静まり返る酒場内。




「あら······まぁ? どうしたの?」

「どうしたのじゃねぇ! テメェ許可無くパーティを勝手に抜けやがって! そのうえ金も持っていったろうが!?」


 乱入者に特段驚く様子もないハヤテに中肉中背の男が怒鳴り返す。


「やだぁ、執念深い」

「当たり前だ、仲間の何人かもお前が逃げる時にやられて怪我してんだ!? 落とし前はつけてもらう!」


 肩をすくめるハヤテに中背の男は更に感情をヒートアップさせている。

 どうやら彼等はハヤテが抜けてきたという前のパーティーのメンバーだろう。


『なるほど、さっきの話からももちろん円満退社という訳じゃないよな?』


 大河がハヤテを見ると彼女は男達をバカにするような笑いを見せた。


「アンタら大して強くなくて、殆どの敵を私に倒させた上、夜営すれば夜這いをかけてくるようなパーティーを抜けるのに許可なんて取ると思う? 金だってそれに約束通りの報酬を払わないアンタの隙だらけの脇から思わず抜いちゃっただけだね」

「ガキが生意気いいやがって!」

「そのガキを自分の○○○晒しながら集団で襲おうとしたのは誰だよ!? 怪我したのもその返り討ちのくせにさ!」


 ハヤテが凄むと中背の男は圧力にやや怯む。


「チッ······この野郎!! 今度こそ思い知らせてやるからな!」

「やれるのかよ?」


 激しい口調の応酬。

 ハヤテの戦闘態勢にもソラに見せていたような愛嬌が全くない。

 これは穏便には収まらないだろう。


『どうやら話からしてハヤテを集団で襲ったというのは本当なんだな、じゃあ遠慮無く』


 大河は迷いなく立ち上がる。

 ハヤテの隣に座っていたのだからその行動が相手側の目に止まらない筈もなく、


「なんだ? てめぇは!? 関係ないならすっこんでで貰おうか?」


 中背男は大河を睨む。

 だが大河としては引く気はない。

 

「いやいやいや、悪いな······これが関係あるんだわ、もう少しで俺達とハヤテはパーティー契約が成り立つ寸前だったからよ? お前らには契約破棄を力づくでお願いしたいんだわ、それに女の子を集団で襲う変態には鉄槌をくれてやりたくてね、個人的に」

「······なっ」


 両手の指をポキポキと鳴らす大河の醸し出す迫力に圧される中背男。

 横の筋骨粒々は喋りもせず黙っている。

 

「大河さん、まだパーティーになった訳じゃありません、前のパーティーとの揉め事は彼女自身に解決させるべきです!」


 傍らのソラが自制を促してくるが大河は首を横に振った。


「俺達には新しい仲間が必要だ、細かい事よりも今はそっちが優先だし、コイツらが約束も守らず集団でハヤテを襲ったところも気に入らないからな、俺が助太刀して二対二だから丁度いいだろ?」

「······」


 ソラはやや不機嫌な表情を見せ何も答えない。


「助かるよ!」

「ああ」


 立ち上がった大河に背中を合わせてくるハヤテに大河は一瞬眼をやってから頷く。

 

「二対二、って訳か!? まぁ構わねぇや! お願いしますよ!」


 中背男は腰の剣を抜き、筋骨粒々男に丁寧な言葉で目配せする。

 これから外に出るという感じではない、店内のここで始まる。


「ハヤテさん!」


 ソラが口を開く。


「なぁに? 平気だよ、アンタとはこれが終わったらちゃんとやってあげるからさ!」

「あなたはあの大きい方を相手してください! あなたがあの人を倒せたら······パーティーに入るのを歓迎します! 大河さんは小さい方、大きい方を攻撃しちゃダメです!」

「うわ······そう来たかぁ」


 ソラの提案にアララ、という顔を見せるハヤテ。


「強いのか? パーティー抜けるときに夜這いかけてきた奴のした、って言ってたろ?」

「いや、あんなのパーティーにいなかったよ······多分他のパーティーから金で雇ったんだね」

「ああ、そういう事な、道理でお願いします、とか畏まってんのか」


 こうなると簡単な話だ。

 強敵なのはどっちかは一目瞭然。

 それを見抜いたソラがハヤテの能力をここで試す為に今の提案をしてきたのだろう。


「参ったなぁ······片方はどうにでもなるけど筋肉男はやりそうだ」

「頑張ってくれよ? 俺達はパーティーメンバーが必要だけどソラが認めなきゃ入れられないんでね、健闘を祈るぜ」

「とほほ」


 背中を合わせたまま話す大河とハヤテ。

 対する中肉中背の男は剣を構え、筋骨粒々男はまだ腰の剣は抜かず柄に手をかけた。

 もう始まっている。


「じゃあ······お先!!!」


 大河が動く。

 ボクシングスタイルの構えからの一気に数メートルの距離を詰めるフットワーク。

 180cmという体格からは想像もつかないスピードに周囲の冒険者達、そして目標となった中背男もそれを捉えられない。


 シュッ!!!


 伸びる左拳。

 軽く握られたそれは中背男の顎辺りを素早くかすめていき······

 中背男は吊り糸の切れた操り人形の様に膝から地面に崩れ落ちる。

 綺麗な左ジャブ。


「······なっ!! 一撃かっ!?」


 筋骨男が驚く。

 剣を持った相手に反応させない程に鋭い飛び込みと左拳のスピード。

 

「き、貴様っっっ!」


 倒れた中背男の目の前に立つ大河に剣を抜き放つ筋肉男。

 冒険者としては自分よりも格下の中背男だが素手でそれを一瞬で倒した大河に意識を向けるのは当然であったが······


「いただき」

「!?」


 大河の背中から声がした瞬間、筋肉男はハッと眼を見張るが遅かった。

 距離を詰めてきていたのは大河だけでなかった。

 ハヤテも大河と同時に自分達の懐に飛び込んできていたのだ!


『俺のジャブの飛び込みについてきたどころか、相手が俺に迎撃を向けるまで俺の背中の死角に隠れてやがった、これはまんまと利用されたぜ!』


 ヒュンッ!!


 ハヤテの右手から紐上の何かが伸び、筋肉男の首に二重に巻き付く。


「なっ、なんだ!?」


 筋肉男の首に巻き付いたそれは小さな鎖を何個も繋げた物だった。

 言うなれば鎖の鞭。


 ギリリリッ······


「そらよっ!」

「ぐああっ!」


 首に巻き付いた鎖鞭をハヤテが引くと筋肉男は苦悶の声を上げた。


「こ、この程度っ!」


 剣を離し両手で首に巻き付いた鎖鞭を引き剥がそうとしたが、


「ダメダメダメ!」


 ハヤテの左手から繰り出されるもう一本の鎖鞭が筋肉男の身体を一周して両手の動きを封じる。

 2本の鎖鞭をハヤテは両手で操っていた。


「それっ」


 宙を舞うハヤテ。

 その見事な跳躍で筋肉男の背後に着地すると、鎖鞭を自分の肩をかけてグッと力を込める。


「うごっ!!」


 更に首を強く絞められた筋肉男は両膝をついて失神してその場に前のめりに倒れ込んだ。


「一丁上がり!」


 2本の鎖鞭を引き寄せると、腰のツールポーチに納めていくハヤテ。

 あっという間の見事な決着。

 相当な手練れに見える筋肉男を完封したハヤテに周りの冒険者からもオオッと声が上がった。



「なるほどな、細い鎖を幾つも繋げた鎖鞭って訳か、それならツールポーチにも収まるって訳だな、上手い武器だな」

「こういう武器は単純な剣と違って色々な変化がつけられるからね、でも素手で相手を一撃で失神させるお兄さんにはかないませんって」

「言ってらぁ、俺の仕掛けのスピードに背中に隠れながら着いてきてるんだからな、少なくとも本気で動けば俺より速いんじゃねぇか?」

「いやいや、仕掛けに着いていくつもりだったけどその身体で予想外に速かったんでこっちが焦ったくらいだよ」


 10秒にも満たない共闘を大河と口元に笑みを浮かべ合い讃えあってから、


「で? 私は合格かなぁ?」


 ハヤテは笑みのままで振り返る。

 そこには憮然としながらもコクリと首を縦に振るソラの姿があった。


 

続く

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