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第10話「光の拳を持つ勇者」

「た、大河さまっ!?」

「お兄ちゃん!?」


 ソラと真愛が大河の異常に声を揃えた。

 両拳に宿る黄金色の光。

 眩しい程ではないが、その光は決して無視できる物ではない。

 疲労したソラに迫ろうとしていたオークもその視線を大河に向ける。


「······」


 己の手の発光に気づかぬ筈はない。

 だが大河が驚いた様子もなく、ボクシングスタイルに拳を構えると二匹のオークの足先がソラから逸れ、大河に向く。

 標的が変わったのだ。


「来やがれ······」


 大河の宣戦布告と同時に一匹が咆哮を上げ、突進を開始した。

 上がる土煙。

 迫る巨体。

 振り上げられた斧。

 その迫力は例えようが無かった。

 普通の高校生よりも多くの喧嘩、暴力沙汰の中心にいた大河であったが、目の前のオークの突進はそれらの迫力を遥かに凌駕していた。


「すげぇや······」


 背筋が凍る。

 この突進をどう捌く!?

 下手をすれば一撃で致命傷を負うだろう。


「でも、十分に見えるぜ!」


 横薙ぎに振られた斧。

 確実に避ける為に下がるか?

 いや!

 懐に入り込む。

 体勢を低くしての素早い前進。

 横薙ぎの斧がほんのコンマ何秒か前まで大河の頭のあった空間を通過した。

 空振り。

 威力抜群のそれも当たらなければ、命どころかかすり傷も負わない。


「いくぜっ!!」


 カウンターの大河の右パンチがオークの顔面を捉えた

 だがソラは叫ぶ。


「大河さま、いけない! 素手では大きなダメージは与えられない!!」


 肉体の強靭さからくる耐久力が自慢のオーク。

 剣で切ってもなかなか一撃では仕留められない相手に素手では無謀。

 手痛い反撃は必至と、ソラは叫んだのだが······


「ええっ!?」


 続いて驚愕の声を上げてしまう。 

 吹き出す血飛沫。

 パンチを受けたオークの頭部は首から永遠の別れを告げ、宙を舞っていたのだ。


「······!!」


 周囲の誰もが目を見張る。

 強烈な打撃でノックダウンどころか、大河の右拳はオークの頭を吹き飛ばしたのだ。

 神経を制御する頭部を失っては、いかに強靭な肉体も役には立たない。

 ズドンと両膝をつくと首なしオークの身体は大地にゆっくりと沈み込む。


「非常識な世界にきちまったが、どうやら······少しは俺も役に立てそうだな」


 唖然とする周囲をよそに、大河は己の右拳に軽くキスすると不敵に笑った。




 残る一匹のオークは天に向かって吠える。

 強敵の登場に対する興奮の咆哮か、仲間の仇討ちの怒りの雄叫びか?

 どちらも違う。


「飛んでいる他の魔物に助けを求めている!? あの好戦的なオークが!?」


 息を呑むソラ。

 魔物であるオークが目の前に現れた大河という強敵を前に空中に脱出を計ろうと、必死に空を飛ぶ他の魔物を呼んでいるのだ。

 何故か?

 理由は簡単だ。

 勝ち目が無いと悟ったからだ。


「来ねぇのか!?」


 構える大河。

 目の前の強敵からの恫喝に意識が向いたオークは大河のみに集中していた。


「いまっ!!」


 足甲に仕込んだ短剣をソラが素早く投擲すると、短剣は意識外からの飛び道具など全く警戒できる状態ではなかったオークの喉元に見事に深く刺さり、巨体はゆっくりと後ろ倒しになった。




「大河さま!!」

「お兄ちゃん!!」


 駆け寄るソラと真愛。


「真愛、出てくんな! まだ空中に敵はいるだろ? あぶねぇぞ!?」


 外に出てきてしまった真愛に大河が注意をするが、ソラがニッコリと笑顔を見せ、


「確かにそうですが、空中の魔物達は今の大河さまが一撃でオークを葬り去ったのを観ています、見てください」


 そう言って空中を見上げると、月明かりを背景に宙を舞っていた数匹の魔物達は高度を上げて、塔の方向に飛び去っていく。


「怖じ気づいた、って訳か? 俺が倒したのは一匹だぜ、二匹をやったのはソラだろ?」

「確かにそうですけど、私は魔法を使ったのと不意を突いたのであって、インパクトは大河さまの一撃にあります、それに驚いたんですよ」

「そうだよ、お兄ちゃん凄かったよ! 手の光は何なの?」

「光はわかんねぇよ、でも、もう一匹を倒してくれた奴等にも感謝しなきゃな、倒れて怪我をしてるだろうがみんな生きてるみたいだぜ?」

「あ······」

「そうだよ、早く手当てしなきゃ」


 褒め言葉に頬を掻きながら大河が指摘すると、ソラと真愛は顔を合わせ、奮闘して倒れた自警団の男達に慌てて駆け寄っていく。

 

「ふぅ、これで今日は終わりか?」


 息をつく大河。

 自分の手を見ると光がどんどん弱まっていき、やがて消えた。

 光がオークの頭を一撃で吹き飛ばした源である事は確実だろう。

 

「······」


 拳に集中して力を込めると、再び拳に光が宿った。

 もちろん今まではそんな事は出来た事もないが、何度か光を消したり、宿したりを繰り返す。

 この世界には魔法が存在する、これもその類いなのだろうか?


『結構自由に出せるな、今は難しく考えてもしょうがねぇし······お陰で面白くはなりそうだぜ』


 大河は手の光を消すと、手当てした自警団の青年達と魔物の襲撃をどうにか撃退したことを喜び合うソラと真愛の方に歩き出した。



続く

 

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