第27話「ゲームの酒場って良心的だと思います」
「カップルさん、ご注文は?」
「強くない果実酒を2つ、あと肉の揚げ物で」
そばかす看板娘からの催促にソラが即答した。
大河としてはこの世界に来て日の浅く、いわゆる初めての外食。
何が外食で食べられているかがわからないので助かりはしたが少し焦る。
「さ、酒!? オレ酒は呑まないぞ?」
「そ、そうなんですか? でもここは酒場ですから、お水と言うわけにはいきませんから我慢してください、果実水は値段が高いですし、こんな酒場では取り扱いもないですよ」
「な、なるほどな······この世界じゃジュースなんてなかなか無いのか」
街の様子を見れば判るがこの世界の科学水準は大河達のいた世界よりも遥かに低い。
ジュースといえば果実から作る物が思い浮かぶが、単純に果実を絞るだけの果汁は量が取れないし、そこから加工飲料を作るのは技術的に到底無理。
それに比べて酒ともなれば大河のいた世界でも紀元前の古来から人類が古くから見つけていた発酵の技術を利用してきた物で、大河の知識では詳しくはわからないが保存などの面で取り扱いもしやすく、この世界でも広まっているのだろう。
それに······
『この世界じゃソラみたいな歳の娘でも酒を呑んじゃいけないという決まりもないのか』
世界がそういう事なのだから文句のいいようもない事に大河は納得する。
「揚げ肉と葡萄酒2つ! お願いしまーす!」
「あ、ちょっといいですか?」
ソラの注文をマスターに元気に告げて踵を返そうとする看板娘をソラが呼び止めた。
「え!?」
「この酒場にはフェンリルの塔に登る冒険者が来ることが多いと思うんですけど?」
「そうですね、街の外からくる冒険者は殆どが塔目当てですよ、危ない魔物もいるらしいけど伝説の魔法使いであるフェンリルの塔だけに魔法のかかった武具や道具、何度も敗れ去った王国遠征隊の高価な装備とかがあるという噂が絶えませんしね」
看板娘はフランクにソラの質問に答え始めた。
「そうなんですか、それで私達はこの街の神聖聖徒会教会の者なんですけどフェンリルを討伐する為に塔に入りたいんです、誰か仲間になってくれる方がいないでしょうか? 私達は冒険者を探してるんです」
「あ······」
そういう事か。
ソラが看板娘に話しかけた意図を大河はようやく理解した。
直接に冒険者ではなく冒険者がよく集まる店の顔であろう彼女に情報を獲ようというのだ。
確かにその方が一つ一つのテーブルに仲間にならないか、等と聞いていくよりも効率がいい。
『昔、やったロールプレイングゲームでも酒場の娘に他の冒険者を紹介してもらう、とかあったな』
大河がそんな事を思い出していると、
「そういう事なら紹介料貰いますよぉ? それでも良ければお好みのフリーな冒険者を紹介できますよぉ、まずはお酒とお料理持ってきますから、お話はそれからで!」
看板娘はソラに対してニッコリと笑い返してきたのである。
『紹介料、ゲームと違って酒場の看板娘もしっかりとしてるんだな』
大河は思わず肩をすくめた。
「お待たせしましたぁ、お二人さん、カウンターじゃなくてテーブルにどうぞ!」
陶器のカップに入った葡萄酒2つと皿盛られた何を揚げたかわからない唐揚げを空いているテーブルに置くと看板娘はソラと大河を手招きする。
「は、はい」
ソラと大河が立ち上がって、カウンターからテーブルに移動すると、
「まぁまぁ、食べて呑みながらどうぞぉ」
看板娘はペラペラと手帳を開きながら、テーブルの対面に座った。
「接客、平気なのか?」
「あ、大丈夫です、だいたいお酒行き渡ってるし今いるパーティーの皆さんはあまり稼いで無いからそんなにお代わりしないでチビチビやってますぅ、こっちのお仕事の方が今は優先なんでぇ」
大河が看板娘としての仕事を放棄したように見える彼女を心配すると、周囲に聞こえるような声で彼女は答えた。
彼女の話は聞こえたに違いないが周りのパーティーの者達は耳はすましつつも特に聞こえないようにしているように見える。
『なるほど······オレが言うのもなんだけど冷静に良く見れば単純に強そうな奴等もいないな』
もう一度見渡しながら大河はフォークで謎の唐揚げを刺して口に入れる。
「あ、旨いな」
肉は淡白ながらもいい塩加減とカラッと上がった衣の旨さに大河が声を上げた。
「ジャイアントリザードの肉ですね」
「リザード? あの街を襲ってきた蜥蜴男か? アイツの肉?」
ソラの答えに思わずビックリする大河。
鶏ではないのは覚悟していたが、まさか何度か闘った蜥蜴顔の獣人。
アレを食べるのか?
「違いますよぉ、アレはリザードマン、ジャイアントリザードは沼とかにいる大きな四つ足の動物ですよ、いくら仕入れが不足しててもジャイアントリザードの肉の代わりにリザードマンは食べませんよぉ、肉質は似てるらしいですけど匂いとクセが強くて到底無理らしいですぅ」
「そ、そうかぁ、ジャイアントリザード······いわゆる大蜥蜴ね、あははは」
看板娘の返事に安堵する大河。
そんな大河に穏やかな笑みを見せたソラは、
「じゃあ早速紹介してくれますか?」
看板娘に向き直り、彼女を真剣な眼差して見据えた。
続く




