女聖騎士ライト・ヌーム その3
俺と女聖騎士は町長の屋敷へと向かった。
道中、通り抜けなければならいのはダンジョン近くの街だが、あそこには今魔王の娘がいるんだったな。
面倒な事になるかもしれないから、屋敷に到着するまでは出くわさないといいんだが。
「ところで、聖騎士様。どうして、この様な田舎町に?」
「無論、ここの守護を任されての事だ。何、私一人だけで不安になるのも分かるが、何れ実力を見せる機会があればその考えも改まるだろう」
「無粋な質問でしたね、失礼致しました」
確かに、本人が懸念する通り強そうには見えないなあ。
緑を基調とした服の上に軽鎧を装備、金髪の長髪をなびかせる凛々しい姿で、美しさこそ聖騎士なんだが。
鎧のおかげで胸の大きさは分からないが、動きやすいようになのかスカートが短く、太ももが眩しい。
「田舎町にしては随分と賑わっている様だな」
「これもダンジョンのおかげです。ダンジョン目当てで集まった冒険者たちがダンジョン近くのこの街にお金を落としますので、この辺り一帯だけは都会にも劣りませんよ」
「成る程、ここへの赴任が決まった時はどうしようかと……いや、騎士など必要なのかと思ったが、理解した」
この話が本当なら、こいつ自身は何も知らされずにいきなりここに飛ばされた事になるな。
いや、俺たちを町の人間を油断させるために、故意に田舎町に飛ばされた不幸な聖騎士を装っているのかもしれない。
油断は禁物だし、もっと探りを入れなければ。
「あっ、アイスくんだ。やっほー、聖騎士さんは見つかったの?」
街にいる魔王の娘に早々に見つかってしまった。
だが、見つかってしまった以上は仕方ない。
むしろ、俺がいる時で良かったと前向きに考えるか。
「そちらは?」
「あっ、いや、彼女は私の友人で……」
「そうですか。初めまして、お嬢さん。私の名はライト・ヌーム。今日からこの町に赴任してきた聖騎士です」
「えっ、はい。こちらこそ初めまして、わたくしはエイラムと申します。以後お見知りおきを」
女聖騎士の突然の挨拶に、魔王の娘は戸惑っている様子だ。
「それじゃあ、エイラムさん。私たちは先を急ぎますのでこれで」
「待って! お屋敷にお戻りになるのでしたら、わたくしもご一緒致しますわ」
「あのー? 一緒というのは?」
「……長くなりますので、道中お話し致します」
魔王の娘め、何でまたあの変な言葉遣いに戻っているんだよ!?
まさか女聖騎士の前で緊張とかしているのか?
だが、そんな事は関係なく俺たち三人が同じ屋根の下に暮らす事になるわけなので、女聖騎士にはちゃんと説明はしないと。
「そうでしたか、エイラムさんも町長さんのお屋敷に滞在していると」
「はい、町長である私の父とエイラムさんの御父上が商業上の取引をしていまして、その関係で私たち二人も仲良く」
「今はこの町を更に発展させるために、お父様とその娘であるわたくしがお手伝いをしていますの。その関係で、わたくしも現在はこの町に滞在しているのですわ」
嘘は言っていない。
真実の中に隠し事をするのは、いわば常套手段の一つだ。
これで、ひとまずは魔王の娘の存在を聖騎士に感づかれる事もないだろう。
「しかし、本当に私もお屋敷でお世話になってよろしいのですか? エイラムさんもいらっしゃいますのに」
「心配ご無用。今の屋敷は元より客人を泊める事を前提として大きくしたものです。ですので、むしろ使って頂く方が建てた甲斐があると、父もそう思っているはずです」
「成る程、そういう事でしたら私も安心してお世話になれます」
やれやれ、本当は監視下に置くために泊めるんだけどな
だが、その事には微塵も気づいていないようだ。
──まあ、それは魔王の娘も同様なのだが。
色々と他愛も無い話をしている内に、俺たち三人は町長の屋敷に着いた。
俺は、予め準備させていた部屋に女聖騎士を案内する。
「では、何かありましたら、何なりとお申し付けください」
「そんな。町のご厚意で泊めていただけるだけでも十分です」
「いえいえ、聖騎士様なのですから遠慮する事は御座いません。それに、来たばかりでこの町の事もよくわからないでしょう。ですので、お出かけの際にはお声がけください。私がご案内致しますので」
聖騎士様に勝手に出歩てもらっても困るからな。
見た感じの性格なら勝手に外に出る事は無し、そうじゃなくて何かを隠しているのならば、勝手に出歩く事で本性を暴ける。
……と、言ったところか。
「それでは、私は一旦これで。夕食時には父である町長にも挨拶させますので、宜しくお願い致します」
女聖騎士の部屋を出た俺は、魔王の娘に報告……もとい、様子を見に行く事にした。
「まったく。何なの、あの女聖騎士? 緊張しちゃったよー」
「それで、魔王の娘として女聖騎士の身柄はどうしたい?」
「もうちょっと泳がせて様子見だよね。今のままじゃあ、まるっきり無害だし」
そうだな。
あの女聖騎士が自警団のところに動こうとするまで、もう少し待ってみるか。