第23話「蒼き魔力と落とし穴」
「大師長様なら余計な事を言わずとも感じてくれるじゃないか、私はそう思ってました」
「君は案外に性格が悪い、あの時の事を思い出して取り乱してしまった」
ソラが告げるとリンデマンは失った冷静さを取り戻そうとするように真愛から離れて背を向けた。
そのリンデマンを慰めるように駆け寄るメイドのヴェロニカ。
残った三人は当事者の真愛すら置いてけぼりを喰らっていたが、
「それっていうのはマナの魔力が高い、って事でいいんだよね? 測らなくても判るくらいに」
イシュタルが手を上げて聞くと、
「ええ、おそらく」
ソラはコクリと頷く。
「でもさ、判っていても折角測れる魔法の品があるんだから測れる物は測ってみた方が良くない? 大師長さん、私は観てみたいな」
イシュタルがリンデマンとヴェロニカにお願い、と手を合わせると応接間の緊張感も少しは和らぐ。
「自分でも観てみたいです、お願いします」
真愛もリンデマンに頭を下げると、リンデマンも息をついて仕方がないな、とヴェロニカに振り向く。
主人の冷静さが戻ったのを感じ取った彼女は頷くとしまいかけた王冠を座っている真愛に失礼します、と告げて被せた。
「······」
水晶を手に持つリンデマンの詠唱が始まる。
緊張気味に頭上の王冠を見上げる真愛。
魔法詠唱が終わらないうちに······水晶には劇的な変化が現れた。
「これは!」
蒼かった。
まるで雲ひとつない空のように。
綺麗な青。
その光は柔らかく応接室を包んでいる。
「綺麗!!」
「······こんな綺麗な青が出るのは始めてかもしれません」
瞳を輝かせるイシュタル。
口数が少なく余計な事を言わないイメージのヴェロニカも部屋を照らす青に驚く。
「大師長様、これは?」
「ああ、間違いなく最上級の魔力と観てもいいだろう、これだけハッキリと濃い青の魔力を出す魔術師を見たことはない」
ソラとリンデマンも予想はしていたとはいえ真愛の魔力測定には驚きを禁じ得ない様子だ。
「最上級の青でこれだけ濃いという事は真愛はスゴいって事なんだね! やった、やった!」
万歳をして真愛に抱きつくイシュタル。
「何か役に立てる、それなら嬉しいよ」
喜ぶイシュタルを抱き止める真愛。
魔力があると言うならそれを活かせる、と先行き不安であった塔への冒険に光が差した。
「それなら真愛は立派な魔術師としてやっていける、って事か、やったな!」
大河も真愛とイシュタルを見ながら拳を握り締めるが······
「確かに魔力は高い、だが······問題はあるな」
リンデマンはそう言うと、真愛の頭上から王冠をヒョイと取り上げてしまう。
すると水晶から出ていた光もスッと無くなる。
「問題ですか?」
「そうだ」
ソラの疑問に頷きながら、リンデマンは王冠をソラに被せてから詠唱を始める。
「ソラも測るの?」
声を弾ませるイシュタル。
すると水晶は眩しく白い光を放ち始める。
「うわ、眩しい!」
水晶の光の強さに思わず下を向くイシュタル。
「白いって事はオレの黄色い光よりも魔力が強いって事だな、ソラはやっぱりスゴいな」
「そういう事だ、ソラ君の魔力の素質はやはり数千人に一人の才能だ、そして君の妹真愛さんと比べて他に気づいた事はないかな?」
水晶からの白く眩しい光を思わず手で遮る大河にリンデマンは聞く。
「え、青じゃなくハッキリとした白·····光が眩しい······あ」
「そういう事だ、さっきの真愛君の光を思い出してくれないか? この部屋を全体を照らす光量は十分にあったがここまで眩しかったかい?」
「眩しくなかったよ!」
大河が答えるより早くイシュタルが声を上げた。
「色は濃い青が綺麗に出ていたが照らす光量はソラ君よりもだいぶ少なかっただろう? それはどういう事かというと?」
「魔力は高いけど、魔力の供給力がそこまでではないという事です、普通の魔術師ならば真愛さん程の光量が出ていれば十分優秀なのですが、元の魔力が殆ど例を見ない程に高いのですから供給力が見合っていないと言わざる得ません、何か支障は出る可能性が高いと思われます」
ヴェロニカがリンデマンに続いて説明する。
「それって······」
「わかりやすく言えば、魔力高いけどMP少なめ、って意味じゃないかな? まぁ魔力がスゴく高いというだけで御の字なんだけどね」
ヴェロニカの説明にやや困惑する大河に真愛はそこまでは上手くいかないか、とばかりに苦笑するのだった。
続く




