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少女は自分を鑑定してほしいそうです。6

 店の前に置かれた荷車を前に、堂々と腰に手を当てて仁王立ちをしている人物が居た。


「よお、ディラーノ。元気にしてっか?」

「元気にしてるぜ、スザク。今回も無事にダンジョンから帰ってきたってわけだな」


 その人物は、炎のような赤い髪、返り血が目立たない紅色の鎧、夕暮れ色の剣、言い換えれば全身を赤で統一した筋肉質の女性。都市グドイルでも指折りの冒険者団体【火炎獅子】の団長、スザクだった。

 このスザクはへペから「筋肉の上に髪の毛が生えているやつ」と揶揄されているが、その苦言は的を射ている。エンチャントが普及している昨今、冒険者の服は丈夫さよりも身軽さを重視し、軽装であれば良いという常識がある。それなのにわざわざ重たく動きにくい鎧を好んで装着するのは言うなれば馬鹿。しかし、スザクは馬鹿でも筋肉があった。ムキムキな両親から筋肉の遺伝、そして努力で培った肉体で重さというデメリットを帳消していた。

 そんな筋肉の申し子スザクを団長とした【火炎獅子】がダンジョンで得た成果は、荷車に積まれている。覆いかぶさっている布が山を描いていることから、量は尋常ではない。

 今日のディラーノたちはこれらを丸一日かけて鑑定する。久々のおお仕事にディラーノは小さな笑みを見せた。


「前回より多いんじゃないのか?」

「いや、数自体は前回よりも少ないぞ。その代わりちょっと大きいものが何点か。まあ、後は鑑定するお前の腕次第か。良いエンチャントが見つかるよう、頼むぞ?」

「頼むぞ」

「そうか、そうだな、はっはっは」


 スザクが笑うたびに身に着けている鎧や剣がぶつかり合ってガシャガシャと音を立てる。よく見てみると擦れている部分は赤の塗装が剥がれていた。


「それじゃあ、あとのことは頼むよ。私はこれから風呂だ。また明日取りに来るからな」


 スザクはにこやかにサヨナラのジェスチャーをする。が、ディラーノはいまスザクを帰らせるわけには行かなかった。


「まてまて、今日はちょっとお前に話をしたくてな。少し時間をくれないか?」


 言葉を発する前に、スザクはディラーノの目を凝視する。しかし、ディラーノが首を横に振ったため、スザクは落胆した表情を取る。


「……私達と一緒に来てくれるってわけじゃなさそうだな。何の話だ?」

「かんたんな話だ。ダンジョンで夫婦の冒険者を見なかったか?」

「夫婦? 他の特徴とかは?」

「聞いた話だと深層にいるはずだ。だからもしかするとスザクと出会っているかもしれない。なあ、ピリティア?」

「は、はい!」


 ピリティアがへぺが籠もっている部屋の前から返事をする。ディラーノはせっかくスザクが来ているのに距離を取っているピリティアが気に入らないらしい。ディラーノが手で招き寄せると、ピリティアはビビった様子でやってきた。


「ピリティアはなにを緊張しているんだよ。スザクならお前の両親を見知っているかもしれないんだぞ?」

「いや、あの、スザクさんのオーラが凄くて……。どことなく近寄りがたかったんです」

「なんだ、こやつかわいいやつだなあ!」

「キャッ! わっ! 浮き上がってる!」

「あ、やべ」


 ピリティアがスザクに抱き上げられてディラーノは一つ面倒なことを思い出した。

 スザクは生まれてこの方、身長も体型も自信も平均より遥かに大きかった。そのせいか、小さいという存在に異常と言えるほど憧れを抱いていた。特にへペみたいな子供のような身長の人を見るや、すぐに歩み寄り、怖がられて逃げられるを日々繰り返している。

 当然、ピリティアがスザクのターゲットになっているのは言うまでもない。「くるじい」とピリティアは悲痛な声を出しているにも関わらず、スザクはピリティアの全身をごつい手で撫で回していた。


「ところでへぺは?」

「僕は今日は休業中です!」


 ドアを蹴破るような声でへぺは叫ぶ。へペはスザクが来る時は自分の身を守るために部屋から一切出ないことを心がけている。


「なんだ、今日もお触りはなしか……」

「ばなしでぐだざい」

「ああ、ごめんごめん。つい力が入ってしまってな」

「げほっげほぉ! ディラーノさん、この人はなんなんですか?」

「前から話していてた【火炎獅子】のスザクだ。お前の両親の特徴とか教えてやってくれ」

「特徴……ですか。どっちかというと小柄で、お父さんは私と同じような目をしているはずです。お母さんは髪が茶色で長くて……ちょっと小太りです!」

「なるほど、わからん! 情報が足りない! ダンジョンっていうのはディラーノならわかると思うが、日々作り変えられていて同じ階層でも冒険者と出会うときもあれば出会わないときもある。しかも同じ場所だからといって、すれ違っていることもある。それと、私が出会った男女の組み合わせだと水魔使いのやつぐらいしか覚えていないな」

「そんな……」


 落胆するピリティア。両親を一番知ってそうな人物が知らないと一蹴。これは再び探し直しから始めることを意味していた。


「本当にそいつは深層に行っているのか? 多分二人だろ? 早々に追い返されているのが関の山じゃないか? 意外とこの街の中にいたりしてな」

「だって、お父さんは鑑定でいいエンチャントが出たから深く潜るって……」


 ディラーノは「あっ」と声を漏らす。ピリティアの言葉を聞き間違えていた。


「……深く行くのは、その二人に対しての意味だと別に深層に限らないのか」


 例えば普段より、一階層降りるだけで深く潜ることになる。それが浅い場所なら、スザクが探索している深層とはかけ離れている。出会うはずがない。つまり、もともとスザクが情報を持ってくる可能性はゼロに近かった。

 申し訳ないことをした、とディラーノは顔を伏せているが、スザクの様子は異なった。先のピリティアの発言で気になった箇所があったようだ。


「いや、ちょっと待て。鑑定をしたならこの街のどこかの鑑定屋に行けばピリティアちゃん、だったっけ? ピリティアちゃんの両親の情報が拾えるかもしれないな」

「あ、それはそうですね!」

「もしやディラーノはそんなことも気づかなかったのか? 随分、ボケっとしているな」

「うるせえ! こちとてお前の情報が全てと思っていたんだよ」

「信頼してくれるのはありがたいが、たまにはお前自身も動かないとな。というわけで、ピリティアちゃんが困っているんだ。この街の鑑定屋から情報を集めてこい。それまで私はピリティアちゃんと風呂に行ってくるからな!」

「え、風呂?」

「風呂といえばこの街の大浴場だろ? 私はあそこが大好きでな、と決まれば早速ゴーだ!」


 スザクに腕が掴まれた時点でピリティアの拒否権はなくなっていた。後は引っ張られるがまま外に連れ出された。


「同業者に話をするのとかは、あまり気がのらないけど……仕方がないか」


 ディラーノはスザクに言われたとおり、鑑定屋で話を伺うことに。

 この街には鑑定屋はディラーノの店を合わせて五つ。多分全てで、【火炎獅子】を上玉の客にしていることでやっかみを言われる。これがいかにめんどくさいかはこれまでが物語っている。

 ディラーノは全く気が乗らないが、無理やり足を動かすのであった。


 しかし、一つ誤算があった。

 ピリティアの両親はこの街の鑑定屋で必ず鑑定をしているという前提。

 まさか、どの鑑定屋でもピリティアの両親に繋がる情報を得ることができないとはディラーノは思いもしなかった。

 急にディラーノの胸が誰かに握られたように不安になる。ディラーノもスザクももっと肝心なことを勘違いしているの可能性がある。


「もしかして、ピリティアはこの街に住んでいない……? ダンジョンも違っていた?」


 大浴場から帰ってくる二人を、ディラーノは考えを張り巡らせながら待つことにした。

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