女聖騎士ライト・ヌーム その1
魔王の娘がやって来て一週間が過ぎる。
彼女は持ち前の明るさと行動力で、あっという間にダンジョン近くの街の人たちと仲良くなってしまった。
ここ数日は一人で自由気ままに外出していていて、俺の方も楽になる……はずだった。
「聖騎士がこの町に派遣される!?」
俺と町長である父上は突然の知らせを受け、驚きを隠せなかった。
「お、お、お、落ち着けアイス。聖騎士団に魔王の事がバレたなら、もっと大挙してくるはずだ」
「で、ですが父上。ダンジョンの事を聖騎士に探られれば、何れ魔王にまでたどり着くんじゃあ?」
「そ、それは大丈夫だ。町の人間でも魔王について知るものは少ないし、何よりダンジョンを探索している冒険者にバレていない! 心配には及ばん」
──確かに。
冒険者にバレていないのならば、聖騎士に魔王と町が結託している事もバレやしないか。
気がかりがあるとすれば、魔王の娘がこの町に居る事くらいだが、彼女も馬鹿じゃないし心配ないだろう。
「では、父上。私は魔王の娘に事情を話して、こちらでできる限りの対策をします」
「そうか、聖騎士の方はとりあえず俺が何とかしよう。街に来た詳しい目的とかが分かれば、追って連絡を入れる」
今はまだ聖騎士の目的が分からず、迂闊に動けない。
だが何れにせよ、魔王関連の事が聖騎士にバレれば一大事。
正義の名のもとにダンジョンどころか町ごと消されるのは目に見えている。
──気を付けなければ。
俺は聖騎士が派遣される事を魔王の娘に伝える。
だが、彼女から返って来た返答は俺からすれば意外なものであり、ある意味で魔王の娘らしいものであった。
「聖騎士? お父様の計画の邪魔になるのなら、消すしかないじゃない」
「いやいや、消したら消したで怪しまれるって」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ダンジョン探索に失敗して死んだ事にすればいけるって」
そんな馬鹿な!?
と思ったが、確かにダンジョンならば人の一人や二人どころか、十数人の小隊が全滅しても理屈は通るのか。
……便利なものだな。
「まっ、消すっていっても最後の手段で、まずは泳がせて様子を見なきゃ。それと、私も興味あるから会える様にセッティングお願い」
「はあ……わかったよ、エイラムさん」
はっきり言って、聖騎士と魔王の娘は会わせたくはない。
しかし、魔王と町が結託し続ける以上は魔王の娘に逆らう訳にはいかないのもまた事実。
町長の父上は難色を示すだろうが……二人を会わせないわけにはいかないか。
魔王の娘が聖騎士に会いたがっている事を父上に伝えようとしたところ、とんでもない厄災が俺に降りかかる。
「朗報だ。派遣されてくる聖騎士はお前と同じくらいの年齢の若い女一人。どうやら、バレたのでも偵察でも無さそうだ」
「? 何故偵察では無いと分かるのですか、父上?」
「本気の偵察ならば、危険だと分かっている任務なのに二人以上で来ないのはおかしい。おまけに女で聖騎士となると優秀な上に貴重な存在だ。なおさら、一人で危険な任務に付けたりはしないはずだ」
要は、聖騎士側はこの町を安全な場所だと思っている訳か。
少なくとも魔王なんて存在とは無縁の地だと。
「まあ、そういう事で一先ずは安心なのだが、念には念を入れて聖騎士側の目的を探りたい。そこで、派遣される女聖騎士と年齢が近いお前に、彼女の面倒を見てもらおうと思ってな」
「……は?」
「それなりに探りを入れろ。そして、何かわかったら報告するんだ」
何でそうなるんだよ!?
魔王の娘に加えて、お偉い聖騎士様の面倒まで俺が見ろってか!!
まるで厄介事を片っ端から俺に押し付けているみたいである。
だが、自分が適任だし他に任せられないしで、これも仕方がないと自覚できるのが悔しい。
「……わかりました」
「何事も無ければ聖騎士は明日にでも到着する。頼んだぞ」
俺は、再び魔王の娘の部屋に行き、女聖騎士が無害そうな事と、明日彼女に会う事を伝える。
「成る程ねえ、アイスくんが私に加えて女聖騎士の面倒を見ると」
「……それで、女聖騎士は今のところ無害そうなんだけど、それでも会いたいのか?」
「当然! 私の政略結婚相手に他の女が接近するなんて気になるじゃない。隙あらば町から追い出さないと」
──政略結婚の話、その場の冗談じゃなくてまだ生きていたのか。
しかしながら、町から追い出すというのは悪くないアイデアだな。
今のところ無害とは言え、ひょんなことからダンジョンの魔王の繋がりに感づかれても困る……か。
追い出せるなら追い出した方がいいに決まっている。
「そうだな、念のためにも女聖騎士は追い出すか」
「おっ、いいねえ! 乗り気だねえ! 二人で頑張ろう!」