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第30話「ハヤテという少女 その2」

「あのなぁ~、さっき自分が抜けてきたパーティがエロガッパがなんだの文句言っておいて挑発的だな」


 ハヤテからの唐突な色仕掛け。

 年下の少女からの思わぬアプローチに大河は口では何とも無いように答えるが、脚が露になるショートパンツで目の前のテーブルに腰を下ろされてしまうと目のやり所に困る。


「お兄さんは割とタイプだよ? 気が合えば色々としてもいいけど?」

「ん······」

「その歳で下品な事を! あなたは女子の恥というものをしらないんですか!?」


 軽口を続けるハヤテに答えに窮する大河の反応よりも早くソラは明らかに声を荒上げながら、キッとハヤテを睨み付ける。

 その生真面目な性格からしてその手の冗談は好まないのは容易に理解できる。

 自分に年端が近い同性のハヤテがそれを言うのには抵抗が更に強いのかもしれないが、その反応はやや過剰とも取れる。


「おお、怖い怖い! 流石に神聖聖徒会教会の方は冗談が通用しないや」

「まぁまぁ······ソラ、怒る前にまず俺達の条件がダメ、っていう訳を聞いてみようぜ?」


 わざとらしく大仰に反応するハヤテ。

 大河としてもいつまでも年下に手玉に取られているのも何なのでソラを宥めて話を元に戻す。


「そんな所じゃなくて、椅子にちゃんと座って教えてくれよ?」

「······」

「な?」

「まぁ、いいか」


 隣の椅子を引いて勧める大河。

 数秒の思案の後でハヤテはテーブルから下りて、椅子に座り直してから皿の上の唐揚げを口に入れた。


「飲み物は要りますか?」

「果実酒をくんない?」

「葡萄酒、お願いします」

「はぁい!」


 納得はいかないが理由は聞きたいソラはハヤテのリクエストを聞き隣の看板娘に告げる。

 看板娘が席を立ち、直ぐに運ばれてきた木製ジョッキに入った葡萄酒をハヤテはグーッと呑み、


「ぷはぁ、やっぱり美味しい! このジャイアントリザードの唐揚げに合うんだよねぇ!」


 と、また唐揚げを口に放り込みながら満足げな顔をして見せた。


「じゃあ、話をいいか?」

「ああ······いいよ、まずは報酬だね、これが問題があるよ」

「どこがですが? 破格でしょう?」


 パーティの獲た報酬の半分。

 それの何が悪いとばかりのソラ。


「ダメダメ、幾ら破格でも前金も無し、報酬は闘わないと獲られないんでしょ? いま金を持ってないからパーティの獲た報酬の半分とかいうあやふやな成功報酬な訳だ、その内容じゃ冒険者はまずはパーティの懐具合を疑ってかかってくる、奴等もバカじゃない、貧乏確定な上に払ってくれる確実な補償もないパーティなんかに参加したくないよ」

「······」



 ハヤテの指摘にソラは反論できない。

 前金も払えないのに報酬は破格という条件からパーティに現金の持ち合わせが無い事を推測されるのは当たり前であり、それは真実なのだ。


「その上、パーティの目的はフェンリル打倒ときてるからね、それが一番悪い」

「それは······だって、フェンリルを打倒しなければ、あの塔は無くならないでしょう!? いつまでも魔物の脅威からこの街を守れません!」

「そんなの日銭が稼ぎたい冒険者には全く関係のないことなのさ」


 フェンリル打倒。

 それが一番悪いと言われ、興奮気味にテーブルに身を乗り出すソラ。

 ハヤテは椅子に背中を深く預けて平然と答える。


「冒険者にとっちゃ今やあの塔は絶好の仕事場なんだからね、フェンリルが倒されて塔が無くなったら自ら失業するようなものじゃん、それにフェンリル打倒がパーティの最優先なら塔内に金稼ぎに絶好な場所があっても先を急ぐ、って事でしょ? それじゃあパーティの報酬は増えない、そんなパーティの報酬の半分とか言われても困るわけだ」

「······」


 ソラは反論できない。

 ハヤテの言うことには一理あった。

 フェンリル打倒というパーティ目的が報酬を獲るという事に対して矛盾しているのだ。


「街を救うためのフェンリル打倒、そりゃあ確かに立派だろうし人も救えるだろうけど、そこに積極的に参加したい、なんて奴は街の人間ならともかく冒険者にはいないんだよ、魔物を倒そうとしてる冒険者は多くてもフェンリルを倒して塔を無くそうとしてる冒険者なんていないだろうからね」

「でも······目的をパーティに参加してくる人に隠したりは出来ません」


 ソラは俯く。

 目的を隠したり嘘をついてパーティに冒険者を参加させても弊害になってしまうだろうし、なによりもソラ自身がそれを赦せない。

 大河や真愛、イシュタルも同じだ。


「確かに······冒険者からパーティの参加者を募るというは考え直しますか? 街の人とかで腕の立つ人なら参加してもらえるのでは?」


 看板娘がソラに促すが、


「それはダメ、街で腕の立つ人はもう魔物の街への侵攻に対処してる筈だから、そこから人を抜いてしまう訳にはいかない!」


 ソラは強い口調で答えた。

 そうである。

 冒険に役立つような人材を連れ出し、夜の襲撃からの街の防衛力を落とす訳には絶対にいかない。

 だからこそパーティの人間には余所者である冒険者を頼るしかないのだ。

 しかしその冒険者とは根本的なパーティの目的が合わない。


「街の人間も冒険者も頼れない、あまり打算的な冒険者も無理となれば、ちゃんとフェンリル打倒を理解してくれている冒険者をどこからでも探すしかない、って事だな」


 唇を噛む大河。

 ソラもそれに何も答えられずにいたが、


「ま、でも私はそっちの言ってる条件でパーティ入ってもいいよ? 別にフェンリルなんて倒そうが倒さなかろうがどっちでもいいし、倒した時に別途に特別ボーナスでもはずんでくれたらやる気も出る」


 ハヤテからの予想外の申し出に隣の大河と顔を見合わしてから、悪戯っぽい笑顔を見せているハヤテに向き直るのだった。




続く

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