魔王の娘エイラム その2
俺は魔王の娘を連れて街へと向かった。
まあ、ダンジョン近くの街は屋敷から歩いたところで大した距離ではない。
仮にも客人相手に徒歩移動もどうかと思ったが、そもそも昼間の街は人通りが多くて馬車だと動き難いしな。
「あっ、あのー、それで町長の息子さん? ちょっと、よろしいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
二人で歩いての移動中に突然、向こうから声をかけてきた。
そういや、彼女から話しかけてきたのはこれが初めてか。
「わたくし、今回は視察目的なのですけど、できれば、その、周りの人たちには私が視察にやってきた事、魔王の娘である事は内緒にしてほしいのです」
成る程、覆面調査と言うわけか。
服装も布の服に短めのパンツで、その上にローブを着ていて魔法使い系の冒険者と大差ないし大丈夫だろう。
魔法のゲートから出てくるなんて出現方法でなければ、魔王の娘だと俺も分からなかっただろうな。
「かしこまりました。街の者も魔王の事について知っているものは殆どいないので、むしろその方が助かります」
「そ、そういう事ですので、頼みましたわよ」
それ以降は、特に会話も無かった。
道案内をするために先頭を歩いていた俺は、時より魔王の娘がはぐれていないかを確かめるために軽く振り向く。
彼女はピクニックに行くかの様な上機嫌に見え、屋敷内の時と同じく時より辺りを見回していた。
ダンジョン近くの街に到着した。
だが、来てみたものの何処に案内すればいいのだろうか?
街と言っても冒険者が集う酒場に泊まる宿、後はダンジョンからの戦利品を買い取る商店くらいしかないが。
「町長の息子さん、まずは武器屋さんに行きますわよ」
武器屋……か。
服装は如何にも冒険者っぽいけど、武器も揃えて更に見た目を整えるのか?
だが、魔王の娘をよく見ると既に剣を装備しているので、そういうわけでも無さそうだ。
「かしこまりました。しかし、何故武器屋に? 何か武器をお買いに?」
「違いますの、武器を売ってお金を作るのです。わたくし、地上世界のお金を持っていませんので」
それは盲点だった。
確かに新天地で現金を作るなら、何かモノを売るのが手っ取り早いか。
「失礼、そうでしたか。となると、その剣をお売りになるのですか?」
「これはダメーっ!! ん、ん、この武器は人間にはまだ早すぎますの。で、ですから駄目で御座いますの」
明らかに動揺している上に、何だか言葉遣いも更に怪しくなってきたなあ。
「ちゃんと売るものは予め用意してありますし、これも視察の一環で御座いますの」
と言って彼女は装備している大きめのショルダーバッグを指差した。
どうやら、武器屋に売るものも含めて、この中に色々と入っていそうだ。
とにかく魔王の娘の要望通り、俺はダンジョンの戦利品を買い取っている武器屋に案内した。
カウンター越しに店員が「いらっしゃい」と俺たちに挨拶をする。
そして、魔王の娘がその店員を見るや否やそちらに向かった。
「こんちは、にぃちゃん買い取りお願い」
「わっかりやした。それで嬢ちゃん、どれを買い取れば?」
「待って、今カバンから出すから」
おいいいいぃ。
今までの怪しい言葉遣いは何だったんだーー!?
流暢に喋っているこっちの方が素なのか……?
「んー、これなんだけど、いくら位で売れる?」
「えっ、嬢ちゃんがこんな珍しく高価な武器を!? て、店主に確認するからちょっと待っててくれ」
……高価な武器を売るのも視察の一環なのか?
これで店側が失礼な対応をして……なんてのは勘弁してほしいところだが、どうしよう!?
と、俺が勝手に冷静を装いながら内心あたふたしていると武器屋の店主が奥から出てきた。
「うーん、確かに本物の様だが、本当にこれを嬢ちゃんが手に入れたのかい?」
「そうだけど、どうかしたの?」
「いや、これを手に入れるくらい強い冒険者なら顔くらい覚えているはずなんだがなあ」
武器屋の店主さん、無茶苦茶怪しんでいるじゃねーか。
無理もない、今日ここに来たばかりだし、魔王の娘だし、何か高価な武器持ってきちゃったみたいだし。
どうする? この場は俺が取り次いで事無きを得た方がいいのか?
「おや、そこにいるのは町長の息子さんじゃないか」
「ど、どうも」
「もしかして、この嬢ちゃんは坊ちゃんの連れなのかい?」
「そ、そうですが」
考える前に向こうから来たか。
しかし、何と説明すれば?
魔王の娘だってのは内緒にしなきゃいけないし、ただでさえ怪しまれているから迂闊な事は言えないし。
「えーっと、何と説明すればいいか、その……そう、彼女は父の取引先の娘さんなんです」
「そうそう、私のお父様と町長さんはビジネスパートナーなんです」
「それで、その関係で私が彼女を連れて街を案内してまして」
……これで、大丈夫かな? 怪しまれていないかな?
「成る程、そういう事か。町長の取引先ならば、珍しく高価な武器を持っているのも納得が行く」
ホッ。
「疑って悪かったよ。てっきり偽物や盗品なんかじゃないかと心配したが、坊ちゃんの紹介なら安心だ。それで代金だが、これでいいかな?」
「店主のおっちゃん、ありがとう」
「いやいや、こういう美味しい商談は大歓迎。また頼むよ嬢ちゃん」
こうして、魔王の娘は無事地上世界の現金を手に入れ、その一方で俺は軽い心労を覚えて店を出た。
一応上手く行ったと思うんだが、これ、視察の一環なんだよなあ?