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老舗温泉旅館を救え!

作者: しいたけ

 創業50年の歴史を誇る老舗温泉旅館『鳴動の湯』


 三代目女将として旅館を切り盛りしている湯上春子は、今日も帳簿を見ながら深いため息をついていた。



「お客様が来ないわね……今月も赤字よ……」


 人件費も切り詰め社員はギリギリ、料理も設備もギリギリの旅館にこれ以上削れる物は無く、最早閉館も時間の問題となっていた。


「私の代で潰すわけには…………でもお客様が来ないと……ねぇ?」



 春子は社員を集め緊急会議を開いた。


「このままでは先代に申し訳ない。何とかして旅館を賑わせたいのですが、何方か良いアイディーアがあれば何なりとお願いします!」


「う~む……」


 頭を捻り、互いに顔を合わせるもアイデアの一つも浮き出ない社員達。時間だけが刻々と過ぎてゆく……。



  ──ブーッ


「あ、宅配の人が来たわ」


  ──ガラッ


「ちわー! 食材お届けにシェケナしましたー!」


「はいはい、いつもありがとね」


 それは鳴動の湯に新鮮な食材を届けてくれるスーパーの社員だった。チャラい格好をしておりとても真面目そうには見えないが、彼は真面目ではない。


「あれ? 皆集まってどうしたんですか?」


「……お客さんが来ないから皆でアイデアを出し合ってるのよ」


「そいつはシェケナな問題ッスね……で? 何か思い付いたんですか?」


「…………」


 春子は無言の返事をした。下を向き俯く社員達。このままで彼等は無職になってしまう。


「なら、俺からシェケナ良いですか?」


 配達員は指を立てニヤついた表情で春子を見つめた。




「女将と混浴にすればメッチャ来ますよ!!」



「は?」


 春子は耳を疑った。バッと後ろを振り向くと、社員達が春子の体を上から下へと品定めしている視線が刺さり、思わず体を隠すように捻った。


「そ、そんなの出来るわけ無いじゃない……!!」


 春子は配達員に声を荒げた。しかし配達員は(彼なりに)真面目な顔で作戦を出した。


「何も裸じゃなくても良いんですよ。服着たまま混浴するんです。逆にそっちの方がシェケナじゃないですか?」


「た、確かに……!!」


 思わず頷く社員達。


「こんなオバサン相手に誰が来るのよ!!」


 春子はアラフォーだった。


「手始めに俺が配達先で言いふらしますよ。温泉に入ったときに暇すぎて女将も一緒に入ってくれたって……」


「クレーム来るわよ!!」


「だから広告しないんです。旅館からも言いません。暗黙の了解でシェケナやるんです。それと、ソレを期待してやって来たお客さんだけにサービスするんですよ」


「成る程ねぇ……」


 春子の後ろでは社員達が腕を組み深く頷いている。


「トドメに温泉の効能をこれでもかと増やします。ジョークと分かる様な効能を並べ立てると良いですね」


「例えば?」


「旦那の浮気性……とか、ピーマンが食べられる……とか?」


「ああもう! いいわ! 全部採用!!」




 そんな訳で半分ヤケクソ気味な春子はとりあえずやってみることにした。


 温泉の効能をデタラメにしまくってSNSに載せると割とウケが良く、客足が一気に伸びた。


「凄い効果ね! これなら混浴しなくて済むわ~」


 旅館は一気に忙しくなり、人員も増やし慌ただしい日々が戻ってきた……が、所詮は一時凌ぎに過ぎなかった。



「……また暇になったわね」


 暫くするとSNSを中心とした口コミが落ち着き、若い人達が旅館に何度も足を運ぶわけも無く、リピート率は低く次第に客足は遠退いていった。


「やっぱり混浴ですかねー」


 影でコソコソと社員達が春子の混浴を仄めかしている。


「…………くっ!」


 春子は腹をくくった。



 そして鳴動の湯は女将と混浴出来るナイスな温泉旅館としてコッソリ噂が広まった。流石に着物では入れないため、シェケナが用意したチャイナ服やらメイド服を着て混浴したのだが、正直アラフォーの春子には混浴よりもメイド服の方が拷問に近かった。


「これならまだ普通の服の方が良いわ!」


 と、私服で混浴しだす始末。しかしこれもシェケナの作戦だった。混浴よりも辛いコスプレを提示することで、混浴をぼかそうとしたのだ。そして春子は見事にシェケナの術中にハマった。


 混浴サービスが始まり日帰りのオッサンが増え始め、春子も回数を重ねる毎に抵抗感が減り、混浴が日常となりつつあった。



「服を着てるから、案外平気なものね……お客さんにも専用の下着着て貰ってるから、別に丸裸ってわけじゃないし」


 混浴サービスはその後も続き、元々美人の湯で知られる鳴動の湯に長々と浸かっていた春子の肌は徐々に見違えるように若々しくなり、女将と言うより若女将的な見た目へ変貌した。



  ──ブーッ


「ちわー! シェケナな野菜持ってきましたー!」


「はいはい、ありがとう♪」


「……誰?」


 別人と化した春子に、シェケナは思わず野菜を落とすほどの衝撃を受けた。


「オーッホッホッ! 女将よ お か み ♡」


「シェケナッスねー! パリコレのモデルかと思いましたよ!!」


「そう? ならモデルになろうかしらぁ?」



 春子はパリコレに進出した。そして大人気モデルとして一躍有名になった!





 当然旅館は女将不在で経営が大きく傾き閉館となり、従業員は皆無職になった…………

読んで頂きましてありがとうございました!

シェケナな短編は他にも三作くらいありますので、適当に探して読んでみて下さい。


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― 新着の感想 ―
[一言]  温泉旅館に女将。これはもうそういうことなんだろうと容易に想像します。が、コスプレのまま湯に入る。実に斬新。入っている女将さんは熱いだろうな(真面目か)。
[一言] 傾いた旅館が復活しようとして無くなったのだ、これでいいのだ! 完全に予想外のオチ、この成り行き任せの放り投げ感がたまりません。
2020/05/01 20:50 退会済み
管理
[一言] >シェケナな短編は他にも三作くらいありますので、適当に探して読んでみて下さい。 最早様式美と化した雑な宣伝www 三作以上あった気がするんですけどw
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