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2章:アパーチャー

 ブレザーの襟を直しつつ、自分の番が来るのを今か今かと待つ。僕の腹の虫はすでに限界点まで達していたらしく。大きな音を立てた。僕の顔は真っ赤になったが。周りの人は気にしていないみたいだった。

「いらっしゃいませ!ご注文は?」

 ふと店員さんの声が、僕を羞恥の波から救ってくれた。

「えーっと、マフィンと……」

とりあえず何をするにしろ、腹を膨らませる事にした。



信じられない事に、僕は俗に言うタイムスリップなるものを体験してしまったようだ。学校の帰りに。しかし、超能力を得たわけではないと直感的に思った。あの後なんども『リープ!』とか『いけっ!』と叫んだりしてみるが、まったく効果がない。結局腹をすかして、国道沿いのファーストフード店で何かを食べる事に決めたのだった。

「頂きます…」

 一応の礼節は守り、手を合わせてからコーヒーに口をつける。子供っぽいといわれようが砂糖はたっぷり入れてある。

 ここで、頭の中を整理してみる事にする。僕は先輩から参考用にアルバムを借りた、それをもって歩いていたら、同じ風景である事に気づいた。それを取り出し見てみると…今に至る。

 原因は考えられる。おおよそ二つ

先ほども何回か試してみた、僕が超能力者になっちゃった説。しかしこれは可能性として異常に低い。

次に考えられたのが、写真が特殊説。写真に何らかの影響があって、飛ばされた説。こっちはかなり有力ともいえる。何故なら写真に記載された日時とタイムリップしたときに時刻が同じだったからだ。

 幸いにも2日くらいのタイムスリップだったので、精神的に楽になった。2日耐えれば、また元の時間に返れると。ただ、少し不安なことがある。現在、所持金が非常に少ないということ。それと、寝泊りする場所がない、という事だった。どうした物か…僕は深く息を吐くことしか出来なかった。



 しかし、僕にも適用能力というものがあったらしい。久々に繁華街のCDショップで色々見たり、一人でカラオケに行ったり。知らず知らずの内に家への道をたどっていた。あ、そういうことか、と一人納得してしまう。家の窓からこちらを見る僕の姿が。立ち尽くす過去の自分に笑いかけて、家に背を向け歩き出す。


夜もすっかり更け、あたりは暗くなっていった。寝泊りする場所は決まってなかったが、僕は確かめたい事が会った。再び、写真の場所に戻ってくる。写真をアルバムから取り出しかざす。自分でも馬鹿らしいとは思うけど、やって見る価値はあった。目を閉じ深呼吸を2,3度繰り返す。そして目を開ければ…

「…まぶしい」

 正面には真っ赤な夕日が綺麗に浮かんでいた。携帯のフリップを開ける。日時は戻っていた。タイムスリップは成功した。

「なーにやってんの?」

 後ろから明るい女性の声が。このアルバムを貸してくれた人その人だ。

「いや、同じだなぁって。これ先輩が撮ったんですか?」

僕は今の風景と同じ(もちろん夜明けの空などではないが)写真を彼女に手渡す。彼女は満足そうに頷いた。

「うん、昨日の朝に。あ、ちゃんと名乗ってなかったね!八乙女 光!カメラ部の部長であり、副部長である君の上司なのだー!あっはっはー!」

 僕よりも少し背の高い彼女はどこか威張って、かなり遅めの自己紹介をする。

「司です。改めてよろしく御願いします。」

 軽く頭を下げ、再び上げる。すると彼女は黒い、デジタル1眼レフを僕に差し出す。

「カメラ、自分のあるならそれでいいけど、これ結構使いやすいから。」

「でも、結構高いんじゃ…これ」

 彼女の差し出すカメラは、汚れもなく、なおかつレンズも付いている。二つ合わせて買ったら、エライ額になることは必死だった。

「いいの、いいの。吹奏学部だって高い楽器生徒にもたせてるじゃん。お下がりでよければ使って」

 僕は恐る恐る受け取り、少し太めの皮で出来たストラップを首にかける。カメラの重さが伝わってきた。

「似合ってる。保存用のカードはもう入れてあるから、じゃ、また部室で!」

 彼女は、それだけいえば、風の様に走り去ってしまった。


「おかえり、お疲れ様」

 家に入れば祖母の優しい声が聞こえる。家に帰ってきた安心感と丸二日、起きていたことも起因して大きな欠伸が出た。祖母の作るシチューの香りをかいで「美味しそう」とコメントする。

「まずいものを食わせる気はないから、着替えてきなさい」

 祖母の言いつけどおりに2階の自室に戻ろうとしたが、その場に立ち止まりカメラを祖母に向ける

「ばあちゃん写真嫌い?」

「どうだろうねぇ、お見合いのときに撮ったのが最後かも」

「満足してもらえるような写真を撮る」

 僕は祖母をファインダー越しに除きシャッターを切った。祖母は怪訝そうな顔でこちらを見る。

「写真部にはいったの。支給品。」

「フィルムがもったいないじゃないか」

「いや、デジタルって言って―――――」

 ようやくもとの時間に戻ってこれたという実感がわいた。

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