魔王の娘エイラム その5
つまり、魔王の娘が街の経営に直接介入するって事か?
そして、それを俺が手伝えってか!?
「それは……俺なんかよりも町長の父上に直接話した方が……」
「言ったよね? 仕事での私の発言は魔王の発言も同じだって。これはもう決まりだし、拒否権とか無いんだよ?」
ひぃーー!!
「つまり、私の仕事はダンジョンの街のレベルを調べて、必要に応じて上げる事だから。よろしくね、町長の息子」
「……こちらこそ」
「そ、そんな落ち込まないでよ。街のレベルが低いって言ってもこれから上げれば大丈夫なんだし、一緒に頑張ろう?」
いや、落胆したのはそこじゃないんだけど。
だがまあ、今すぐに町の危機ってわけじゃないなら、よしとするか。
「話を戻すね。街のレベルを上げるって言っても、冒険者の居心地が良くなるようにするのが主なの」
「って事は、冒険者が喜ぶ様な施設をもっと作るって事か?」
「そういう事。冒険者がお金を落としたく施設があれば街の経済は潤う。街の収益が上がれば街をもっと発展させる事ができる、そして……」
「そして……?」
「冒険者は街に落とすお金を稼ぐためにダンジョンの攻略を頑張るってわけ」
成る程なあ。
街のレベルってのはそういう事か。
「ダンジョン近くの街が儲かれば、この町全体の収入も増えるんだよ。だから、町長の息子が頑張った分だけ町も潤うんだし、町長の息子も元気出そうよ?」
「ああ。俺、頑張るよ」
「うん! 一緒にガンバだよ!」
冒険者を頑張らせる餌を用意するために、町の発展に餌に俺たちのやる気を出させるってわけか。
明らかに乗せられているのは分かっている。
だが、今更逆らうわけにもいかないし、ここは素直に乗せられるしかない。
「それで、まずは何をやればいいんだ?」
「おっ、やる気だねえ。偉い偉い。それじゃあ、まずは街の道に散らばっている木の串を掃除しよう。食べ物のお店の近くにゴミ箱も用意して、街の道が汚くならないようにしなきゃ」
確かに、あの串焼き屋近くの道に散らばった木の串は気になるなあ。
それに、やはり冒険者も住むなら奇麗な街の方がいいだろう。
まずは小さい事から初めて、少しでも冒険者周辺の環境を良くするか。
「わかったよ。街道の清掃にゴミ箱の設置、街の人たちが行えるようにスケジュール含めて計画してみる」
「それじゃあ、お願い」
「それで、それが終わったら何をすればいい?」
「それは……」
「それは……?」
「これからの事は、料理を食べながらじっくり考えます。あっ、これ美味しい!」
おい!
こんなので大丈夫かよ?
「まっ、まあ、今日はまだ初日だし、急ぐ仕事じゃないし、私も地上の生活満喫したいし、もっと地上の美味しいもの沢山食べたいし」
「……今日のところはエイラムさんの就任祝いと言う事で」
「おっ、いい事言うね、町長の息子。よーし、今日はいっぱい食べるんだから。あっ、お姉さん。料理の追加注文お願い」
やれやれ。
魔王の娘と酒場でしこたま飲み食いして……いや、俺は食べるだけで飲んではいないが。
その後は他愛もない話をしつつで、気づけば夕方、そして夜になり、冒険者の来客も増えてきた。
「うんうん、いいねえ。冒険者の皆も楽しんでるよ。だけど、今のままじゃあちょっと狭いし、飲む以外に遊ぶものとかがあってもいいかも」
「ああ、確かに。町から予算を出して酒場の増築とか、数そのものを増やしてみようか」
目的が視察と言うのはこういう事か。
現場を見て問題点を分析し、改善案をその都度考える。
実際に見てみないと分からない事もあるとひしひしと感じるし、俺たちも見習わねば。
「ああもう、酒もご飯も美味しいし、活気もあるしで地上最高! このまま、ここに住みたい!」
「まだ一日目だし、いささか早計じゃないか? いいところばかりじゃないし、見てないところも沢山あるだろ?」
「いいのいいの! 住みたいったら住みたいの!!」
もしかして酔っている……の……か?
「そうだ! 町長の息子と政略結婚すればいいんだ。うん、政略結婚。こんな美味しいご飯のある地上を滅ぼすのは勿体ないよ」
魔王の娘め!
政略結婚とか、いきなり何言ってんだこいつ?
いや、それよりも、地上を滅ぼすとか何さらりと恐ろしい事を!?
「それで、町長の息子はどうなの? 私と政略結婚したいの? したくないの?」
どうする、俺!?
政略結婚で魔王側と血の同盟を結ばなければ滅ぼすってか!?。
俺の回答次第で、この町……いや、この世界の危機だぞ。
「俺は……」
「まっ、今すぐには決められないよね? いいよ、時間をあげる。やっぱり私も、地上の事もっと知っておきたいし、それまでは保留にしておいてあげる」
……た、助かった。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうか、町長の息子」
「あの……」
「ん? どうかした?」
「もしかして、俺の名前……覚えてない?」
「そ、そんな事ないって。町長の息子の名前は、えっと……」
「アイス・アルデヒドです」
「そうそう、アイスくん。ちゃんと覚えてたってばー」
不安……だなあ。
とまあ、こんな感じで俺と魔王の娘との第一日目が終わったわけだが。
この先、どうなる事やら……