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第20話「しくじりは意味があります」

「ふんぬぅぅぅぅ~」

「はぁぁぁぁっ~」

「のわぁぁぁぁぁ~」

「ら、ライトボーーールっっっ!」


 歯を食い縛る。

 気張る。

 力む。


 真愛とソラが見たのはイシュタルの力の入った百面相の連発であった。

 その中で空に繰り出される右手には光球の欠片すら現れない。


「ふんっ、ぬんっ、ぬんっ!!」


 自暴自棄に振られる右手。

 それを初めて数分が立つが何の変化も見られない。


「ライトオォぉ·····」

「ストップストップ、イシュタルちゃんは一旦休もうか、連続でやっても上手くはいかないから!」


 諦めないイシュタルであったが、見かねたようにソラが駆け寄り彼女を止めた。


「で、出来ねぇ! 光る玉の欠片もでねぇ!!」


 拳を握り締め悔し涙を浮かべながら口が悪くなるイシュタル。

 そんなイシュタルの両肩に優しく手を置いてソラは彼女を何歩か下がらせる。


「私の教え方もきっと問題あるんだよ、次に真愛さんの様子を見たら三人で魔術協会に行ってみようね、私の魔法の先生が見れくれたらきっと良くなるから」

「ぐぬぬぬぬ」


 何処に怒りをぶつけて良いのかわからないイシュタルを諭すソラ。

 

「じゃあ、次は真愛さん、お願いします······集中法はさっき教えたとおりに初めは時間をかけて、詠唱もゆっくり確実にやってみてください」

「うん」


 イシュタルと入れ替わるように真愛は緊張気味に前に踏み出す。

 ゆっくりと目を瞑る。

 魔力の集中法、詠唱はもう教わり済み。

 どちらも難しいものでは無かったが初めての事だから感覚がわからない、まずはやってみる。


「じゃあ······」


 真愛はグッと目を閉じた。




 空を切る拳と脚。

 飛び散る汗。

 敵はいないがイメージは出来るし、思い出す事はもっと容易い。

 昨日闘ったオークやリザードマン、コブリンといった魔物達が目の前に現れ、自分に向かって殺到してくるイメージを浮かべながらのシャドーである。

 実際に相手はいないが手は抜かない、大河の両拳は光を帯びその表情は真剣そのものだ。


「ハアァァァッ!!」


 パンチのコンビネーションからの蹴りを放ち動きを止める。

 

「はぁはぁはぁ、なんか出来そうな気がするんだけどなぁ、出来ねぇかなぁ?」


 少し思いついた事を試してみたかったのだが、思ったようには上手くいかない。

 集中が足りないか?


「ふぅ」


 息を整え、ふと回りの景色を見渡す。

 修道院の屋上。

 四方5メートルくらいの小さな屋上部分があり、大河はそこを早朝の鍛錬の場に選んでいたのである。

 その屋上からは地区の街並みが見渡せるのだが、


「いい景色······かね? やっぱ景観乱してんな、あの塔が」


 煉瓦造りのアパートメント中心の街並み、大河や真愛がわかる表現を言えば中世ヨーロッパ風。

 そこに強制的に割り込んでくるのが巨大な影を落とす塔。

 この西地区は街の中でも中流の人間が多いとソラから聞いていた、いわゆる街の経済的平均層の人間が多く住む地区。


「············」


 煉瓦の縁に腰を下ろし、街並みを眺める。

 遠目からでも見える幌や屋台が並ぶ市場、そこを歩く沢山の人々。

 魔物の襲撃から逃げられず、また様々な事情から逃げずに残された人々の残る街なのだが市場にはかなり賑わっている。


「あんな皆で露天出しておいて陽が落ちて魔物がやってくる頃には跡形もなく撤収してるんだからな、どんな世界でも人間っていうのはたくましい生き物なのかも知れねぇな」


 元にいた世界でもたくましい人々がいるのを大河はテレビやネットで知っている。

 ミサイルが飛び交う戦場の街でもどうやって仕入れたかもわからない位の食料品を山積みにして売っている市場やよくわからない食べ物を売る露店、そしてそこに通う人々。

 それと同じだ。

 人間は自分達が思うよりも試練に強いのかも知れない、そんな事を考えていると······


 ボンッッッッッ!!


「な、なんだぁぁぁぁ!?」


 早朝ののどかさを吹き飛ばすように突如、聞こえてきた大爆発音と空気の震える衝撃に大河は座っていた縁から落っこちそうになったのである。






「ソラさん、ソラさん!」


 少年の呼びかけにソラはガバッと上半身を起こす。

 自分を心配げに覗き込んでいたのはヴィスパーだった。


「ヴィスパー!?」

「良かった起きてくれて、ここに来ようと歩いてたら凄い音がしたけど何があったんですか!?」

「いや······これは」


 飛びかけた記憶を首を振って戻そうとしていると、傍らで大の字になっていたイシュタルもヨロヨロと手を上げて動き出す。


「な、なんで爆発すんのぉ〜?」


 そうだ。

 爆発したのだ。

 魔法発動のどの段階で失敗しても爆発なんて危険がない筈の補助魔法で!?

 イシュタルが無事そうなのを確認すると、ソラはゆっくりと立ち上がり、この爆発を起こした張本人に歩み寄る。


「············うううっ」


 真愛が目を回して大の字で倒れていた。

 爆発音は派手であったが目立った外傷などはない。


「今のはマナがしくじったのぉ〜?」


 ヴィスパーの手を借りて立ち上がるイシュタル。


「ええ、そうです、そうなんですが······」


 ソラはまだ目を回している倒れる真愛を見下ろし、


「でも、このしくじりは意味があります」


 と、僅かに口元を緩めたのだった。


 

続く

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