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第25話「年少の美少女と酒場に行ってみよう その1」

 陽はまだ高い。

 魔力の測定を終えた一行は伝統派魔術師協会を後にして東地区のアパートメントの通りを歩く。

 周囲にもまだ人通りは多い。

  

「まずは簡単な魔法の詠唱を覚えていきましょう、暴発が怖い攻撃魔法は後にして補助魔法からにしましょう、調整が出来てきたら攻撃魔法を覚えていけば良いと思います」

「お願いするね、物覚えはそんなに悪くないと思うから迷惑はそこまでかけないと思うけど」

「アタシは魔力ゼロらしいから割り切ってスリングショットや役に立ちそうな武器を猛練習するよ、マナは魔法をガンバろうね!」

「うん、そうだね、でも私も供給力が無いならイシュタルちゃんと他の武器も練習しないとね、毎回魔法使う度に倒れてらんないし」

「そりゃそうだ、毎回バタバタとか幾らなんでも酷いもんねぇ~」


 イシュタルが舌を出すと笑い合う女子三人。

 その後を後ろ頭に両手をやって歩く大河。

 女が三人集まるとなんとやらと言うが男子の大河には混じりにくい物がある。

 仲が悪いとかではなく、若い女子の複数時特有の空気が元の世界にいた時からやや苦手だ。


『まぁ、家でも女性軍に圧され気味だったしな』


「大河様」


 そんな事を考えていると、ソラが大河に振り返って走り寄ってくる。


「ん?」

「今夜いいですか?」

「え?」


 言葉の意味がわからなかった。

 一見聞くと意味深にも聞こえる言葉をソラのような美少女に言われ、大河はやや戸惑う。

 大河からすれば中学生くらいの年下なのであるが。


「こ、今夜って?」

「今夜の魔物達の襲撃の後、塔に入る冒険者達の酒場に行きませんか? 仲間になってくれる人達がいるかもしれないので」

「あ、その事か、そうだな、魔物の襲撃を上手く凌げたら付き合うぜ、でもソラは平気か? 酒を呑むような場所はソラの年齢じゃまだ早いんじゃねぇのか?」


 ソラの今夜という意味がわかり、少々であるが焦ったのを彼女に悟られないように大河は聞き返す。

 この世界の常識ではわからないが夜の酒場ともなればソラの年齢ではまだ行くような場所ではないと思ったからだ。


「確かに、そうですけど夜にどんな乱暴者がいるかわからない場所にイシュタルちゃんや真愛さんに行かせる訳には行きませんし、私ならある程度は自分を守れますから」

「······それに俺一人じゃ場所もわかんねぇし、仲間になってくれそうな相手ともソラが居なきゃ交渉もできねぇか、酒場特有の柄の悪いヤツに絡まれたら俺が喧嘩は請け負うぜ」

「喧嘩じゃなく仲間を探しに行くんですよ、お控え下さい、じゃあまた後で」


 グッと大河が拳を握って見せると、ソラはクスッと笑って踵を返す。

 回転させた身体に合わせて綺麗に靡く金髪のツインテール。


『······こっちの世界ならハリウッドの早熟有名女優になれるくらいカワイイな、そんな美少女と異世界の夜の酒場に行くとか、数日前じゃ考えもしなかったな、まったく』


 金髪の少女の美貌に見惚れながら大河は数日前では想像もつかなかった目の前の現実に苦笑した。


 

         ****


 

「大河様······大河様」

「!?」


 数時間後。

 優しく身体を揺すられて大河は目を開けると、そこにはランプを持った鎧姿のソラがいた。


「ああ、寝ちまったか」


 裏庭が見渡せる食堂の勝手口の階段で座り込んで寝てしまっていたみたいだ。

 周囲は至って静か。


「もしかして今日も出なかったか?」

「そうみたいですね、日没からもうかなり時間が経ってますから多分平気でしょう」


 塔からの襲撃は今日も無かった。

 まだ暗いので油断は禁物ではあるが。


「ソラとイシュタルは?」

「お二人は魔術師協会から帰った後も各々の練習を熱心にやってましたからね、今日の襲撃は無いだろうと告げたらお風呂に入られて直ぐに寝所に行かれましたよ」

「熱心にやってたみたいだからな、特に真愛はボンボンとかなり激しく、近所迷惑だったよな」

「ふふふっ、そんな言い方は悪いですよ」


 大河が身体を伸ばしながら立ち上がるとソラは控え目に笑う。

 強すぎる魔力の出力の調整をまず覚えなければと、ライトボールを爆発させないようにと練習していた真愛であったが······何度もそれを爆発させてはひっくり返り、起こされては爆発させてひっくり返り、遂には何度目かで完全に目を回して気絶してしまったのである。

 イシュタルにしてもスリングショットを完璧に出来るようになると、何度も標的に繰り返して投擲を繰り返していた。


「真愛さんもイシュタルちゃんも各々が粘り強く練習してましたよ、とても努力家です」

「イシュタルもだけど、真愛もアレで結構執念深いからな、一度ハマったら戻れないタイプでね、オタク気質なんだよ」

「オタク······?」


 首を傾げるソラ。

 彼女が知るわけもない単語だ。


「ゴメンゴメン、好きになった事はトコトンまで突き止める性格って事さ」

「そういう意味なんですか?」

「ああ、真愛は魔法は絶対にモノに出来ると思う、そこまで時間をかけずにさ」

「妹さんを信じられてるんですね、お二人はとても良いご兄妹に見えますよ?」


 微笑むソラ。

 美少女というものはどんな表情でも様になるが、その中でも美少女の微笑みというのはもはや下手な言葉よりも武器になる。

 そんな強力な微笑みに対し、


「まぁそうかな? まぁ良い兄妹······だな、うん妹も信じてるし······ともかく二人が大人しく寝てる間に俺達は酒場に行こうか、案内頼むぜ」


 何かを思い出すように宙を見上げ、バツの悪そうな顔を大河は見せるのであった。




続く

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