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第15話「メイドさんは基本的には無表情」

「伝統派魔術師協会!?」

「はい」


 街を歩きながらソラは真愛に頷き、

 

「伝統の魔術を研究してる魔術師さんの集まりだよねぇ?」

「そうですよ」


 字面から読み取れそうな当たり前の事を言うイシュタルにもソラは笑顔で答える。


「これからそこにいくの?」

「ええ」

「私が魔法を習う······とか?」


 少し警戒しながら聞く真愛。

 塔への冒険に出る前に真愛に同行して欲しいとソラが申し出てきただけに、そういう推測をしてしまうがソラは少しだけその整った瞳を丸くした後、


「いえいえいえ、明日には塔に出るという所でそう簡単には魔術は身に付きませんよ、ただ会っておいた方が良い人に真愛さんやイシュタルちゃんを会わせておこうかと思ったんです」


 クスッと少しだけ微笑む。


「だ、だよねぇ······ソラちゃんがやっていた様なあんな凄い魔法とか簡単には習えないよねぇ、それはそうだよね」

「そうだ、そうだ、誰でもすぐに習えるのなら街の人達がみんな魔法使って魔物倒せるもんね!」


 真愛は後ろ頭を掻き、イシュタルもそう笑う。

 もっともである。

 

「でも、大河は連れてこなくて良かったの? ソラが言うから真愛についてきちゃったけど?」

「ええ、大河さんにはヴィスパーと一緒に塔に入る為の準備をお願いしました、食料品や装備も最低限は必要だと思いますから」

「そうかぁ、やっぱ力仕事は男の子だよね! ワタシ達か弱いからね、買い出しとかめんどくさそう!」


 ソラの返答にカラカラと笑うイシュタル。

 ヴィスパーとは神聖聖徒会教会に良く顔を出す同じ歳くらいのソラの事が気になっているような素振りが隠せていない可愛らしい少年だ。


「か弱いねぇ······」

「そうそう」


 その、か弱い女の子が殆どのパーティーで魔物の棲みかであろう塔に入るんだけどね、と笑うイシュタルにツッコミたい真愛であったがそれは黙っておく。


『でも······魔法を習うんじゃ無かったら、何で私が魔術師協会にいく必要があるんだろう? それにイシュタルちゃんも』


 真愛は眼鏡のブリッジをクイと上げながら、そんな疑問を浮かべるが、それは魔術師協会に着いてしまえば解決する事だろうと口には出さなかった。




「ここです」


 歩いて十数分。

 ソラが足を止めた建物は城塞都市の東端ではあったが煉瓦造りの三階建ての重厚で巨大な建物。

 周りのアパートメントも地区の違いか、ソラの所属する神聖聖徒会の古びた教会や周囲の建物よりも立派で格差を真愛は感じた。

 ソラが梟を形どったドアノッカーを二回鳴らすと、大きめのドアはギイッと開いた。

 姿を現したのは黒装束の細身の中年男性。

 いかにも、という格好だ。


「こんにちわ、神聖聖徒会少年少女部長のソラと申します、大師長様に面会したいのですがお取り次ぎねがえませんでしょうか?」

「おりません」


 頭を下げてのソラの丁寧な申し出に対する相手の態度は対極だった。


 バタン。


 何の感情もない音だった。

 それだけを答えると男は扉をすぐに閉めたのだ。


「あ······」


 予想外の対応。

 真愛とイシュタルはそれに反応も出来ず、ソラは頭を上げる間もない。


「今の酷くない!?」


 頬を膨らませるイシュタル。


「大丈夫だよ」


 フゥと息を吐き、ソラはようやく顔を上げた。

 その顔には予想外という雰囲気はない。

 ふと真愛は思い出す。


「そう言えば、この間の闘いの時にソラちゃんが魔法を使った時、ヴィスパー君がソラちゃんの魔法は神聖聖徒会と仲が悪い伝統派魔術師協会の誰かにも認められている、って」

「そういう訳なんです、フェンリルが塔を建てる遥か以前から仲が悪いんですよ、それが今の非常事態でも中々修復しないらしくて」


 苦笑するソラ。


「街に魔物が攻めてきてるんでしょ? そんな時に街の人同士でなにしてんのさ!」


 歯を食い縛るイシュタル。

 こういう言い方になってるのはイシュタルがまだ夜に攻めてくる魔物の話は聞いたが、実際に見ていないからだ。

 真愛ももっともだと思うが、そもそもの対立の原因も知らない立場としてはどうも言えない。


「参ったな、どうしようかな······」


 顎に手を当てるソラ。

 いつまでもここにいても埒は開かないだろう。

 その時······


「ソラさん······こんにちわ」


 急に背後から少女の声が聞こえ、ソラの表情がパッと明るくなった。


「ヴェロニカさん!」


 ソラの助かったという様な声。

 振り返った先に立っていたのは、黒髪ショートボブカットに黒と白を基調のメイド服に身を包んだ少女であった。


「美人さん! カワイイ!」


 思わず声を上げるイシュタル。

 美少女メイド。

 まさにそれだ。

 年齢は真愛と同じか少し上。

 黒髪のショートボブ、蒼い瞳、高く通った鼻筋、適度な薄さの唇に整った輪郭。

 160半ばの身長、特に胸が大きいとかいう訳ではないが適度に出るところは出たプロポーション。

 ソラも金髪ツインテールの海外モデルかというような美少女だが、ヴェロニカと呼ばれた彼女から比べたら少し幼い。


「ソラさん、そちらのお二人は?」


 ヴェロニカは軽く真愛とイシュタルに向かって目配せする。


「こちらは真愛さんとイシュタルちゃんと言います、ここにいるのは少し訳ありなんです、その説明と折り入っての頼み事があるんですけど、大師長様にお目通り願えますか?」

「······残念ですが御主人様は街の各所の自警団隊長と相談事があって出かけてられます」

「そうですか」


 ヴェロニカの返事にやや瞳を落とすソラ。

 

「今日は無理かもしれませんが、明日にでも目通り出来るように私の方から言っておきます、言付けがあれば伝えますよ」

「ありがとうございます、是非」

「なら立ち話も良くないので、御主人様の応接室でお茶でもしながらどうですか? ついてきて下さい」


 ヴェロニカはソラに微笑むと、3人を促しながら先ほど閉められたドアに歩き出す。

 2人のやり取りには友好な関係が観て取れる。

 

『このメイドさんは魔術師協会で大師長と呼ばれるような偉いさんのお手伝いさんなのかな? どにしろソラちゃんに個人的な悪い感情は持ってなさそうだから、偶然会えたのは運が良かったよね』


 真愛はそんな事を思いながら、隣のイシュタルと笑顔で頷き合った。




 伝統派魔術師協会の建物の内部は外見と同じく立派は物であった。

 真愛達は玄関から入ったホールにいた先ほどの男に怪訝な瞳を向けられながらも、ヴェロニカの軽い会釈を先頭にして通り過ぎ、奥まった場所にある広めの部屋に通される。

 立派な調度品。

 本棚に並べられた蔵書。

 真愛のイメージとしては大学教授の部屋に近い。

 応接用のソファーに案内されて、ソラを真ん中に3人は並んで座った。


「お茶をお持ちします」


 ヴェロニカは頭を下げて、一旦部屋を出ていき、すぐにティーカップを盆に乗せて帰ってくる。


「ありがとうございます、ヴェロニカさん」


 笑顔のソラ。


「さっきのすぐに私達を追い出した男の人と違っていいねぇ~、酷かったよ、さっきのは大師長はいません! ってアッサリとドア閉めるんだもん!」

「仲が悪いですからね、私や御主人様はあまり気にしてませんが」


 ボヤいたイシュタルに答えるヴェロニカは、


「対面、失礼いたします」


 高級そうなテーブルを挟み、対面のソファーに上品に腰を降ろす。


「じゃあ······ヴェロニカさん、ここまでの経緯と二人の事を説明しますね」


 ソラは出されたティーカップの茶を一口含んでから顔を上げた。



         ****



「言い伝えの勇者様······」

「の妹ですけどね、拳を光らせて魔物を倒しちゃう勇者様はお兄ちゃんの方です」

「ワタシは塔から裸で放り出された記憶喪失の薄幸の美少女です」


 ヴェロニカの視線に真愛は苦笑、イシュタルはピースサインで笑顔を見せる。

 ヴェロニカというメイドにソラは信頼があるのだろう、真愛や大河が言い伝えの丘に現れ、襲撃してきた魔物を倒した事、翌日に塔の麓でイシュタルに出会い、そしてこのパーティーで塔に挑むという事を隠さず話した。


「お話承りました、お手数をかけてお話しいただきありがとうございました」


 別世界からの移送。

 魔物の塔からの全裸の落下者。

 どちらも突拍子もない話であったのに、ヴェロニカは特に驚く様子もなく頭を下げる。

 このヴェロニカという少女。

 とてつもない美少女であるし、先ほどは微笑みも見せた所から無感情ではないのだろうが、どこか感情が表立たない印象を真愛は覚えた。


「お話は御主人様に伝えます、あと頼み事とはなんでしょうか?」

「はい」


 ソラはティーカップを再び口に運んでから、


「私達が塔に登れば街を護る戦力は減ります、特に教会周辺を護るのが辛くなるはずです、その時の為に伝統派魔術師協会から誰かを派遣して欲しい事、あと大師長様に真愛さんとイシュタルちゃんを視て欲しいのです」


 と、神妙な顔つきでヴェロニカを見つめた。


『視る!?』


 自分とイシュタルを対象とされた言葉に真愛は眼鏡の奥の瞳を僅かに反応させた。


「伝えてはおきます、ソラさんの願いですから善処はして貰えるように頼んではみますが、教会の手練れを派遣するのは難しいかもしれません、それなりの対処は願いますけど」

「はい、色々とすみません」


 ヴェロニカの出来る限りの協力をしてくれる様子に頭を下げるソラ。

 教会での戦闘から考えれば、あの場に大河とソラがいないというのは自警団への負担が大きすぎる。

 そこで伝統派魔術師協会に魔術師を派遣して貰う願いをしたのだろうが、神聖聖徒会教会と伝統派魔術師協会の関係からして中々に難しそうだ。

 この地区にも魔物は襲来してきているだろうから余裕もないのだろう。


「明日の朝、私達は塔に入ります、初めての塔への出撃なので無理はせずに夕方までには出てくるつもりではいます、明後日にもまた来ます」

「だったら、明後日は御主人様になるべく此処にいてもらうようにしましょう」

「お願いします······じゃあ、明日の準備に寄る所がありますから」


 ソラはそう言って立ち上がる。


「お構いできませんで」

「そんな事ありません、ヴェロニカさんがいてくれて本当に助かりました」


 丁寧に頭を下げるヴェロニカに再度の礼をすると、三人は伝統派魔術師協会の館を後にした。




 再び街に出る三人。

 まだ陽は高い。


「もう帰る?」

「いえ、私達は私達で明日の塔への出撃の用意をしたいから寄る所があります、こっちです」


 首を傾げるイシュタルにソラは答えると、早足で二人を先導して歩き出した。

 

 


続く  

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