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第18話「襲撃のない朝」

 足りない。

 三人に芽生えた認識。

 修道院の食堂のテーブルに三人は座っていた。


「もう少し仲間が欲しいな」

「個人で闘えるように何かを習いたい」


 一階でのゴブリン、オーク、ガーゴイルとの戦闘で見えた問題点話し合った結果、大河と真愛から出た意見がこれであった。

 

「とにかく明日はこれらの問題をどうにかするようにした方がいいかもな、闇雲に塔に入っても怪我をするだけだぜ」


 両腕を組む大河。

 ソラは顎に手を当てる。


「あまり行きたくありませんが、大河さんの言う仲間は塔に立ち入る者達が集う酒場でしりあえるかもしれませんね、真愛さんの方は腕力に自信が無ければ魔法を習うのも手かもしれません」

「そこでさ、ソラちゃんに簡単な魔法から教えてもらえないかな?」


 真愛が切り出す。

 これは考えていたことだ。

 武装はしてみたものの、やはり真愛の体力では直接的な戦闘では全く通用しないと解ったのである。

 ソラほどではなくても少しでも使えるようになれば戦力の足しにはなれるかもしれない。


「少なくとも剣を習うよりは実りがあるような気がするんだよね」

「わかりました、やりましょう、少しずつでも出来るようにしていきましょう」

「ありがとう、世話をかけるね」


 提案を数秒の思案の後で引き受けたソラに真愛は感謝する。

 大河も軽く手を挙げた。


「じゃあ、酒場には俺が行ってみるけど······」

「大河様も場所がわからないでしょう、そちらも私が付き合います、魔物の街への襲撃が終わったあとでも営業をしている裏の酒場の噂があるんです」

「悪いな、頼むぜ」

「では私はこれから魔物の夜の襲撃に備えて街の人達と打ち合わせをしてきますから、二人は襲撃が始まるまで休んでて下さい、誰かを呼びにやりますから」


 大河にも頷くと、ソラはテーブルから立ち上がって食堂から出ていく。

 金髪ツインテールの後ろ姿。


「······」


 残された真愛と大河。

 

「俺達が至らねぇのが悪いんだけどさぁ~」

「うん······」



「無理させてるなぁ~」


 兄妹は苦笑いで声を揃えてしまった。




 夜の帳が降りて数時間。

 城壁に備え付けられた見張り台。

 三人の見張りは弱い月明かりにも目立つ巨大な塔を睨み続ける。

 夜に飛ぶ種類の鳥もいる。

 それらと間違えて手元の鐘を鳴らしてしまわないように集中を切らさない。


「遅すぎるよな、いつもなら陽が落ちたらすぐにでも来るぞ?」

「うん」

「······塔から何か出てくる雰囲気もないな」


 毎日のように続く襲撃による疲労の中、必死に眼を凝らし続けた三人の努力は残念ながら徒労という形に終わったのである。



「!?」


 修道院の勝手口。

 座り込んで俯いていたソラは誰に起こされるわけでもなくハッと意識を戻し、反射的に立ち上がった。

 もう周囲は明るかった。

 目の前に立ったのはイシュタル。


「ソラちゃん」

「イシュタルちゃん、襲撃は?」

「無かったよ、結構前からソラちゃんがそこで寝てたのはわかってたんだけど何だか起こせなくてね」


 笑うイシュタル。

 陽の落ちた頃からずっと警戒をしていた。

 普段ならすぐにでも現れる魔物達がなかなか出てこないとは思いつつ、警戒の鐘を聞いたら素早く対処できる様に待っていたつもりがいつの間にか寝てしまったのか。

 起こされなかったのはイシュタルが気遣ってくれたのだろう。


「無かった······んだ?」


 大きく息を吐くソラ。

 襲撃が無かった。

 この所は毎日あったのに······

 何でだろう?

 しかし。

 ツインテールの金髪をサラリと右手で流すと、


「まぁ、良かったです、これからお風呂入ります、真愛さんには後で裏庭で始めると伝えて下さい、イシュタルちゃん」


 ソラは勝手口の扉を開けて中に入っていく。


「わかった、ごゆっくり~」


 イシュタルはパタパタと手を振り、閉じた勝手口の扉を見つめながら、


「無理してんなぁ~、アタシもスリングもう少し練習しなきゃなぁ」


 と、ため息をついた。

 

 

 

 かけ流される湯。

 湯船に身体を沈めるとソラはフゥと息を吐く。


「鎧を来て座ったまま寝たから、ちょっと腰が痛いなぁ~」


 まだ朝は早い。

 身体を休め、ゆっくりと朝風呂を楽しみたいがそんな暇はないだろう。

 真愛への魔法の指導、今日は行くのかはわからないが塔への討伐の準備、子供達の世話、自分の鍛練も出来ればやりたい。


「······」


 湯船からスッと右手を上げる。

 白く瑞々しい肌を湯が流れていく。


「細いなぁ~、もう少し威力のある剣を使いたいんだけどまだ扱いきれないよなぁ」


 その瑞々しさ、白さに満足するではなく、その細さに不満を口にしてしまう。

 

「あ、そろそろ······上がらなきゃ、真愛さんが待ってるかもしれない」


 顔を上げるとソラは湯船から急いで立ち上がった。



続く

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