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少女は自分を鑑定してほしいそうです。3

「いらっしゃいませー! 未鑑定品ありましたら、鑑定しまーす! いらっしゃいませー! あ、鑑定ですね。こちらからお入りください!」


 街の中でも異彩を放つほどの大きく明るく元気な声がディラーノの店から上がる。その声の主は昨日から鑑定士見習いとなったピリティアのものだった。

 ピリティアは当然鑑定士の資格を持っておらず、鑑定をしたことすらない。任せられる仕事と言ったら店の前の声出しぐらいだったが……。

 ディラーノから見えるピリティアは背筋をピンと張っていて、恥ずかしがる素振りを一切見せない。本人曰く、初めて声出しをしたと言っているが、適任と思えるほどの声量と声質と度胸がある。

 どうやら、声出しが思いの外性に合っているらしい。しかも、ピリティア効果で他の鑑定屋に取られていた客さえも、なぜかディラーノの店を利用する始末。久々に鑑定の仕事が忙しくなっていた。


「今、鑑定中だから、そこの椅子にでもってもう椅子が埋まっているか。今、六人待ちなんで、よかったら名前を。はい、ヤードさん。順番を取っていますので、しばらくほかをぶらついててもいいですよ」


 普段ならゆっくり鑑定しているところだが、そうも言っていられない。ディラーノは汗を拭いながら、持ち込まれた未鑑定品を次々とスコープで覗き込む。


「これは混色……か? 赤、橙……白。……ヘペ、赤3,橙1,白5半の混色で検索してくれ!」

「はいよー。ちょっと待ってね―」

「んで次は、赤……これはわかりやすいな、身体能力を上げるエンチャントか。残念だけどLv2相当だな」

「すっごいなディラーノちゃん、どこで拾ってきたの、あの子」


 常連の冒険者が嬉しそうにディラーノに声をかける。はは、とごまかすように笑いながらディラーノは答える。


「まあ、縁があっただけで変な邪推しないでくれよ。どうも両親がダンジョンで行方不明らしく、まあそんな感じだ。ここ最近で夫婦の冒険者が深層に言った話なんか耳にしたり……?」

「夫婦の冒険者はそんな多くないからなあ。もし見かけたら教えるよ。それで、本当のこと言えば、どっかで買ってきたとか……」

「あのなあ、奴隷とかはこの国では違法だぞ。奴隷商の摘発とか、時たま情報が回ってくるけども、実際に買ったりしないし、そもそも買う金がない」

「またまたー、こんなに繁盛して金欠アピールとか、嫉妬した冒険者に店を潰されちゃうよ?」

「あー、怖い怖い」

「ディラ、当たりだよ―。上級を一歩かじったエンチャントだよー。【覇気覇気】だね、Lvは僕じゃあわからないから、きちんと測ってね―」

「おやおや、鑑定料が上がってウハウハね」

「お互い様だろ?」


 その後、閉店までひっきりなしに続く客の波は続いた。鑑定士ている時は集中しすぎていたのか、疲れは微塵も感じていなかったが、いざ看板を下ろすとディラーノは店中に響き渡る程の大きいため息を吐いてしまった。

 ディラーのは昼と晩が一緒になった食事を取りながら、今日の売上を確認する。不意に笑みが溢れる。


「記録もんだな、これは」


 さすがに【火炎獅子】が来る日の売上は他と一緒にできないためそれは除いているが、それでもオープンしてから六年間で最大となった。どうやら、ピリティアはこの店を次のステップに引き上げる何かを有しているのかもしれない。

 そんな初日から大活躍した鑑定士見習いはというと、張り切りすぎたのか疲れ切った表情を見せていた。


「ご飯がー、おいしいですー」


 ピリティア呆けた声を出す。体をしゃきっと維持するの力すらないのか、顎をテーブルに乗せる始末。ディラーのにとっては二人目の問題児である。


「もう、飯食ったら寝ろ。明日はもし疲れてたら休んでもいいぞ」

「私、がんばりますー。でも今日はもうがんばりませーん」

「僕は今日疲れたんで明日休んでもいいんじゃないんですよね?」


 一方、へペは食卓から外れて専用のふかふかの椅子に埋もれながら、またわがままを言う。当然ディラーノがこれを許すわけもなく、


「お前はだめだ。これから未識別のエンチャントの解析があるだろ」

「珍しく繁盛すれば未識別……こりゃもう店は閑古鳥が鳴くぐらいでちょうどいいんじゃないかー」

「馬鹿言うな、儲かることはいいこと尽くめなんだよ。にしても【火炎獅子】が来たときもまた、未識別のエンチャントが紛れると思うと、先に済ませておかないと後々めんどくさいことになりそうだな」

「めんどくさいことになることは同感、でも今日やるのは、はんたーい。明日で良くない?」

「良くない。ほら、飯を食ったし支度しろ」


 ディラーノの言葉にへぺはイヤイヤ身体を起こす。そして壁伝いにディラーノの方に歩いてきた。


「ディラーのさん、未識別のエンチャントの識別ってなんですか?」

「説明が長くなるんだったら、説明できるが、どうする?」

「私、鑑定士見習いなので、教えて下さい。でも、途中で寝ちゃったらごめんなさい」

「ディラ、こいつ難しい話をエッセンスとして寝るつもりだから、話さないほうがいいぞ」

「じゃあ、話す代わりに寝たら小突くからな」

「わぁお、ディラは暴力が好きだねえ」

「うるせぇ、この減らず口野郎!」


 ディラーノはへペをいなしつつ、受付から一つの未鑑定品を持ってきた。それは柄の部分が欠けているみすぼらしい短刀であった。刃の部分も黒いサビが付いており、物を切ることはできるだろうが思うようには切れなさそうな成りをしている。試しにと、ピリティアの前にあった果物を手に取り、ゆっくりと刃を食い込ませた。ディラーノは慎重に、慎重に短刀に体重をかけると果物の皮が小さく悲鳴を上げながら割かれ、刃先が果肉に到達した。そして果物を短刀の方に押し上げると、真っ二つに切れた。

 まるで新品同然の刃物で切っているかのように滑らかに切断された様を見て、ピリティアはただ目を丸くさせた。


「恐らくだが、物自信を強化するエンチャントが付与されている。このエンチャントが現在、データベースに登録されていないため、未識別のエンチャントってわけだ」

「……データベース?」

「そう、データベースだ。鑑定は、エンチャントから発生する霧を視認し、過去に検証されたエンチャントと類似した霧かどうかを調べることで行う。類似したかどうかというのは、ヘペが普段いる部屋の中を見ればわかるが、データベースはすべて本になっている。その本に、先人が調査、検証したエンチャントの霧のパターン、効力が記されているんだ」

「じゃあ、仕事中に叫んでいた色っていうのは、エンチャントから出る霧の色のこと?」

「ピリティアは察しが良いな。俺とへペはこの店を開ける前からの知り合いなだけあって、あんな風に言葉だけで伝えることができるんだ」

「そして、僕がその言葉を聞いて、データベースから該当するエンチャントを見つけるってわけ。でも、短刀だったっけ? これは青系統と赤系統の混色の霧で、どうにもデータベースに引っかからなかったんだよね。だから未識別のエンチャントってわけ」

「なるほど、わかった気がします。となれば、その短刀を明日、エンチャントを解析してくれる人のところに持っていくってわけなんですね」


 ピリティアは完全に先を呼んだつもりで答えた。が、へぺが即座に嘲笑う。


「エンチャントに最も詳しいのが鑑定士なんだから、解析してくれる人なんて鑑定士以外にいるわけないじゃん」

「え、ってことは?」

「俺とへペがこれから検証を重ねてこのエンチャントの効能を測定するってわけだ」

「あーあ、僕これ嫌いなんだよね。単純にめんどくさい。一応チェックする項目はあれど、身体に影響があるのか、物体に影響があるのか、良い方、悪い方とか、地道に調べるのがマジで大変なんだから」

「どうするピリティア? ここまで聞いてこの後、手伝おうと思ったか?」

「いや、今日は休ませてもらいます」

「あっそ、じゃ、おやすみ」


 いやみったらしくへぺが言い放つと、ピリティアが舌を出して挑発し返す。しかし、へペが全く反応をしなかったため、ピリティアはすねた様子で寝室がある二階へと駆け上がっていった。


「お前は子供じゃないんだから、ピリティアと張り合う必要はないだろ……まったく」

「しょうがないって、あいつのせいで今日はしんどかったし。僕は最初っからあいつのことは協会とかにぶん投げる案件だと思っているから。そこんとこよろしく」

「はいはい、よろしくよろしく。じゃあ、さっさと取り掛かるか」


 ディラーノは短刀を抱え、店の地下へと降りていった。へペも壁によりかかりながら後を付いていく。

 二人が地下から出てきたのは、次の日の朝だった。

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