7話 穴・粘膜3 ★
『E.N』の鎮圧後、私達は部屋の中の探索を行っていた。
「しっかし、この死体の数は尋常じゃないな…。とても工場内にこんなに従業員がいたとは考えられない。もしかして他の場所からここへ連れ込まれたのか?」
探索の最中、レンがそう呟き、リサも周りを見渡しながら頷く。
「そう考えるのが妥当かもしれないな。見れば死体達が身につけている衣服が様々だ。」
「でも一体どうやって…そうか穴だ!飲み屋街へと続いていた…!」
レンは目を伏せて脳信号映像化をチェックし、無人機の現在地の方へ走り出す。すると、飲み屋街で発見した直径1メートル程の穴が地面に空いていた。
「これだ…!きっとこいつから人間を捕まえてきてたんだ!…いや、そうなるとこの穴はどうやったら…」
「レン!上だ‼︎」
レンはリサの叫び声により頭上から巨大なナメクジのようなものが伸びてきている事に気づき、咄嗟に飛び退き回避する。上から伸びてきたナメクジは、床を破壊しながら地面に激突する。
「危ねェ‼人体活性化装置をダウンさせなくてよかった…!」
するとナメクジはすぐに顔を戻し、レンの方を向いて追撃し、レンはバックステップでそれを回避して壁の方へ後退る。
「んにゃろー…ん?」
レンは後退りをした方の壁が徐々に黄色く変色している事に気付く。瞬間、壁を貫いて別のナメクジが現れ、レンに襲いかかる。
「おわぁぁぁぁぁ⁉︎」
ナメクジに捕食されようとする刹那、レンは咄嗟に腰のボックスから電磁剣を引き抜いてナメクジに向かって投げつける。電磁剣が突き刺さったナメクジは身体をくねらせ、壁の向こうへと引っ込んでゆく。
「わ、我ながらナイス…‼︎」
「レン‼︎まだ天井のが…うわっ!」
私はレンに加勢しようとするが、壁や地面を貫いて新たなナメクジが次々に現れ妨害する。
「く…どうにか切り抜けて退避した方良さそうだな…カエデ‼カイト︎‼︎出口の確保を頼む!アカリは私と共にレンのバックアップ‼︎」
「了解!」
「…了解です。」
「分かりました!」
リサはカエデとカイトに出口付近の敵の処理を任せ、私を連れて銃でナメクジを退かせながらレンの方へ向かう。
一方レンは、退かせてもあちらこちらから現れるナメクジに苦戦を強いられ、ついに弾薬が切れる。
「あ!ちくしょッ‼︎」
それを見計らったナメクジ達は、一気にレンへと向かってゆく。だが、銃声と共に身体に穴を開けられ、壁の向こうへと引っ込んでゆく。
「レン‼︎大丈夫⁉︎」
「無事か⁉︎」
「アカリちゃん!隊長!助かったぜ…!」
「安心してるヒマはない!使え!」
リサは腰のボックスからマガジンを取り出してレンに投げて渡し、レンも素早く空のマガジンを排出して受け取ったマガジンを装填する。すると、再び壁や地面からナメクジが湧いて出てくる。
「来たな…!とにかく出口へ走れ!」
私達は出口の方向を遮るナメクジを撃ち抜きながらナメクジの群れを突破する。
「こっちこっちー‼︎急いでー‼︎」
出口付近でスタンバイしているカエデが私達に手を振りながら呼びかける。
その時、後ろから追ってきていたナメクジが粘液を吐き出し、地面に当たる。その飛び散った粘液が私の足にねばりつき、脚の動きを制限された私は地面に倒れる。それを見たナメクジ達は私の方に狙いを変え、一斉に迫ってくる。
「アカリちゃん⁉︎」
レンは私を心配して足を止めるが、リサはレンの背中を押して出口へ行かせる。
「私がなんとかする。アカリに注意が向いてる内に行け‼︎」
「りょ、了解っす!」
私は足を引っ張って粘液を引き千切ろうとするが、かなり強力な粘着力でなかなか抜け出せない。そうしているうちにどんどんナメクジが迫ってくる。
「くっ…!」
そこにリサが駆けつけ、私の脚を掴んで思いっきり引っ張り、粘液がぶちぶちと音を立てて千切れてゆく。すると、近くまで迫ってきたナメクジが私とリサを丸ごと捕食しようと大きく口を開ける。
「…させないよ。」
私達のすぐ側にまで迫ったナメクジ達は、カイトの正確な射撃により身体をくねらせて怯み、その隙に私はリサの肩を掴んで立ち上がる。
「すいません!隊長…!」
「気にするな。とにかく走れ‼︎」
「ハイっ‼︎」
私達はカイトの援護を受けながら出口まで一気に駆け抜け、出口をくぐり、カエデが素早く自動扉を閉める。
「どうにか間に合ったな。助かった、カイト。」
「すいません…助かりました…。」
私とリサはカイトに礼を言うと、無言で小さく頷き、
「…イージスに検索をかけたところ、この工場内には非常用の武装調達門があるようです…。」
武装調達門とは、運搬が困難な大型武装などを軌道エレベーターを使って運び出し、現場で戦っている内界防衛隊の元へ送り届けるためのハッチである。
「良し。ならば大型武装を調達できるな。」
「でもリサ先輩、攻撃当ててもすぐに引っ込んじゃう相手には何が有効なんですかねー?」
「そうだな…壁から出てきた頭を叩くと言うよりは、身体全体を外に引っ張り出せれば話は早いが…。」
カエデの問いかけにリサは頭を悩ませる。その時、私はあることに気づく。
「そういえば、死体に寄生した敵は脳に本体があって、そこから触手を伸ばしていた…。」
それを聞いたリサは、ハッとなって私の方を向く。
「…そうか!先程私達を襲っていたのは触手であって本体じゃないという事か…‼︎」
「あくまで推測なので断言は出来ませんが…もしそうだとしたら、死体達は天井からぶら下げられていた。そして、レンが最初にナメクジに奇襲を受けたのも上から。なら、本体は…」
「天井か‼︎」
すると、閉めた自動扉や周りの壁が、徐々に黄色く変色していく。
「ヤベッ!壁とか溶かせんの忘れてた!来るぞ‼︎」
レンの声と共に私達はその場から離れる。そして、壁を貫いて触手が現れる。
「カイト、武装調達門の場所は?」
「…向かって右方向の扉の向こうです。」
「良し。イージス!大型白兵戦装備と、壁を粉砕するアレを送れ‼︎」
『イージス、応答。簡易ゲートのため、一種類につき一つづつしか送れませんがよろしいですか?』
「上等だ!行くぞ‼︎」
リサの指示で、私達は右方向の扉を目指して走り出す。すると、壁を溶かして次々と触手が伸びてくる。
「後方は私達に任せろ!アカリ、レン!武装の回収を頼む!」
「分かりました!」
「了解っす!」
私達はリサ達に追手の処理を任せ、扉を開いて廊下の奥まで行くと、床に取り付けられたゲートが警告音と警告灯を発しながら開いており、中から3メートル程の高さの筒状の機械が飛び出し、側面のロッカーの扉のようなハッチが開いて武器が出現する。
「これだ!」
「よっしゃ!回収だ‼︎」
私達は機械に近づき、空のハッチの中にアサルトライフルと軽兵装のボックスを入れ、届いた武器を取り出す。
「すごい…電磁大剣だ…!」
「リサ先輩が言ってたアレってガトリング重火器の事だったのか!」
武装を回収し終えた私達はゲートを閉じて、戻ってリサ達と合流する。
「隊長!武器、持ってきました!」
「良し。アカリ、武器を交換してくれ。」
私はリサに電磁大剣を渡し、リサからアサルトライフルを預かる。
「私が道を作る。ついて来い!」
リサは電磁大剣で触手を切り払いながら進む。それに続き、私達は死体達と戦った部屋まで駆け抜ける。
「よーし‼︎ぶっ放すぜ!みんな離れろ‼︎」
そう言いレンは天井に向けてガトリングを構える。
「ブッ壊れろーっ‼︎」
レンはトリガーを引き、砲身が回転する。そして凄まじい速度と威力で弾丸が放たれ、天井の壁を破壊してゆき、その亀裂からドロドロとした粘液が溢れ出し、やがて天井が崩れ、巨大なクラゲのようなフォルムの物体が落下してくる。
「ハラショー、後は任せろ!」
リサは大地を蹴って落下してきた物体に向けて飛び上がり、電磁大剣を逆手に持ち替える。
「これで…終わりだッ‼︎」
そして、そのまま落下の勢いに任せて電磁大剣を思いっきり物体に突き刺す。すると、身体が沸騰するように泡立ち、直後、大きな音を立てて破裂し、身体を覆っていた粘液が飛び散る。
「やった…!」
「よっしゃあ!」
私とレンは歓喜の声を上げる。そして破裂の衝撃により吹き飛ばされたリサが私達の近くで着地し、立ち上がる。
「片付いたな。周囲を探索し、残りの『E.N』が居なければ撤退する。よく頑張ったな。」
「あのー…。」
「どうした?カエデ。」
カエデが不意にリサに提案する。
「多分これ…名案なんですけど…全部終わったらみんなでお風呂行きません…?」
カエデは先程飛び散った時に浴びた粘液を滴らせながら不快そうな顔でそう言う。リサは戦闘に集中していて気にしていなかったが、見渡すと自身含めて全員粘液まみれになっていた。
「…そうだな。」
その後、私達は工場内を探索して完全に『E.N』を鎮圧した事を確認し、後の事を処理班に任せて撤退する。初の実戦は緊張したし、危ない場面もたくさんあったけど、とにかく全員無事に帰還出来て本当に良かった。とりあえず、こうして私の初任務は幕を閉じた。
《視聴者プレゼント‼︎》
現場リサ(アリーサ・リャフェスカヤ)PNG素材!
コラに良し。スタンプ替わりに良し。
…いらないっすね。(ごめんなさい)
小話 リサの秘密
カエデ「ヤッホー!アカリ!このあいだの温泉気持ちよかったね!」
アカリ「うん!すごく良かった!」
カエデ「ところでさ…フフフ…実はさ、温泉に行った時、リサ先輩のすごい秘密を見つけちゃったんだよね!」
アカリ「リサ隊長の秘密…?」
カエデ「そうそう…お風呂あがりに自動販売機でね、『いちごミルク』を買って飲んでたの!」
アカリ「意外と甘党⁉︎」
終
[訂正]穴の大きさを60センチから1メートルへ変更しました。
視聴者プレゼントとかふざけた真似をして深く謝罪申し上げます。いつかみんなのちゃんとしたイラスト描きたい。