第22話「魔力測定2」
全くの反応を示さない水晶。
「············」
リンデマンは無言で眉をひそめる。
「御主人様?」
「うん、いや······」
ヴェロニカに視線を向けられた彼は顎に手を当てて暫し考えていたが、
「だーっ! 魔力が無いって! 無いって、なんなんだぁ~!! これ、ぶっ壊れてるじゃないかぁ?」
そう脚をバタバタさせているイシュタルの頭からヒョイと王冠を取り上げて、
「次は君だ」
と、大河に王冠を被せる。
「え? あ、はい」
「別に構えなくても良い楽にしていたまえ、さっきの娘とやることは同じだ」
大河が背筋を伸ばすと、リンデマンはブツブツと魔法の詠唱を始める。
すると······
「あーっ! すぐに光った! 私の時は全然だったくせに!」
リンデマンの手元の水晶を見て声を上げるイシュタル。
詠唱が終わるか終わらんかのうちに黄色い光球が水晶に浮かぶ。
「淡くも濃くもない黄色、昼間の部屋でも光量が充分に視認できる、魔力も供給力は一般人よりはかなり高いと言えるな、九割以上の一般人は薄い赤から普通の赤で光量ももっと暗いのが普通なんだ」
「そ、そうなんですか?」
黄色でも相当な希少なのか。
大河は驚く。
赤、黄色、白、青という順で魔力の強さが変わるというから白や青はともかく黄色はそれなりの頻度でいるかと思っていたからだ。
「じゃあ白や青は?」
「色の濃さはあるが、白は魔法を目指す数百から数千の中から一人か二人、青は十何年に一人出るか出ないかのレベルだ」
「そうなのか」
「じゃあお、兄ちゃんは凄いんだね」
大河の魔力が高い事に喜ぶ真愛。
真愛の様子を一瞥するとリンデマンは大河に向き直る。
「ソラ君から聞いたが君は拳に光を宿して魔物に大きなダメージを与えるらしいね、やってみてくれるかな?」
「は、はい······」
リクエストに頷き、大河は右拳を握り締めて光を宿らせると、瞳を輝かせるリンデマン。
「うむ、拳の威力を上げる補助強化系魔法だが詠唱も無しに発動する上に効果は極めて高い、そして魔力消費も少ない、いわゆる勇者独自の魔法か、魔物相手には更に威力を増すのかもしれん」
「これ魔法だったのか?」
詠唱もしないで発動するので魔法というより気合いを込めているつもりだった大河はうーんと言いたげに自分の光る拳を見つめる。
「いつか研究をしてみたいがまた時間がある時に是非に頼むよ、ではこれを片づけてくれ」
リンデマンは大河の頭から王冠を取り、ヴェロニカに手渡す。
「あれ?」
「大師長様?」
え、終わり?
そんな風に表情を変えたのはイシュタルとソラ。
「真愛はやらないの?」
「お願いします大師長様、真愛さんの魔力についても王冠と水晶をお使い願えないでしょうか?」
当然の意見だ。
イシュタル、大河と王冠と水晶で魔力の強さと供給力を測ってきたのにリンデマンは真愛を無視するように王冠を片づけさせてしまったからだ。
実は真愛本人もあれ、と思ってはいたが口や態度には出さないでいた。
「ソラくん······」
リンデマンは窓際の安楽椅子に深く腰かけた。
「君は割と性格が悪いね、彼女の魔力について何かの報告を私にワザとしていないんじゃないかな? 知らせない上で私に彼女の魔力を測らせようとしていないかな?」
やや厳しめの口調でソラに問うリンデマン。
「············」
ソラは顔をやや伏せた。
二人の間に何かの緊張感が走る。
そうだ。
真愛も思っていた。
なぜソラは今朝、真愛が魔法をしくじって爆発させてしまった事を告げなかったのだろうと。
それがあったからこそ今日急いでここに来たのではなかったのか?
リンデマンからだけでなく、その場の全員の注目が集まり、
「流石は大師長様です······実は試しにライトボールを教えて真愛さんに使用してもらったのですが、魔法の詠唱を終えた途端にライトボールが閃光を放って空中で爆散してしまったのです」
ソラがようやく素直に説明すると、リンデマンの頬がピクリと震える。
「そんな事だろうとは思ったが······まさか只の光源を得る魔法であるライトボールが閃光を放ち爆発するとは!?」
「はい、でも敢えて説明しなかったのに大師長はなぜその事を感づかれましたか?」
「感づくも何も······」
リンデマンは安楽椅子から立ち上がって、ソファーに座る真愛に向かって歩み寄る。
「魔術師の多くが元来相手の魔力を測る能力は高くなく私も例外ではない、魔法を使用もしていない相手の魔力を測るのは困難だ、だからこそこういう高価な魔法具を使用するわけだが······」
ワナワナと震え出すリンデマンの右手。
「こんな物を使用せずとも彼女から隠しきれない程に漏れ出てくる高い魔力が私を圧迫してくるからだ! そうあの時のように!!」
突然に興奮気味に叫び、まるで禍々しい者を見るように真愛を睨み付けるリンデマン。
「御主人様!」
ヴェロニカは主人の様子の急変に思わず彼に駆け寄り、周囲はその様子に目を見張るが、ソラだけは会心にも近い不敵な笑みを浮かべていた。
続く




